ノ ー モ ア 朝 鮮 戦 争

停戦50周年にあたり

2003年の北海道AALA総会で朝鮮問題について報告した時のレジメです

 

 

(A)はじめに なぜいま朝鮮戦争か?

 

@有事立法が成立しようとするいま,朝鮮戦争を例に「有事」とは何かを考える.

Aいまなお東アジアの最大の不安定要因である,朝鮮半島をめぐる争いを歴史的に考える.

B戦後の日本のあり方を決めるきっかけとなった朝鮮戦争を,あらためて捉えなおす.

Cアメリカ,中国をはじめ,世界の政治の歴史を規定した朝鮮戦争の影響を知る.

D朝鮮戦争は,世界の平和・反核運動,非同盟運動の原点となっている.

 

 

(B)戦争が始まるまで

 

1.第二次大戦後朝鮮はどう変わったのか?

@南では,日本支配の機構が温存され,アメリカの支配の下に反動化と腐敗が進行した.

A北では,日本支配の構造はなくなり,農地解放が進むなど進歩的な政策が打ち出された.

Bしかし改革の過程で,ソ連のカイライである金日成の下に権力が集中し,政治・思想の自由は抑圧されるようになった.

C南北朝鮮の分裂の固定化を促したのは,主要には北側である.金日成にはホーチミンのような民族の大義はなかった.

D南の労働者は北へ,北の地主・資本家は南へ逃れた.南北対立という形をとった階級闘争であったことは理解される.

 

2.なぜ北朝鮮は戦争を始めたのか?

@南の経済崩壊が急速に進み,支配層に解決能力が欠如していた.軍も相次ぐ内紛で極度に弱体化していた.

A南の解放勢力が弱体化し,自力で民主化を成し遂げる可能性がなくなった.しかし南労党系活動家は解放闘争を熱望した.

Bアメリカが国連の承認の下に大韓民国を立ち上げたことで,南を北の影響下に統一する可能性がなくなった.

C中国で解放軍が勝利したこと.アメリカが国共内戦に干渉しなかったこと.中国解放軍内部に強力な朝鮮人部隊が存在したこと.

D李承晩が北進・滅共を叫び続けたこと.38度線地帯での挑発行為も確かにあった.

Eスターリンも毛沢東も支持した.ただしスターリンは欧州が主たる関心であり,アジアには本気ではなかった.

F毛沢東は自らの武力解放路線を他の国にも適用したかった.国際政治には疎くスターリン次第だった.解放軍は北朝鮮に義理があった.

 

3.なぜアメリカは戦争を防げなかったのか?

@朝鮮統治政策は事実上皆無.マッカーサー任せ,マッカーサーは現地司令部任せ.北半分は眼中になし.

A現地司令部は経済システムの崩壊を座視.政策は反共のみ.国務省の介入を徹底拒否.

B国務省は中国革命を事実上容認,38度線死守の発想なし.アチソン構想は台湾と38度線についてあいまいなまま.

Cマッカーサーは対中国政策の要として台湾の確保を狙い,右翼の育成・左翼の弾圧とさまざまな戦争誘発の画策.

D国内議会における共和党=保守派の進出を前に,トルーマンはマッカーサーに手出しできず,極東における事実上の二重権力状況.

Eマッカーサーは朝鮮戦争の危険を知りながら放置.結果的に戦争を誘発.むしろ台湾確保のため,対中全面対決を期待していた可能性もあり.

F朝鮮放置のいっぽうで,警察予備隊創設計画や日本共産党・在日朝鮮人組織の弾圧など開戦後の体制は次々に確立.

 

4.要するに朝鮮戦争はどんな性格の戦争だったのか?

@金日成と北朝鮮指導部にとっては,その思いとしては「内戦」であり,「民族解放戦争」だった.事実そういう側面はある.

Aしかし国連の承認した独立国を打倒の対象とする戦争は,「民族解放」としての国際的大義を持たない.

B韓国民衆にとっては,その目的がどうであれ,「外国軍」による侵略と併合でしかなかった.

