2008年7月

志位講演を読む ソ連崩壊後の17年と「資本主義の限界」

 

しばらくのあいだに読まなければならない赤旗論文がたまりました。とりあえず土日は6中総と党創立記念日の志位講演を読みました。ソ連崩壊後の17年の総括、「資本主義の限界」説に関する見解がかなり系統的に述べられているので、摘要を作らなければと思い、取り掛かったのですが、年のせいか仕事が進まないこと、結局土日をこの作業に費やしてしまいました。

6中総の志位報告

構造改革路線の行き詰まり

 まずは現状分析で、①「小泉・阿部内閣の進めてきた“構造改革”は、弱肉強食の“新自由主義”の暴走である」 ②「その矛盾は国民生活のあらゆる分野で噴出している」 ③「構造改革路線を加速することはもはや困難」になった。

 しかし福田内閣には、それに代わるものはない。したがって、④これらの事態を通じて、「ルールある経済社会」を訴える綱領の立場が、財界戦略を追い詰めている。

(これは私の感想ですが、トリクル・ダウン理論が実践的に崩壊したところに、新自由主義と「構造改革」路線の深刻な欠陥があると思います。「内需と家計を犠牲にして大企業の競争力を高める」という構造改革の路線は、トリクル・ダウンの期待を背景に国民に受け入れられたが、それが幻想に終わったことは、深い失望と憤り、不信感をもたらしているといえるでしょう。数年前ラテンアメリカで叫ばれた「もうたくさんだ!」の声が日本中に広がる日も、遠くないのかもしれません)

投機マネーの国際規制

 次は投機マネーに対する当面の国際規制策として、①“主犯格”であるヘッジファンドに対して国際社会が直接規制に乗り出す、②原油や食料など基礎商品に対する投機を規制すること、③短期に移動を繰り返す投機マネーに適正な課税を行うこと、をあげている。

(ヘッジファンドを“主犯格”と断罪し、当面の対策のトップに掲げたのは注目すべき議論です。論拠が知りたいところです)

一国覇権主義の破綻
 
 次に国際情勢の把握で、一方における米国の一国覇権主義が深刻な破綻を示していること、他方における平和勢力の進出、その例として一つは「東南アジア友好協力条約」(TAC)の成長、もう一つはコロンビア軍のエクアドル侵攻をきっかけとして米州機構内であからさまになった米国の孤立、をあげる。

 注目すべきは米「外交問題評議会」会長のハースによる論文を肯定的に採りあげていることである。ハースは「一極支配の時代は終わった。新しい世界秩序は、いくつかの国が覇権を争う“多極化”でもなく、多数の国々が世界政治の担い手になる“無極化”を特徴としている」と述べる。

(私が思うに、これは非同盟諸国運動が提唱している「多国間協調主義」(Multilateralism)に相当する概念でしょう。私の「中国外交史ノート: 多極化論の軌跡」を参照してください)

「資本主義の限界」論

 (6中総の報告の中で、最も注目されたのが、「“資本主義の限界”論と党綱領の立場」という一節です。この題名は、テレビ局が「資本主義は限界か」という企画を立て、共産党の見解をもとめたことに由来しています。これには共産党も相当準備して内容を練ったものと思われ、その成果がこの文章に反映されています)

 文章は「資本主義の限界」論をもたらした世界と日本の変化を、次の三つに要約している。

①資本主義の矛盾が世界的な規模で深化したこと、それが「多くの人々にとって、身近な目に見える問題となって実感される」ようになったこと、洞爺湖サミットをふくめ、現在の支配層がこれらの重大問題に「処方箋を示しえない姿が浮き彫り」になったこと。

②ソ連崩壊という歓迎すべき事態を契機として、資本主義の矛盾が、イデオロギー的により明瞭になったこと、ソ連と闘った共産党が独立・不屈の党としてあらためて注目されていること、

③とくに日本で、資本主義の本性と害悪がむき出しになっていること。

(この三つは論理的というより叙述的ですが、かつての「資本主義の全般的危機論」とは明らかに異なっています。我がオールド・ボルシェビキたちはこのことを抑えておく必要があるでしょう)

 経済政策をめぐっても、「国家が経済に介入することで資本主義の矛盾を緩和しようとしたケインズ主義がゆきづまり、それに代わった“新自由主義”も破綻を深めるもとで、その指導理論を失ってさまよう状況」と規定される。

(ただ、“ケインズ主義”を新自由主義と並べて一刀両断にするのは、私にはちょっと抵抗を覚えます)

資本主義の枠内での改革

 6中総は「綱領」を大いに語れとし、当面する課題と資本主義を乗り越える長期の課題とに分け展開する。

①当面する「資本主義の枠内での改革」課題としては、国内では「ルールある経済社会」を作るとする。国際的には多国籍企業・国際金融資本への規制、IMF/世銀、WTOの民主的改革、民主的国際経済秩序の確立がうたわれる。

(IMF/世銀はともかく、WTOの民主的改革といわれると、ちょっと引いてしまう気分ですが…)

