朝鮮半島をどう見るか

朝鮮問題を考える四つのポイント

1.南北間の力関係の変化を押さえること

最近は北朝鮮問題が突出していますが,南北朝鮮の力関係の変化を抜きに朝鮮問題を語ることはできません.

70年代の韓国の経済発展,80年代後半に始まる韓国の民主化,80年代における北朝鮮経済の停滞,ソ連の崩壊に伴う90年代の危機,これらが両国の力関係を激変させ,これに対する危機感が北朝鮮・金正日の強硬政策を規定しています.

 北朝鮮の情勢認識は,60年代半ばまでは,それほど狂ってはいませんでした.しかし60年代後半に,朴正熙独裁政権の下で韓国経済が離陸を遂げると,一種の焦りが表面に出てきます.右往左往する中で,国際社会への参加のチャンスを逃してしまいました.

政治・外交の原則を捨て,その時々の情勢にオポチュニスティックに反応していれば,そのたびに優秀な幹部が犠牲になって行きます.集団指導体制は崩壊し,個人独裁に移行するしかありません.北朝鮮政府の70年代〜80年代の対応については厳しく糾弾するほかありません.

 

2.アメリカの朝鮮半島政策を押さえること

朝鮮半島には米国の興味を引くような資源もなく,権益もない.あるのは思い出したくもない朝鮮戦争の屈辱の記憶だけである.アメリカ外交は朝鮮半島に地政学的な意味づけしか与えていない.

したがってアメリカが打ち出す朝鮮政策は,いつも行き当たりばったりである.(94年枠組み合意は唯一の例外かも知れない)

アメリカにとって,北朝鮮がどうなろうと,どうでもよいことである.しかし我々周辺国にとっては決して「どうでもよいこと」ではない.

3.第二次朝鮮戦争は絶対に防がなければならない

4.北朝鮮の民主化をどう進めるのか

テレビでは脱北者を救えとのキャンペーンが大々的に展開されています.たしかに命からがら北を逃れてきた人たちを救うのは当然のことですが,「現在北に住む人たちをどう救うのか」という大局的な展望を持たなければ,ただの反北キャンペーンに過ぎません.

さまざまな経済統計を見れば,北朝鮮という国家はいまや崩壊寸前状態にあります.北朝鮮政府が東欧諸国のように,軍の反乱や大衆蜂起により倒壊した場合,どういう事態が予想されるでしょうか.

この問題を考えるとき,我々の目の前にはサダム・イラク政権という格好の前例があります.気にいらない政府だからといって,それをつぶしてしまえば,たちまち無政府状態になってしまいます.そうなればロシアマフィアに牛耳られた一時のロシアのように,覚醒剤を作る連中や偽札を作る連中が国の実権を握ることにもなりかねません.

金大中の太陽政策は,北朝鮮の民主化を推進するために,現在の北朝鮮政府をただちに崩壊させたほうがよいのか,存続できるところまで存続させたほうがよいのかという問題提起です.

確実に言えることは,こと朝鮮問題に関しては,アメリカの言うなりに従っていてはだめだということです.石原慎太郎のような無責任な扇動家にのさばらせておいてはだめだということです.破壊するのは簡単なことですが,話はそれでは終わりません.我々は新たな東アジアのシステムを作らなくてはならないのです.

(G) 朝鮮半島の事態について(AALA総会資料から)

 最近フツウの人と話していて痛感するのは,恐ろしいほどの北朝鮮に対する敵対感情です.北朝鮮問題を誰かと話すときは,まず相手がどのくらい北朝鮮を憎んでいるかを押さえてから話さないと,議論がすれ違ってしまいます.

 私たちの認識は,中ロ共同声明でも述べられた次のような見解にあるといえるでしょう.「朝鮮半島の平和と安定の維持は国際社会の共通の願いにもかなうものである.圧力や武力の使用による解決方法には賛成しない.朝鮮半島問題解決の鍵は当事者の政治的意思にあり,危機は政治的・外交的手法で解決すべきである」というものです.

