そんな、束縛も悪くない。














もしかして、自分が思っているよりも自分はあの少女が好きなのかも知れない。
そう自覚したのは、こんなに多い人通りの中でベルの姿を見つけることが出来たから。

まぁ、確かに欲目を抜かしたとしても、ベルの容姿は目をひく物がある。
流れる綺麗なブロンドの髪の毛。淡く、人の視線をひきつける碧の瞳。
色白の肌は、やはり日本人にはないものだと思う。
なんにしても、ベルは人目をひく。
自分の意思とは関係無しに、見つけることが出来るのかも知れない…とも考える。





では……ベルがオレを、たくさんの人間の中から見つけることが出来るのは…?



「KKさん…!」
聞き覚えのある声が聞こえたので、軽く手をあげた。
一緒に居た少女になにか一言二言交わして、別れの挨拶をして。
嬉しそうに息を弾ませて近寄ってきた少女は、買い物の帰りのようで小さな紙袋を持っていた。
「よぉ。」
それだけを言って、ベルに気をつけながら煙草の煙を吐き出した。
「こんにちは!こんなところで会えるなんて…」
「オレも、思わなかった。」
(まァ、嬉しい偶然だな…コレは。)
心中では素直に喜んでおく。
勿論、それをベル本人に言うことは無いが。
ふと目線をあげて、さっきベルと一緒に居た少女の方を見やるとまだその子は居たらしく、
目があってしまったので軽く頭を下げたら、あちら側もばつが悪いように軽く会釈をしてその場から立ち去った。
ベルに目で合図をして
「いいのか?」
と、聞く。
「丁度、買い物の帰りだったし…これから予定もなかったから………それに…。」
「それに?」
その後は言いにくそうにもごもごと口を動かすベルに言葉を促したけれど、顔を赤くするだけで何も答えなかった。
その替わりなのか、ベルは無理矢理とも言える話題転換をする。
「KKさんは、お仕事ですか?」
「……あぁ、帰り。」
(……別に、いいけど。)
なにか、釈然としないものを感じつつ。
「じゃぁ、駅までご一緒してもいいですか?」
ベルが嬉しそうに笑ったから。
別に断る理由も無かったから。

不釣合いな二人が、同じ歩調で、同じ方向へ歩き出す。






他愛のない、会話。
絶える事の無い、喧騒の中。

何故だか嬉しくて。

ベルと一緒に居ると、何かいつもと調子が違う。
周りの風景や、音。
ただ過ぎて行くもの達は同じなのに。
それも不快ではないから、性質が悪いと…思うわけだが。



「KKさん?」
呼びかけられていたことに、今更ながらに気付いてベルの怪訝そうに見上げる瞳と視線が交差した。
「あ?」
少し不機嫌そうに聞いてなかったんですね、と頬を膨らませるその仕種はまるで迫力なんて無い。
反対に少女特有の魅力を引き出しているようだと思った。
(何で、外人って何やっても絵になるんだろな。)
妙なところで、感心しつつKKは悪ィ、とだけ謝る。
ベルは小さくため息を吐いて、気を取り直してもう一度さっきもしていたらしい質問を繰り返した。
「KKさんは、携帯電話…もってますか?」
「ケータイ?」
「サナエちゃん…あぁ、さっきの友達なんですけど…。
長期留学になるんだったら、有った方が便利だって……、」
(まァ、確かに便利だろうな。)
いつでも、連絡がつくと言う点では。
「いいんじゃねぇの?買えば。」
「KKさんも、持ってますか?」
「あー、……一応持ってるけど。――――――――仕事用だな、」
昼の方じゃねェけど、とは言えないが。
「仕事用?普段は、使わないんですか?」
「オレなんかに、電話かけてくるような暇人いねぇよ。」
というよりは、対応がめんどくさいので周りには、教えていないのだが。
そう言って笑うと、ベルはなにかを考えているような顔をしてから意志の強い瞳で俺をまた見上げた。
「あの…ッ」
「?」
「私が携帯買ったら、最初にKKさんにかけてもいいですか!?」
「………はァ?」
間の抜けた声を出してから、ダセェ声を出したと後悔した。
(――――いや、今はそんなことが問題じゃなくて。)
ベルの言っている意図というか。
言葉の意味が…よくつかめなくて。
どう反応していいのかわからない。
「め、いわくですか?」
「いや、んなわけじゃないけど?……どして、オレ?」
「理由が無くちゃ、駄目ですか?」
「いや、そう言うわけじゃ無いけど」

「………会えない時でも、KKさんの声が聞きたいから」

さっきまで俺を見ていた目は、恥ずかしいからか下の方を向いていて。
白色のせいか赤く染まりやすい頬を隠すようにうつむく。
そんな少女を愛しい、と思って。
優しく、髪の毛を撫でた。
髪の毛は、想像通りに流れるようにさらさらでつかみ所が無い。
「別に、迷惑じゃねェよ。」
うつむいていた顔が、嬉しそうに笑ったので俺も笑った。

携帯の番号をメモしたのを確認して、ベルと別れる。




本来、携帯はあまり好きじゃ無いんだが。
いつでもどこでも、縛り付けられているみたいで。
会っている時には、叶わないし。
空気とか、同じく体感する物が違うし。


それでもその小さな機械から聞こえる声が幸せそうならいい、と。
聞こえている声は、「本当」のベルの声ではないけど
確かに、その向こうにはベルが笑っているはずだから。










そんな、束縛も悪くない。




















KKが偽物…っぽい。KK…何だかいい人な感じ。(笑)
まァ、たまにはこんなKベル。
私が過去に書いてきたKベルが殺伐としすぎているって言うのが、問題なだけですが。
いや、黒ベルじゃ無いからなのかな…?


(2002/12/12 UP)

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