ソ連・東欧諸国の崩壊とどう向き合うか

新たな連帯運動の形成を訴える

 

@ 東欧社会主義諸国の劇的な崩壊とソ連の深刻な混乱

89年後半に始まった,東欧社会主義諸国の劇的な崩壊.それに続くソ連の深刻な混乱,中国の軍事独裁国家への変質など,一連の事態は,いわゆる「東側陣営」の消失という結果を産み出しました.

 一連の事態自身は「社会主義」政権がみずからの腐敗と堕落により自己崩壊していった結果であるといわざるを得ません.とはいえ,「社会主義」体制の崩壊が世界の進歩と平和の勢力にはかり知れない衝撃をあたえ,混迷をもたらしていることも間違いありません.

 一方,アメリカを中心とした資本主義国の支配層は,このことを以て「世界の冷戦時代は終わり,世界は一路平和と民主主義に向かい始めた」と大宣伝をくりひろげています.

 事態を複雑にしているのは,今まで私たちが持っていた世界情勢の枠組みが,一見役に立たなくなったように見えることです.しかしそんなときこそ,私たちが培ってきた科学的なものの見方が役に立つのです.

 

@ 「ポスト冷戦=一路平和論」と「新しい思考」の危険な役割

 注目されるのは,ゴルバチョフもそれに唱和して「世界はひとつ,米ソの協調こそが世界に新しい秩序をもたらす」という「新しい思考」をうたいあげていることです.

 「新しい思考」の危険な役割については,すでに一昨年の総会議案でも「ヤルタからマルタへ」という表現で指摘していることです.最近の特徴は,この主張がより具体化され,結局アメリカの根本的戦略のための道具となっていることです.

 たしかに米ソの対立を基本とする東西対立は消失しました.しかし対立の一方の主役であるアメリカは,動揺するどころか,ますますこれまでの力の政策に確信を持ち,「世界の憲兵」として野蛮な干渉を強めています.ニカラグア,パナマ,そしてイラク問題に見られた国連決議の軽視など,少なくともAALA連帯運動にかかわっている私たちには,アメリカが一路平和と民主主義の世界に向かって前進しているとはとても考えられません.

 ところがソ連は「協調」の名の下にアメリカに事実上追随するだけでなく,ニカラグア,エルサルバドル,アンゴラ,南アフリカなどではアメリカのかいらい政権を維持・復活させるための「露払い」の役割さえはたしています.さらにアジア・アフリカ連帯機構の総会などに米ソ協調路線を押しつけようとする動きも続いています.

 

A 「多国籍軍」のイラク侵攻を支えたソ連

 いわゆる多国籍軍は,アメリカを先頭とする資本主義支配層の軍隊でしかありません.その多国籍軍の,イラクへの武力侵攻を認めた1月の国連安保理で,ソ連は賛成票を投じました.このことは,米ソ協調の本質を示す象徴的な出来事でした.

 ソ連,中国を含めた安保理常任理事国は,アメリカの方針にはいっさい異議を唱えなくなりました.こういう状況の中で,国連の機能は変質の危機を迎えています.

 カンボジア問題に関して国連安保理常任理事5ヵ国が提案した解決策は,恥知らずなものです.それは,カンボジアを実効支配するヘン・サムリン政権を国連の管理下に置き,軍の武装解除までおこなった上で,殺人者集団・ポルポト派の復権をはかろうとするものです.

 このように具体的に情勢を見ていくならば,「冷戦構造」の終焉が世界に平和をもたらすどころか,ますます資本主義大国の横暴をつけあがらせる結果となっていることが,はっきりと見てとれます.それをはねかえす力は,私たち自身の団結と,世界の平和と進歩の勢力の連帯にしかありません.

 そのことを確信し,運動を大きくひろげましょう.

 

B 不正確な「南北問題主軸」論

 「一路平和論」とは別に,一部では東西冷戦時代の終焉を受けて,「これからは南北問題が世界の矛盾の主軸となる」という議論がおこなわれています.「東西から南北へ」という主張は一見分かりやすく思えます.とくにAALA連帯委員会のように発展途上国との関係が深い分野では,南北主軸論は受入れやすい議論です.しかし社会科学的に見れば,それは決して正確な考えではありません.

