ずっと、お前を見ていた。
お前だけ、を。
そこまで人に執着した事もなくて、自分自身が不思議で仕方なかった。
俺に、こんな感情を抱かせるのはお前だけだと。
「………気付いているんだろ、坂上?」
問い掛けた言葉に、返事はなかった。
走った。とにかく走った。
我を忘れるほど、走った。
走らなければ、死ぬ以外に道はなかった。
何故こうなったのか、自分にもわかっていなかった。
わかりたくなかった。
身体が熱く、肌がチリチリと焼けるようだった。
壁や、床に火が飛び火して足元が酷く熱かった。
しかし、そんなことに構っている余裕は俺にはなかった。
何故、走っているのか。
何故、俺は生きているのか。
頭の中をグルグルと回る疑問。
「ゲホ、ゲホ、ゲホ…。」
煙は、容赦なく自分を襲ってきて息が苦しい。
まるで肺が押しつぶされるような、苦痛。
何もかも、終わったような気になっていた。
外に出てどうするのか。
どうしてこうなったのか、わからないが。
あいつは、やったのかもしれない。
今まで続けられていたこの「殺人ゲーム」から、逃げられたのかも知れない。
外に出ても、この俺がいつもの日常に帰れる事は皆無に近かった。
(イヤ、全くのゼロだ。)
誰が、校舎に火をつけたのかわからないけれども。
少なからず今まで行われてきたこのゲーム及び、「殺人クラブ」は明るみに出るだろう。
狂った仲間。
狂った自分。
―――その犠牲になった者。
正直、反省しているのかと問われたら肯定は出来ないだろう。
(楽しかった、楽しかったのだ。)
獲物をしとめる瞬間。
まるで、そいつのすべてを手にするような。
そいつの前では、支配者になれる。
まるで甘くて美味な、麻薬のような。
俺はつまらない日常の中に、スリルを求めてこのゲームに参加する。
「ハハハ…!」
思わず笑いがこぼれた。
それと同時に、煙を吸ってしまって肺が苦しくなる。
「………何もかも、終わりだ!」
吐き捨てるように言葉にする。
では、何故俺は走っているのか。
では、何故俺はまだ生きようともがくのか。
半ば壊れかけていた扉に体当たりをして、外にでる。
外の空気が、冷たくて澄んでいて酷く気持ちよかった。
俺以外に人影は見えなかった。
俺はとにかくこのいまいましい場所から逃げようとした。
しかしその時、視界の端に何かが映った。
「………。」
足が、自然と止まる。
人間の身体が横たわっていた。
誰の顔か確認する前に、何となくわかってしまった。
「……………日野………。」
それと同時に、もうこいつが生きていない事も分かっていた。
日野とは、短い付き合いではなかった。
この殺人クラブに入ったのもこいつに声をかけられて、だった。
冷静沈着で、頭も良く、人から慕われるタイプの人間だった。
日常生活でも、そこそこに仲はよかったと思う。
しかし、今横たえているこの肉の塊を前にして何も感じる事は無かった。
まるで、物のようだ。
試しに、この死体を踏みつけてみようかとも考えた。
死体のほうに一歩足を進める。
がしゃん!!!
「!!」
びくりと体を震わせて、思わずそちらを見た。
旧校舎が、だいぶ崩れてきているようだった。
俺は、我に帰ってこの場から逃げ出した。
坂上に会うことは、無かった。
家に帰って、所々こげている制服を脱ぎ捨てた。
風呂につかって、自室に戻る。
こういう時、普段から親がいないのが有り難い。
いや、こういう時でなくとも邪魔な存在には違いないのだが。
無意識に、電話のほうに目をやった。
学校の方も、何かしら騒ぎになっている頃だろう。
いつ来るかわからない悪魔の宣告を俺は待っていなければいけないのか。
正直、夏休みが近い事が自分を少しだけ安心させていた。
たった40日足らずでは、皆の記憶から消えるには足り無すぎるが。
珍しく臆病になっている自分に気付いて、腹が立った。
(早く寝てしまうに限る。)
乱暴に、布団の中に潜り込んで目を閉じる。
その日は、現実だか夢だかわからない悪夢を見た。
次の日、案の定学校では大きな騒ぎになっていた。
………らしかった。
と言うより、緊急連絡がまわってきており学校の方は休みになっていた。
老朽化して普段必要とされていなかった旧校舎だが、学校側もいろいろ対処しなくてはいけないらしい。
俺は、わざわざ現場には向かっていない。
もうすでに、その現場をその時に見てしまっていたから。
野次馬達の反応が気にならない訳ではなかったが、気が向かなかったので行くのをやめた。
昨日から、ならない電話を見てはため息をつく。
結局は、緊急連絡以外の用件で電話はならなかった。
いつまでこの生き地獄のような時間が続くのだろうか、と考えた。
気付かれないはずは無い。
これだけの死者が出て。
俺の名前が出てこないはずが無い。
(それでも、期待してしまう)
この日常が、続く事を。
俺は、このつまらない日常に執着しているのか。
狂ったフリをして、人に制裁を下していた自分は本当はこんなつまらない日常にしがみついていたい人間なのか。
早く答えを知りたかった。
ばれるなら早く。
自覚するなら早く。
その問題の鍵は、考えるまでも無く坂上が持っている。
早く、早く。
早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く。
この感情が、あせりになるまでにそう時間を必要としなかった。
続くみたいです…。続きを書ける自信が無いのですが…。
と言うか、微妙に間違っているところが沢山…!一応「殺人クラブシナリオのもし新堂が生きていたら…バージョン」。
そして、いまいち校舎の構造がわかっていなくて何故か宿直室にいたはずが旧校舎通ってます…。(ウッワー)
えぇと……そのうち続きとともに書き直すことになるかもしれません…。
今回はプロトタイプ…みたいな…?(アバウトさ大発揮)
…スミマセンでした……。出直してきます。
(2002/12/12 UP)
<モドル