C北朝鮮は民衆の力に依拠した革命的路線ではなく,軍事路線偏重路線だった.しかも他国の力を頼りの戦争だった.

Dソ連と中国にとっては,欧州あるいは台湾という本命課題を秘めた「第二戦線」の課題であった.

E国連の公認の下で大韓民国が成立してからは,アメリカにとっても南朝鮮防衛は譲れない課題となった.

 

 

(C)朝鮮戦争の経過

 

1.北朝鮮の攻勢と金日成の誤算.軍事的には圧勝.政治的には孤立を深める.

@1ヶ月の戦いで米韓軍を釜山と大邱に押し込む.兵力,火力,機動力のすべてで圧倒.

A予想に反し,アメリカはただちに参戦.在日米軍を送り込む.アチソンとマッカーサーの力関係についての評価の誤り.

B国連は,アメリカを全面支持し,国連軍の創設で合意.16カ国が軍隊を送り込む.アメリカの国連への影響力評価の誤り.

C南朝鮮人民は決起せず.北朝鮮軍に対し警戒と反発を強める.南の民族・民主勢力過大評価の誤り.

D日本国内治安は警察予備隊が肩代わり.反米闘争も徹底的に押さえ込まれる.日本共産党・在日勢力過大評価の誤り.

Eアメリカとの全面対決を恐れるソ連は,国際的立場を明確にせず.とくに航空機支援の出し惜しみ.

 

2.国連軍の攻勢と誤算.中国参戦と第三次世界大戦への恐怖

@中国軍の軽視.機動力と火力に対する過信.民衆の支持は限りなくゼロ(イラク並み).

A北朝鮮支配構想と政策の欠除.国連軍に統治能力なし.マッカーサーは韓国への併合を暗に支持.

Bマッカーサー・軍部と李承晩に対する統制の失敗.38度線越境の可否.マッカーサー・ラインの越境.台湾の国民政府一体化工作.

C原爆使用計画に対する英国の反発.アジア・中東13カ国決議案の提出.

Dトルーマンのアチソン擁護,国防長官の解任とマッカーサー譴責.

 

3.中国軍の反攻と毛沢東の誤算

@毛沢東の核兵器「張子のトラ」論.38度線を越えることは,明らかな外国に対する侵略行為.アジア諸国,欧州諸国の停戦提案をことごとく拒否.

A停戦に向けての37度線確保を図る現地との食い違い.北朝鮮指導部の反発.日本への武装闘争押し付けは共産党の崩壊をもたらす.

B北大西洋条約機構の成立と,欧州に軸足を置くソ連の慎重姿勢.

Cアメリカの非常事態宣言.米国内強硬派は原爆使用,国府の大陸反攻支援,第三次世界大戦も辞せずの雰囲気.「赤狩り」が猛威.

 

4.国連軍再反攻とマッカーサーの誤算

@中朝連合軍の二月攻勢が失敗し,中国軍は数十万単位の死者を出し後退.

A国連軍は機動力を発揮しリッパー作戦に成功.38度線に押し戻す.中国は当初の目標に戻り持久戦に移行.

Bマッカーサー,鴨緑江北岸に数十発の原爆を落とし中国まで攻め入ると述べる.欧州諸国は猛反発.

Cソ連の戦争介入を憂慮するトルーマンがマッカーサーを解任.この時点で38度線の固定化が事実上決まる.

 

5.「鉄の三角地帯」での陣地戦

@マリク国連ソ連代表が停戦を提案.リッジウエイも停戦交渉を提起し,金日成もこれに応じる.

A半年間にわたり,国連軍が「鉄の三角地帯」に波状攻撃.中国軍は多大の犠牲を払いながら,この地域を死守.

Bリッジウエイ,活動的防御への移行を指示.戦線は完全なこう着状態となり,ミグとセイバーの空中戦が主要な戦闘となる.

C主役の交代.53年1月トルーマンからアイゼンハワーへ.3月スターリンの死亡.北朝鮮指導部内での旧南朝鮮労働党系幹部が粛清.

D53年7月,板門店で休戦協定が調印される.韓国は調印に参加せず.

