「へぇ、感情に意味なんてあるの…?」 風間先輩が言った。 人を小馬鹿にしたような声は、続いて響いた下校のチャイムごとその空間に漂ったような気がした。 思わず顔をあげると、先程からこちらを見ていたらしい視線とぶつかった。 何故か、息が出来ない。 有りえない。 こんなはずじゃ無い。 それでも、捕らわれる。 <自覚・改> 「え、」 思わず、返答の言葉が遅れた。 「……どうでもいいけど、なんだかぎこちないなぁ。やっぱ、僕のせいなんだろうけどねぇ?」 あの時の告白の事を言っているのは、すぐにわかった。 (………なに、…後悔?) 身体が急に、冷えていくような感覚。 広い教室に、先輩と二人きり。 さっきまで明るかった教室に陰りがでてきて、外の風で窓がカタカタと鳴った。 「先輩の……」 (所為じゃ無いです) と、答えようとしたのに言葉が繋がらない。 先輩の目を直接見るのが怖くて、何となくうつむいてしまう。 僕は、まだ答えを出していない。 風間先輩の事は、嫌いじゃ無い。 面白い先輩だし、仲良くもしたいとは思う。 けど、恋愛感情は違う。 食糧問題も。(やはり今だに、疑ってしまっているのだけど) だから、聞いた。 『どういう意味での、告白だったんですか』、と。 それで返って来たのはさっきの言葉。 『感情に意味なんてあるの?』 いつも訳の分からない事を言っているのに、すごく正論で。 (違う、聞きたかったのは。--------僕が、知りたいのは。) それでも、逆に聞き返された質問に答える事は出来なかった。 狡賢くて、つかみ所が無い。 それでもそう言う部分だけは本能で動いていて。 不安だから、信じられない。 信じたくない。 先輩が僕を「好きだ」と言った言葉が。 (………本当の気持ちを、知りたい。) そう、思ってしまって。 自分の中で何かが変わったのに気付いた。 何か。 確実に、心なんて変化するから。 不確かで、本当の気持ちなんてどこにあるか解らなくて。 自嘲気味に、笑う。 「……僕に告白されるなんて、光栄な事だと思わない?少し贅沢だよ、君。」 「そう……かも、知れませんね。」 そう言って、今度は本当に笑って。 先輩の瞳を改めて見た。 知りたい。 理解できなくても。 今は、その感情の意味を知らなくても。 大仰に溜息を吐いて、先輩は立ち上がって目の前にあったカバンを持った。 「帰るかー」 「はい。」 方向は、全く別。 約束も、していない。 でも何だか、別れがたくて先輩の横に位置をキープする。 すぐに別れると、知っていたけど1分1秒でも多く。 これと言って他愛もない話を続ける。 さっきまでの話題は、何故か先輩は出さなかった。 このまま、無かった事になってしまうのが怖いと思った。 思うより早く、身体が動いた。 長く伸びた影が、重なる。 驚いた先輩の顔と、真下に落ちたはずなのにどこか遠くに聞こえたカバンの落ちた音が頭を支配して。 何も考えられない。 咄嗟にとった自分の行動に言い訳をしようとする自分を感じて、情けないと思う。 先輩は、驚いて見開いていた瞳を細めていつものように笑った。 「……結婚しよう、坂上。」 にこやかに笑う、彼をどこか遠くに感じながら。 意識まで遠くなりそうで、自我を保つのに必死だった。 「…………、」 風間先輩は、得体が知れない。 不思議な人で、つかみ所が無い。 本音がどこにあるのか、わからない。 時々おかしな言葉を喋っている。(多分あれは、地球外言語だと僕は思っている) そんな先輩でも、気付いてしまった自分の気持ちをごまかす事は出来ない。 そんな先輩だから、こそ----------- 気付いてしまえば、簡単なこと。 一応、「自覚(未)」の続きのつもりで書いたのですが。 雰囲気が全く違うので、続きらしくないです。しかも、また中途半端な…。 でも、前よりは多分風坂果汁10%増量中ってかんじですか。(果汁…?) どうでもいいですけど、笑えない馬鹿話よりも笑えるギャグをしっかりと書いてみたいものです。 -----無理だと言う事は、承知の上での戯言です。(きっぱり) 風間先輩の口調がつかめない……くぅ…ッ。まだまだ修行が足りない…。 (2003/1/28 UP) <モドル |