冷たくなった、その肉の塊を抱きしめるしか出来なくて。
泣けば、幾分気が楽になったのかもしれないと気付いたのも大分たってから。

人間の記憶は曖昧だ。
この子が、自分の記憶が消えるのもそんなにかからないかもしれない。
今は、こんなに辛くても。
今は、今は。






死ぬ事が、こんなにも。










(後悔…しているのだろうか。)
ふと、そう思った。
この子を作った、事。
無意識にでもこの子とともに生きる事を望んだ、事。
最初からわかっていたはずだ。
でもあの時俺は、喜んだのだ。
人形から、人間に変化したこの子の奇跡を。
それを知っていて。

人形は、死なない物。
人間は、いつかは死ぬ物。

冷たかった身体が、触れれば温かく。
その身体を優しく、抱きしめればこの子は嬉しそうに笑った。
「暖かいね、」
「そうだな。」
それだけで、充分だった。
雪に触れて『雪って冷たい物なの?』と寂しそうに言ったこの子が自分の体温を感じ取ってくれた事。
同じ時を生きる事。


それだけで。



考えなかったわけじゃ無い。
俺より先に、この子が居なくなる事を。
考えないようにしてはいた、かもしれない。
その事実を。
ただ見えるところだけに、目を向けて必死で考えないようにしていたかも知れない。
この子が自分と同じ「人間」になった時から、こうなる事は決まっていたのに。
その時間が早いか、遅いか、だけ。
反対に言えば、俺がこの子より先に死ぬ確立もあった。
年齢の順序を考えれば、そちらの方が自然だ。
残されるのは、辛い。
俺が、先にこの世を去ったらこの子はどうしていただろうか。

後を、追っただろうか。
それとも、強く生きただろうか。

この子なら、後者だろう----だと、思いたい。
この子は、強いから。
俺は、どちらも選べずに立ち止まったままだけど。




立ち止まったまま。




息を引き取ってから、どんどんと体温が下がって今ではもう冷たい、塊。
どんなに下がるのを食い止めようと、抱きしめても容赦なく体温は失われて。
今ではもう、昔の人形の頃のように冷たくて。
それでも、昔と違ってこの子の瞳が開かれる事はない。
笑う事も。
泣く事も。

もう…………無い、のだ。





もう、声を聞くことも出来ない。
形の良いその唇を指でなぞる。
『もう!マスター、しっかりしてよね!』
いつの日か、この子がこの口で言った言葉を思い出して、自嘲気味に笑う。
この子にたくさんの言葉を、貰った。
たくさんの気持ちを、貰った。
何もかも、それは過去になってしまったけれど。




消えないから。







選ぶ事も、もう怖くない。
歩き出せるから。
「ありがとう。」
届くはずの無い言葉を、ぽつりと残した。













And that's all ...?












(2003/2/4 UP)

<モドル

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※過去に挑戦していた モノカキさんに30のお題「And that's all ...?(それでおしまい)」です。
只今お題の配布は終了されています。


初めてのピノッチア作品…。最初から死にネタですみません…。
ずっと、ピノッチアが取り残されるエンドを見続けたので、どうしてもマスター側の取り残される話を書きたくて…。
相手の「この子」は誰でもいいように書いてあります…。
お好きなピノッチアでどうぞv(いや、どうぞとか言われてもピノッチア知ってる人が居るかどうか…)