真田論文を読んでの感想

関係各位殿

 

 先日,真田先生から同封のごとき論文を送っていただきました.

 真田先生にはこれまで,拙著「療養権の考察」や論文集「非営利ではなく反営利を」などを送って,見ていただいてきました.

 この時の先生の手紙では,「非営利・共同」については「私が論評するのは難しく,民医連を内側から見ていないと,やりとりできない」 「ただ指摘されていることは,いろいろな形で今後考えていきたいと思います」という返事でした.

 それから1年余り,いよいよ,先生が直接「非営利・共同」論について言及したというわけです.

 読んでいただければ分かるわけで,私のコメントは蛇足ですが,感想として受け取ってください.

 

 まず,真田先生は「非営利・協同」が「守り」の路線であると規定します.大企業への規制という「攻め」ではなく,大企業の社会制覇という事態への対処として出された路線だということです.

 具体的には「ソ連・東欧の崩壊」,すなわち「国家の失敗」ということで「国家,公的機関への対抗」として非営利・協同が位置づけられているとされます.ただしこれは「非営利・協同」論者の一部であり,いわゆる「第三セクター」論だとされます.

 ここでは「第三セクター」論を「非営利・協同」論者の一部における誤った傾向のように表現していますが,後の文章を読めば分かるように,真田先生は,「非営利・協同」そのものを,そう理解しています.この表現は真田先生の政治的配慮に基づくものでしょう.

 論文の各所に,そのような配慮が見られ,そのために文章が晦渋になっていることに注意する必要があります.真田先生のような立場では,私のようにずばっと言うのは難しいのでしょう.

そこをはぎ取って読むと,中味は次のようになります.

 

「非営利・協同」路線における,二つの思想的あやまり

 「非営利・協同」路線には,二つの思想的間違いがある,と先生は述べています.

 ひとつは,「非営利・協同」の事業体を作り広げることが資本主義の止揚の道という考えです.大企業の専制に対する規制の闘いがなければ,「非営利・協同」は絵に描いた餅に過ぎないということです.

 もうひとつは,社会主義の失敗を以てして,公的セクターを抑制し,縮小させようという路線です.真田先生は,「非営利・協同」路線は,「この点では新自由主義と同方向である」とまで言っています.そして「公的機関の民主化の課題が後退して,非営利・協同の賛歌になり,結果として協同組合主義に戻る」と批判しています.

 先生は,(もし非営利・協同にこだわるのなら)「公的機関に公正・民主を要求して,公的セクターと連携して,市場の失敗に対処することを方針としなければならない」と結論づけます.以上が「非営利・協同」の理念にかかわる批判です.

 

公的部門に市場メカニズムを持ち込むことの危険性

 つぎに,真田先生は「非営利・協同」の事業のあり方について述べています.ここで非営利・協同というのは,非営利・協同論者の言う非営利・協同の事業体ではなく,先生の言う「正しい方針」に沿った事業体のことであり,「民主経営」と置き換えてもかまわないものです.

 福祉分野における非営利・協同路線の導入問題には(おそらく医療の分野も同じでしょうが),真田先生は警鐘を乱打しています.

 まず,社会福祉は「市場の失敗」を前提として生まれた分野だと述べます.そして,そこに市場メカニズムを持ち込むということの重大さを強調します.

 歯にものが挟まったような言い方が続きますが,「非営利・協同」というオルタナティブ(代案)を用意することで,公的セクターの削減にあたるという考えは,「正確な考えではない」と結論づけします.

 そしてその後に「公的部門の不断の点検.検討は行われなくてはならないが,社会福祉にとっては,公的セクターの比重や公的責任をあらためて問い直したり,領域構成を再検討したりする必要はないと,私は考えている」と言い切ります.

 

 それでも足りないと見たか,いくつかのだめ押し発言が相次ぎます.

 「非営利・協同は市場メカニズムに参入して維持・発展する実績を蓄積してきたものだが,市場外で形成されてきた社会福祉には,土壌が違うので参考にならない

 「社会福祉は,非営利の事業活動であったが,公的セクターが大きな比重を占めてきた.従って非営利・協同の領域として扱うことは出来ない

 「生産や消費の領域ではない社会福祉の領域(医療の領域と読め)での生かし方という特殊性…」

 以上が,「非営利・協同は社会福祉の領域においても有効な事業形態たりうるか?」という,いわば「領域論」です.

 

民主的社会福祉の運動は,非営利事業の進出に反対する

 真田先生は,「非営利・協同が進出した場合,それらをふくめて公的責任との関係はどうなるか?」について論を進めます.

 真田先生の結論は,例えどのような種類の事業体から構成されようと,福祉の分野においては公的責任の問題は避けて通れない,といいます.

 「社会福祉では,公的責任と関係のない非営利の事業(すなわち第三セクター型事業)が比重を大きくすることは,営利事業を封じていても,社会福祉の領域としての特質が保持できなくなったことになる」と述べた後,「運動としてはこのような動きにも反対することになる」とまで言い切ります.

 すなわち実践的には社会福祉の分野における「非営利・協同」路線にたいしては,これと対決する姿勢を明確にします.

 

 以上が大体の流れです.

 

 短い割には結構読みづらい文章です.主要な理由は「非営利・協同」に徹底しながら,何とか「非営利・協同」という言葉だけは残そう,それによって善意の「非営利・協同」論者との決定的な仲違いは避けようという配慮です.
 敢えて言わせていただければ,まだ完全に論点が整理されていない側面もありそうです.しかしそれでも,各所にちりばめられて結論部分を取り出せば,真田先生の思いは相当はっきりしたものだ,といえるでしょう.

 

 なお申し添えておけば,やや錯綜した論立ての本文と比べ,「注」の(1)から(9)までは,実にすっきりとした文章で,これだけでもこの論文の価値は十分あります.

 

2001年9月04日

鈴木 頌