 

 

(D)朝鮮戦争が与えた影響

 

1.第二.五次世界大戦とも言うべき規模

南北朝鮮合わせて460万人が犠牲となる.これは当時の総人口の23%に当たる.

特に北朝鮮の人口は,100万を越える人々の南への避難も加わり2/3まで減少.離散家族は1千万に達する.

義勇軍として参加した中国軍の死者は100万人.米軍にも5万4千人(一説に6万3千人)の戦死者を出す.

戦争は一時,第三次世界大戦への動きをはらんだ.原爆の使用も真剣に考慮された.

核兵器禁止をよびかけたストックホルム・アピールは、わずかの間に全世界から5億人もの署名が集められた

 

2.アメリカが勝てなかったという衝撃

@欧州諸国は,核抑止戦略のもとに北大西洋条約機構を強化しつつも,独自の対ソ外交を展開.

Aアジア諸国は,中国の戦いにひそかに拍手.アジア中東13カ国会議を皮切りに民族自決と等距離外交の方向へ.(非同盟運動の萌芽)

B日米安保条約はきわめて強力なものとなり,占領時代より軍備は強化された.沖縄は日本から分離され,全島が要塞化された.

 

3.戦争を始めたのは北朝鮮という重い事実.

@社会主義国と共産党を除く世界の大部分は,「戦争を始めたのは北朝鮮」という認識.しかし歴史の書き換えはまだ終了していない.

A南朝鮮労働党の指導者に責任を負わせ,まとめて抹殺したのは北朝鮮政府である.金日成はサダムの同類と見なければならない.

B金日成は生涯,南進政策を捨てなかった.金日成の死と94年の枠組み合意以降,一定の変化が見られる.

 

4.アメリカへの影響

@ルーズベルト以来のリベラル派支配の終焉.「封じ込め」理論の破産.

A共産主義敵視論,特に中国敵視論の支配.「ドミノ理論」に基づく戦略への転換.韓国・台湾・インドシナの死守.

BNATOの飛躍的強化.欧州核配備.スペインなどファシズム国家も反共の一点で取り込み.

Cアジア政策の要としての日本の強化.ドミノの最後の駒としての日本.

Dアメリカ国内における狂信的反共主義の支配.グアテマラ政府の転覆を始め,ラテンアメリカにおける一切の自主的な動きの圧殺.

 

5.日本への影響

@数々の事件の捏造.共産党と機関紙「アカハタ」の非合法化.マスコミ・運輸関係を中心とする共産党労働者のレッドパージ.

A戦犯の政界復帰.政界の右翼的再編.社会党の分裂などによる単独講和の押し付け.

B警察予備隊の創設,安保条約の押し付け,沖縄・小笠原の奪取.軍隊の復活は,憲法と周辺国の強い反対により挫折.

Cスターリンと毛沢東による武装闘争の押し付けも,無視し得ない攻撃.のちに毛沢東はこれを自己批判(結局うわべだけだったのだが).

 

 

(E)朝鮮戦争 今日につながるもの

 

1.金日成の野望の根拠は失われたが,マッカーサーの枠組みはそのまま残る.

@金日成の頼りとした中国,ソ連の支援はもはや期待できず.

A北朝鮮の国力も,存亡の危機に.

B米日・米韓の安保の枠は残る.むしろ再編強化.

C日本の軍事力強化,攻撃性の強化.

Dアメリカの攻撃性の強化

 

2.戦争を防ぐ力の強まり

@韓国の民主化と太陽政策

A中国・ソ連の理性的対応.台湾問題の平和的解決へ.

B日本の民主勢力の強化.

C非同盟諸国とASEAN諸国の平和へのイニシアチブ.

D欧州諸国の一定の自立路線.

 

3.論理的には残る北朝鮮の軍事行動の可能性.

@自暴自棄的攻勢の可能性.

A政治取引の手段としての限定的攻撃.

B北朝鮮激変が出現した際の予期せぬ暴発.

C韓国主要部の安全保障を国際的協調の中でどう確保するか.