誰かが、笑った。
遠い過去の、残像。

















人を惑わすもの。
美しく、残酷に。
天使よりも悪魔の方が美しいのは、そうでなくては人を欺けないから。
誰しも、快楽に弱い。
虐げて恐怖を与えるより、快楽を与えて支配する方が。
裏切られる事もないし、何よりも楽でいい。

私は、薄く笑う。
そう言えば、誰かが昔私に言ったか。
その表情は、幸せの最中にあって。
優しく包むように、私を抱きしめる。

そう-----今、みたいに。








「手なずけた、気分か?」
私がそう聞くと、小首をかしげてアッシュは私を見た。
「……何がっスか、」
あまりいい言葉でないことは承知の上で使ったから、アッシュが怪訝そうな表情でこちらを見ているのも気にならなかった。
「気を悪くしたか、すまない。」
胸など痛めていないのだが、表面上だけでもと表情を歪めて見せた。
アッシュが、どうしていいのかわからないというように私を直視した。
絡み合う、視線。
何故、自分と同じ赤い目なのにこんなに澄んでいるのか-----と思う。
羨む訳でもないが。
「昔言われた事がある。『傷ついて警戒の色を濃くしている獣を手なずけた気分だ』、とな。」
「誰が、そんな事ッ」

「私に、血をくれていた慈悲深い人間だった。」

は、と大きく瞳を開いてアッシュは私を見てすぐにそらした。
普段は長い前髪が瞳を隠しているから、時折瞳が見えると印象がまるで違う。
何かを考えているような瞳は、焦点が合わない。
「………ユーリは………、」
視線は、そのままに。
「なんで、オレから血を……吸血しないんスか?」
(気付かないとでも、思っているのか?)
注意深く聞かなくとも、わかるほどの声の震え。

恐れか。
お前の腕の中にいる、存在を怖いとでも……?

「吸血してもいいのか?」
悪戯心で、自嘲気味に笑う-------お前がどう答えるのか、承知の上で。
「ユーリが、望むなら。」
そう言いおいて静かに瞳を閉じた。





快楽や幸福は、麻薬のように。
静かに体を蝕み、その効き目が切れ始めるとまたそれを欲する。

血の匂い、を。

ぬくもりを。











静かに、首筋に舌をはわせた。
くすぐったそうに、顔をしかめてからぎゅっと私の腕にしがみつく。














誰かが、笑った。
遠い過去の、残像。

笑ったのは、自分自身。
笑われたのは、自分自身。





涙が頬を伝う感触も、そのままに。
















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ユリアシュ仕立て?(疑問形)
やはり、何も考えないで(以下略)
いろいろ考えると、言葉をあまり知らないくせに何だか小難しい文章になるので。
雰囲気重視の時は、ただただ頭に浮かぶ言葉をうちこむ作業。
意外に楽しいですが文章のつながりがおかしいのが難点。(大問題だろソレ)
自分の書くユリアシュの基本はどうやら鬼畜になりきれないユーリと、弱すぎて何もかも許してしまいそうなアッシュが主成分です。
……すみません。


(2003/1/18UP)

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