その瞬間、目の前のこの歪んだ顔を美しいと思ってしまった。
「目は瞑らないのか?」
眼鏡の奥で光る眼光は、確かにこの状況を楽しんでいる。
次の瞬間にもふりおろされるかもしれない包丁が
月明かりに反射して眩しい気がした。
「自分を殺す人間の顔がどんな顔をしているのか、
興味があるのよ。」
こうやってまだ自分が言葉を紡げるのも彼の気まぐれなのだろう。
自分の言葉が余程気に入ったのか、彼はくつくつ笑う。
一般生徒には、その存在すらも知ることが出来ない「殺人クラブ」。
そしてその中心にいる、日野。
自分がターゲットになった理不尽さよりも、
目の前の彼のことが気になって仕方ないのは、
日常生活では見ることが出来ない彼の顔が見れたからだろうか。
(解き放たれた獣のようだった。)
美しく、本能に忠実で。
普段の彼に少しだけ違和感を感じていた私は
ただただ見惚れるだけだった。
「知っているか。」
何についてかは言わずに、ただそれだけを言った日野に
「知る必要はないわ。」
と、だけ返す。
貴方の気まぐれで次の瞬間にも息絶えるかも知れないこの時に、
あまり余計なことは考えたくない。
ただその、美しく歪んだ滑稽な姿を見ていたい。
「――――そうか。なら、」
死ね、と続くのだろうと思った。
ただただその最後の瞬間を闇で迎えないように
目の前の彼の姿を焼き付けようと、睨むように見つめた。
「仲間にならないか?」
まるで蕩けるような甘い告白よりも、自分を熱く狂わせる。
自然と笑い声が出ていた。
脈絡のない言葉、目の前の人間の心情一つで左右される生死。
私は、この夜をずっと忘れないだろう。
少し冷たい夜の空気が、冷静さと歪んだ感情をぐちゃぐちゃにして
自分も、己の内を解き放つ。
殺人クラブ日野と、ターゲットとなった岩下の話。
この後、岩下は7人目を殺し、仲間入りするんだと思います。(と言う妄想)
この背景好きなんですが、文字が見辛いですね。すみません。
(2008/4/21 UP)
<モドル