スベテは、闇の中に。




















夜の、帳がおりた頃。
闇が、世界を包む頃。







「………ッテ…!」
思わず、漏れた声をスマイルは唇を噛み締めてやり過ごした。
痛みに喘ぐ事も、何故だか躊躇われて。


(……アレだよね。)


とりあえず、現実逃避を試みてみる。
耳の下で、ぴちゃりぴちゃりと水っぽい音が聞こえる。

痛いのは、最初だけ。

痛みに、顔を歪めるのも一瞬の事で。
次第に体の力が無くなるし、頭も働かなくなってくる。
ぶつり。
肌がちぎれるような音を聞いてから、すうっと冷たい感触が首元に感じられる。
「スマイル……大丈夫か?」
問われた言葉に、曖昧に笑って。
「ヒヒヒ…気を使うなんて、ユーリらしくもない」
ボクの言葉に「ふ、」と小さく笑い声が聞こえて。
また先程までの行為が、続行される。



何度目だろうか、こうやってユーリに血を与えるのは。



ふと、考えて遠い昔を思い浮かべたけれども思い出せるはずもなく。
スマイルは、今度は自嘲気味に笑って静かに目を閉じた。

知ってる。
依存する、存在。
こうやって、ボクの血を啜り精神を保つ、ユーリと。
与える事で、精神的充足を得る、ボクと。
どちらがより、愚かで。どちらがより、幸福なのか。
もとより、答えを出そうとは思わないけれども。
何故だか不安になる。
胸がいっぱいになったと思ったら、無性に空しくて。



(泣きそうになるのは、ナンデ?)





望まない、欲しがらないと決めたから。
願ってしまえば、それが手に入らないとわかった時に苦しいから。






ふと、首筋が軽くなってユーリが顔をあげた事に気付いた。
「?どうした?」
口元に赤く細い線が下に向かって零れていて、それが妙に彼の魅力を引き出していた。
青白いとも言える、白い肌に真紅のライン。
赤い血は、重力に逆らうことなくぽたりぽたりと落ちてゆく。
それを、目を細めて見つめて。
たまらずに、声をかけた。
「ねェ?」
帰ってこない返事を待たずに、言葉を続ける。


「ボクの血あげるから-------、」












聞こえただろうか。
聞こえなかっただろうか。
そんな事すら、もうどうでもいいと思えて。
ただ、ボクはいつものように笑った。











ボクの血をあげるから、ボクの身体をあげるから。









どうか、貴方の心をください。















ホラ、手に入らないと知った時に苦しいから。
笑ってごまかしてから、ユーリを抱きしめた。

(あぁ、闇っていいよネ。)
スベテを、本音を隠して愛を囁いて。
触れ合っている時だけは、幸せだから。
闇の中で、二人は二人の存在しか感じ取れないから。



















ぴちゃりぴちゃりと、部屋に響く音を聞きながら。
この闇に、溺れてしまおうか。















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スマユリ仕立て。
何も考えずに、書いてみました。「何かを考えたら負けだ!」それがモットーであります。(何故)
雰囲気だけが命です。(裏を取れば、内容がないとも…)
スマユリ大好きです。他のDeuil内カプも好きなのですが…。
自分が一番書きやすいのは、スマユリだと信じて…ます。(自信なさげ)



(2003/1/16 UP)

<モドル