 大事なことは,たとえ金正日政権がどんなにひどい政府であろうと,サダム・フセインよりひどい政府であろうと,北朝鮮には侵略に抵抗し,自らの国土を守るという当然の権利があり,願いがあるということを理解することです.これはイラク反戦を闘った人々には当然分かってもらえる原則でしょう.

 日韓首脳会談では,対話路線か,対話プラス圧力路線かということが話題になりました.圧力というのは「あらゆる手段による圧力」という意味で,端的に言えば軍事的脅迫路線です.しかし経済制裁などが「圧力」に含まれるかどうかは微妙なところです.北朝鮮は「制裁」は宣戦布告とみなすと言っています.

 しかし肝心なことは圧力か対話かということではなく,その目的,つまり核やミサイル問題について理非曲直を明らかにすることにあります.そのための手段として,非軍事的な圧力については,盧大統領も否定はしないでしょう.いずれにしてもまず対話を始めなければ,事態は進展しません.ここがいまの日本外交の分からないところで,対話そのものを拒否して圧力一本やりで進んでいるようにも見えます.

 北朝鮮がみずから明らかにしなければならない「理非曲直」とは次の三つです. @まず核開発路線を放棄し,平和的・外交的手段での問題解決を進めることです.核開発はどのような理由をつけようと合理化できません. A軍事優先思想を改め,過去の誤りを総括することです.ソウルの大統領官邸襲撃(67年),ラングーン事件(83年),大韓航空爆破事件(87年)などです.麻薬と拉致問題はいうまでもありません. B瀬戸際外交を止め,孤立主義を脱却することです.アメリカに介入の口実を与えないためにも,94年枠組み合意と02年日朝平壤宣言の原点に立ち返ることが必要です.

 注意しておかなければならないのは,盧大統領の「対話路線」が,北朝鮮に対する見方が甘いから出てきているのではないということです.逆に韓国は,北朝鮮に対する脅威をはるかにシビアーに評価しています.

 盧大統領は「極東経済評論」の5月22日号で,「軍事的選択肢に訴えることは,朝鮮半島に住む人に非常な危険をもたらす.戦争がふたたび起きれば,私たちはすべてを失う」とまで述べています.そのいっぽう北朝鮮に対しては,「安全保障と経済援助を必死に求めている」とし,「可能性が開かれれば極端なことはしないだろう.市場経済を採用し,開かれた社会になるよう説得する必要がある」と主張しています.

 韓国が対話路線を堅持するもうひとつの理由は,アメリカに対する不信感にあります.94年の朝鮮危機は開戦一歩手前まで進んでいたことが,その後の情報開示で明らかになっています.6月,危機が最高水準に達するなかで,ラック在韓米軍司令官とレイニー駐韓大使が秘密会談を行いました.二人は本国からの指令を待たず,「米国人の避難計画」を進めることで合意しました.

 これを聞きつけた金泳三大統領は,韓国政府の了解なしに在韓米国人全員の国外避難をさせようとしたことに「激怒」しました.昨年2月の「サンデー毎日」への寄稿で金元大統領はこう述べています.「私は,『もし誤った決定で韓半島で戦争が勃発したら、国軍の最高司令官として韓国軍人を誰一人として参戦させない』とクリントンに通告した」

 このとき,ラック司令官は「北朝鮮は国境地帯に8400の大砲と2400の多連装ロケット発射台をすえており,ソウルに向けて最初の12時間に5千発の砲弾を浴びせる能力がある.もし再び戦争となれば,半年がかりとなり,死者は100万人に達するだろう.米軍にも10万人の犠牲者が出るだろう」と,本国に報告しています.

 この予測は,彼がひそかに逃げ出そうとしたことで逆に信憑性を強めています.そして「アメリカは軍事挑発によって第二次朝鮮戦争が起きれば逃げ出すだろう.韓国を守ってはくれないだろう」という不信を広げています.