21世紀型社会主義

 ②いわゆる「21世紀型社会主義」の課題では、記述はかなり慎重である。

発達した資本主義の諸国では、資本主義の限界は「おのずと明らかになる」だろうとされる。

発展途上国では、ラテンアメリカ諸国が例に挙げられ、「新しい社会主義」への模索が始まっているとされるが、その評価には直接触れず、むしろ「選挙によって国民の多数の支持を得て社会主義を目指す、人類史上初めての試み」として採りあげられる。

これに中国・ベトナム・キューバなど「社会主義への独自の道を探求する国々」(最近はこういう風に呼ぶようだ)の動きを加え、「それぞれの流れの中から、資本主義を乗り越えた未来社会への流れが生まれてくるだろう」と結論している。

(どちらかといえば、「ここではディベートしません」という風にも読み取れるが…)

 

党創立記念講演会での志位講演


 次は党創立86年記念講演会です。この講演は大変受けているそうで、youtubeはかなりのヒット数だということです。たしかに面白い。

 6中総報告が7月11日。「“資本主義の限界”論と党綱領の立場」と銘打った割には、気の抜けたサイダーみたいな記述でしたが、11日後のこの講演は、資料に対する志位さんの「読み込み」が入って格段に生気があります。この人は基本的には「しゃべりスト」ですね。

 

ソ連の崩壊に伴う変化

 講演の白眉は、ソ連が崩壊した1990年、それからの10年と現在との比較にあります。ラテンアメリカでは「絶望の10年」と呼ばれた時代との変化です。

(そしてその時代を生きた我々の主体的総括です。たしかに、ポストモダンの荒波の中に「革命的楽天主義」を貫いてきた我々としては、いま、いささかの感慨をもってあの10年を振り返っても悪くはない、という気がします)

 講演は、ソ連の崩壊にともなう変化を①アメリカの一国覇権主義宣言、②「世界の平和と進歩を願う人々」の、新たな状況に対する三つの反応-意気消沈派、一路平和派、共産党をふくむ原則派、③日本の対米従属強化、政府だけではなく、アメリカの覇権主義へのすりよりムードが日本の政界を覆い尽くした、と活写します。

現在進行しつつある状況

 これに対して現在はどうか。①一国覇権主義は崩壊しつつある。②軍事で物事を解決しようという考えが、過去のものになりつつある。③アメリカ自身も、北朝鮮などでは軍事一辺倒の政策を転換しようとしている、と見ています。

そして、とくに②については、6中総より詳しく展開しています。ここはAALAの動きとも共通する部分なので、具体的に見ておきます。

 ①TAC(東南アジア友好協力条約)については、地球人口の57%が参加していること、「紙の上の合意だけでなくて、アジアの平和のために生きて働き始めている」と評価。

②UNASUR(南米諸国連合)については、コロンビア軍のエクアドル国境侵犯事件を平和的に解決したこと、OASの中で米国を孤立させたこと、リオ条約を離脱し共同の安全保障の体制作りに着手したことを評価。

③ふたつの地域共同体の動きを通じて多国間協調主義が広がっていること。

 講演はこれらの認識の上に改定綱領(04年)の正確さを改めて確認します。

「資本主義の限界」論について

 講演のもう一つの柱は「資本主義の限界」論です。

まずマスコミなどの動向が紹介された後、「資本主義の限界」論を①貧困と飢餓、②投機マネーの暴走、③地球環境の破壊の三点から取り上げ、これらの問題に対する綱領の立場を展開し、合わせて「新しい社会主義」への展望を語るという、かなり野心的な構成です。

(私などがこの手の話を始めると、話があまりに漠然とし過ぎて空中分解してしまいますが、さすがに志位さんはうまいことまとめています)

 まず貧困と飢餓の問題では、「新自由主義が誤っていたことが立証された」とする国連人権理事会の報告を引用して終わります。次に投機マネーについては、いろいろな事例をあげたあと、「資本主義の限界」説の直接の原因が、投機マネーの暴走を抑えられない現在の支配体制への疑問にあるとします。

 講演は環境問題にも触れた後、資本主義が「限界」かどうかには直接答えず、「社会と経済の枠組みを根本から問う、大きなあたしい時代が始まったことを予感させる」と慎重な言い回しにとどめています。同時に発達した資本主義国に「地球と世界の管理能力」が厳しく問われているとして、追及する立場を前面に押し出します。

(これは正確な認識です! 夢想することは社会主義者の権利ですが、資本主義を批判することは社会主義者の義務です)

 そしてこれらの問題に対処するための、綱領の立場を説明します。第一は「ルールある経済社会」を作るための「資本主義の枠内での民主的改革」です。ここでは民主的国際経済秩序と、IMF・世銀・WTOの「民主的改革」を挙げています。

(私はIMFは解体しても良いのではないかと思いますが。WTOはあんなものでしょう。改革できるとすれば、世銀は米国の権限を弱める形で改革すべきです。少なくともウォルフォヴィッツが総裁になるような人事は困ります)

 第二にあげているのは「新しい社会主義」ですが、ここでは紹介にとどめ、直接のコメントは避けています。6中総と同じスタンスです(当然ですが)。

そして「社会主義というのは、何よりも、資本主義批判から生まれたものです。ですから世界の資本主義が直面している矛盾の深さをみるなら、人類が社会主義に進むことは必然だ」と結びます。