 たとえば,世界の反核運動の指導的な立場にある人物は,こんなことを言っています.「冷戦構造の消失により,核戦争と人類絶滅の危機は遠のいた.しかしイラクのように南北の対立の中で,戦争が暴発する可能性はむしろ強まっている.それは南北問題がより深刻化していくからだ.これからの平和運動は,南北格差をなくすことを目標としつつ,核だけでなく通常兵器を含む反戦・反兵器の立場にひろげて行かなければならない」

 一見革新的な意見にも見えますが,内容を具体的に検討して行くと,「一路平和論」とかなり似通った議論であることがはっきりしてきます.それらの共通点は,これまでの世界における進歩と反動の勢力の対決を,「東西対立」という図式に単純化していることにあります.

 

C 世界の進歩勢力の総体が歴史を動かしてきた

 たしかにアメリカのスパイ小説では,ソ連とアメリカが世界の支配をめぐって争っているように描かれています.しかし私たちはこれまでも,世界の進歩勢力は社会主義諸国にのみあるのではなく,資本主義諸国の労働者や市民の運動,発展途上国における民族解放の運動などが,総体としてアメリカを先頭とする帝国主義勢力と対決しているのだということを確信してきました.

 60年前に社会主義ロシアが誕生したとき,それは帝国主義に反対する勢力が作り上げた貴重な陣地となりました.世界の人民は「人民の祖国をまもれ」とソビエト擁護の闘争にたちあがり,それに成功しました.しかし,その時も今も世界の主要な支配者が帝国主義者である状況は同じです.

 社会主義国がその中で存在するのは,世界の進歩勢力の支援があってはじめて可能です.先進国における独占資本とのたたかい,発展途上国における民族解放のたたかい,核兵器のない平和で進歩的な世界を望むすべての勢力との連帯により,はじめて社会主義国はその意義と力を発揮し,自国の安定と発展を期待できます.

 

D 世界の進歩勢力の力を軽視することが「東西対決」論の原点

 ところが多くの社会主義国は,その根本的精神を忘れ,みずからを世界の進歩勢力の上に立つものとして位置づけました.つまり社会主義国こそが世界の進歩勢力の代表であり,社会主義国が勢力を強化していけば資本主義は危機におちいり,やがて世界が全体として社会主義へと移行していくと主張したのです.これが資本主義国の進歩勢力にも影響をあたえ,米ソ対決の図式的な理解ともあいまって「東西対決」論が生まれてくる根拠となりました.

 社会主義国の多くがみずからを絶対化する中で堕落し,自己崩壊していく中で,これまで「東西対決論」の枠組みにとらえられていた人の一部に,「今度は南北対決」とかんがえる人が出ても不思議ではありません.

 しかし核戦争の危険をもたらしている真の原因を,帝国主義の世界支配の野望の中にではなく,「東西対決」の図式の中でのみとらえ,「東西対決が終わったから核戦争の危機も遠ざかった」と考えるのは間違いです.

 イラク戦争の前線に多くの戦術核兵器が配備され,もしイラクが化学兵器を使用すればアメリカはただちに核兵器を用いて報復する決意だったことを,これらのひとたちはどう説明するのでしょう.

 

E 先進国と途上国の人々が闘いつつ連帯すること

 AALA諸国と連帯している私たちは,南北格差がひろがり南側諸国の矛盾がますます深刻化していることを知っています.そのなかで民族の解放を求める闘争が力強く芽ぶいていることも知っています.

 それとともに,先進資本主義国に住み平和と民主主義を求める私たちは,日本がこれらの国へ進出し現地での収奪を強めるために,アメリカに進んで協力し,憲法を蹂躙し軍国主義への道をあゆみつつあることを痛感しています.基幹産業が空洞化し,就業構造が不安定化しています.軍事費のための消費税アップがひそかに画策され,一方で社会保障費はきびしく抑制されています.そしていま小選挙区制をめぐる策動は重大な山場を迎えています.

 いま大事なことは,ソ連がだめになったから今度は南の民族解放運動に期待しようという発想ではだめだということです.私たちが身に迫る危険と力一杯たたかうことこそ,南側諸国の人たちを励まし,世界の進歩勢力を力づけることになるということです.

