「非営利・協同」の究極の姿

京都大学 野沢正徳 教授の
「21世紀・自立と協同の経済システム」を読む

 この論文は,「自立と協同の思想」という本の巻頭論文です.ここまで来ると,私たちとはまったく別の世界で,もはや批判の対象ではないようです.とにかく,その要旨を紹介しましょう.読んだだけで,民医連の仲間は私と同じ気持ちを持つに違いありません.(ゴチック強調は私のものです)

 

第一段階:自由と民主主義の改革

 これまでは民主的政府による大企業の上からの民主的規制を基本に考えてきた.これからは,経済システムの中心として企業の民主的運営と市場メカニズムを積極的に位置づけなければならない.その基礎として,下からの労働運動・市民運動による労働権と生活権の確保が不可欠である.

 

「参加」の意味

 「完全な自由と民主主義」への一歩は,労働者が企業内の基本的な決定への参加に向けて前進すること,あるいは,さらに進んで,決定権の掌握に接近することであろう.ここで「民主主義」とは自由を相互に保障する政治的,社会的,経済的なシステムや人間関係を意味している.

 完全な「自由」とは,企業の生産・雇用・投資・技術・人事配置などの基本的な決定権を,企業の活動に加わるもの=構成員が共同に持つことである.いわば企業の決定権の掌握によって,労働者が企業の主人公になる.

 主要な,基本的な決定権を実質的に共有しながら,下位の,細部の決定・管理をさまざまのレベルで分権化し,すべての構成員がその職務に応じて各レベルの決定・管理に参加するシステムを創出することが必要である.

 

非資本主義的企業

 参加が十分に実現した企業は,すでに企業内に資本・賃労働関係をふくまない,非資本主義的企業と呼んで差し支えないものであろう.

 この企業の経営に関する決定基準は,第一に適正な利潤率の確保である.市場メカニズムを前提とする以上,経営の目標・成果の判定基準として利潤率=市場の評価が用いられるのは当然であり,利潤を目指す競争がおこなわれる.

 第二に,利潤第一主義ではなく,自然・環境保護,資源の節約の観点から企業の限界を考慮に入れる.

 第三に,投機,買い占め,粗悪商品の販売などの反社会的行為を,企業内外の批判によって是正する.

 このような決定権の共有にもとづく企業を,いわば「協同」企業と呼ぶことが出来る.

 企業のシステムが,次第に垂直的・階層的な編成から,部門間の水平的なネットワークに変化していく.このような分権化・ネットワーク化の傾向を労働者の主導によりさらに発展させるとともに,労働者がそれぞれのレベルにおいて,上から管理されるのではなく,主体的に参加し,職場での自己実現を図る,という仕組みが必要だろう.このような企業組織のあり方は「分権・参加型企業」と特徴づけるのが適切かも知れない.

 

民主主義的市場メカニズム

 このような「協同・分権・参加型企業」の市場関係では,過度の競争ではなく公正な競争を実現でき,市場メカニズムはもっと安定的に働くと思われる.

 このような「協同・分権・参加型企業」による市場メカニズムは,一言で「民主主義的市場メカニズム」と呼ばれる.この展望こそ将来の経済システムの核心をなすと思われるのである.

 

自由社会主義

 企業での共同の決定権によって資本家の専制・搾取を廃止して真の自由と民主主義を実現し,社会的な協同によって資本主義的市場メカニズムの欠陥を除去するならば,それはすでに資本主義の枠から出るものであり,資本・賃労働関係をなくし社会的協同・連帯を強めるという意味で,いわば「自由社会主義」ということが出来よう.

 「自由社会主義」の考え方こそ,むしろ社会主義の本来の姿,原点であって,人間の完全に自由な社会・経済のシステム,まったく新しい社会主義の展望を切り開くものであろう.