  (1990年度 北海道AALA連帯委員会総会への報告より)

 

@ 激動はピークを迎えた

91年,対米屈服をつづけてきたゴルバチョフ政権がついに消失し,ソ連邦の解体が決定的になるなど,重大な事態が進行しました.89年以来の激動が一つのピークを形成した年といえるでしょう.21世紀の到来を9年後に控えた92年は,世界にとっては,戦後の世界政治の基本的構造が大きく変動する転換の年となるでしょう.

ブッシュ政権は「世界で唯一の超大国」であり続けるための「新世界秩序」の創設を訴えるなど,力の政治の本質を変えていません.しかし国内的には2百万人ともいわれるホームレスの問題,不況の深刻化の中で,今年秋の大統領選ではブッシュ再選が疑問視されるなど,支配層にとって深刻な事態が進行しているのも事実です.

日本にも激動の世界情勢が連動しています.去年は自衛隊の海外派兵をねらったPKO法案が国会に提出されましたが,国民の強い反対の前に挫折の憂き目にあいました.

アメリカのいだく「新世界秩序」の構想が具体化していけば,これに対する世界人民の抵抗も急速に強まることは間違いありません.このことに確信を持って,真の国際連帯を形成していく運動を力強く推し進めていこうではありませんか.

 

A ソ連崩壊の意義

いま各国における平和と民主主義をもとめるたたかい,民族解放と真の独立をもとめる運動は,永年影響下にあった社会主義国の覇権主義からの脱却過程にあり,一定の困難やさまざまな逆流も生じています.

しかし長期的な視野で考えれば,この覇権主義の破産は共同の行動への妨害がなくなったという点で,反核平和を中心課題とする共同行動を広範に発展させる現実的な可能性をかつてなく大きくしているといえます.

ソ連の覇権主義の終焉は,世界政治に新しい展望を切り開くものとなっています.ソ連とソ連中心の軍事ブロックの解体が,ソ連に対抗することを主目的にしてきたNATOや安保条約の存在理由,「核抑止力」論の危険性を鋭く問うものとなっているからです.この点で,もっとも大きなできごとはフィリピンにおける米軍基地撤去のたたかいです.

 

B 何をなすべきか、追従主義との闘い

連帯運動の新たな可能性を現実のものとするために必要なことは,まず第一に世界の解放運動に残された覇権主義,それと裏腹の追従主義やその残骸を根本的に清算することです.形を変えて残された追従主義に対し妥協的な態度をとることは,結局のところこの歴史的な清算の作業を遅らせ,真の国際連帯のあらたな形成をさまたげる可能性もあります.

第二に大切なことは,社会主義諸国の破産を以て進歩勢力の運動全体が破産したとする,さまざまな攻撃と徹底してたたかいながら,世界の進歩的運動が創りだした積極的な成果を擁護しさらに発展させることです.とくに勝利した各国の人民政府が産みだした社会保障や,農地改革,教育の普及,産業の民主的規制などの経験を学び,世界の進歩の方向を具体的に指し示していく作業が重要です.

第三に,とりわけ日本の国内において進歩的・民主的な運動を大いに発展させることです.わたしたち日本の連帯運動は,一貫してソ連や中国などの社会主義国の覇権主義と断固とたたかってきた伝統を持ち,いまこそ誇りをもって世界の連帯運動に対し自主的・民主的な真の国際連帯の形成を訴えうる立場にあります.

その日本でPKO法案反対闘争,小選挙区制や米の自由化に反対する闘争などを力強く発展させることが,なによりも世界の進歩的運動に対する大きな励ましとなり,きたるべき真の国際連帯の形成に向けた世界史的意義をもつという関係にあります.

これまで連帯委員会の活動は,他国の経験に学びつつ支援活動を展開するという活動が前面を形成していました.これからも,学び,考え,支援するという活動が連帯運動の一番だいじな活動であることは間違いありません.

しかし世界の激動とあらたな連帯運動の形成への模索という時代にあっては,それだけにわたしたちの役割がとどまるものではありません.より積極的に問題提起し,世界の仲間たちと大いに議論し,連帯運動のあらたな理念,運動,システムなどを創り上げていかなければなりません.

今年一年,遠大な抱負をもっておおいに頑張りましょう.わたしたちは世界史の曲がり角であらたな運動を創り上げるというたいへん愉快で,めったに経験しえない貴重な時代をともに生きているのですから…….

  (1991年度 北海道AALA連帯委員会総会への報告より)