この気持ちも、何もかも。
切り裂いて、捨ててしまえば――
…………捨てられるなら、いいのに。
< ハ サ ミ >
「お願いだからさー、」
そう言われて押し付けられた手紙を、サイバ-は返す暇さえ与えられずに受け取ってしまった。
「ちょッ、待てよ…!自分で渡しに行けばいいじゃん…!!」
手紙を受け取るのは今回が初めてじゃ無い。
しかしその度に、断るけれども上手くいった試しが無い。
今回もそれで、返そうとするより早く彼女達は目の前からいなくなっていた。
何で女の子ってこうも強引なんだろう、と手の中にあった封筒をまじまじと見つめる。
白い封筒を見ていると、何だか眩暈がしそうだ。
その白い四角の中に、女の子特有の柔らかい小さな文字で自分の兄の名前が書かれていた。
「…………、メンドクセー。」
わざとらしく、ため息とともに吐き出した。
その言葉が、自分へのいい訳だと気付いている。
気付いていても、それを認めてしまうのは納得がいかない。
(帰ったら速攻、アニキの部屋に置いてこよう---)
その手紙を渡したくない理由を、自覚する前に。
「サイバー!帰ろうぜー!!」
そう、友達に声をかけられてその手紙を無造作にカバンに詰め込んだ。
少し寄り道して帰ると、日はもう暮れていて。
家に着いた時にはもう真っ暗だった。
(こりゃ、飯抜きかなー)
そんな事を考えながら、ドアを開けると家の中からいい匂いが漂ってきて思わず顔が緩んだ。
「ただいまー」
そう言いながら台所へ向かうと、母親が時計を一瞥して、またまな板の方に向き直った。
「今日は遅かったのねぇ。もうすぐ出来るから着替えて待ってなさい。」
「はーい」
「下りてくる時、マコトにも声かけてきてねー」
付け足されるように、言われた言葉。
(あ。)
母親から、兄の名前が出てきた事によってさっきまで忘れていたあの手紙の存在を思い出す。
部屋に戻って、着替えながらカバンを開く。
入れ方がおかしかったのか、入れる前はまっすぐだった封筒は少しひしゃげていた。
それを改めて机の上において、家着に着替える。
着替え終わって、もう一度手紙を見つめた。
「……………、」
何の気なしに、机の引き出しに手をかけて中からハサミを取り出した。
やる気も無いのに、ハサミの刃にその手紙をはさんでみる。
あくまで、切る気はない。
ただ、この手紙を切れたらどんなに気持ちが楽になるだろうと…考えただけ。
切るワケ、無い。
わかっていても、そのハサミの刃の綺麗さに見とれた。
――――それは、衝動的に。
やる気も無いのに、モデルガンを自分に向けてみたり。
やる気も無いのに、母親の化粧棚にあった剃刀を手首にあててみたり。
そんな感覚。
ただ、違うのは。
それを行動におこしても自分は痛くも痒くもない、ところ。
(――――でも、切れない。)
この手紙を書いた子の気持ちが、よくわかるから。
自分には、その権利が無いから。
「………らしくねー」
ハサミを静かに置いて、一人ごちた。
気付きたくなかったのに、何となく気付いてしまった。
マコトに、女の子からの手紙を渡すのが、嫌な理由が。
手紙を切り裂きたい、そう思う理由が。
「……………、」
思いを振り切るように、半ば強引に手紙を掴んで自室を出た。
とんとんとん。
「入るよー?」
ノックと同時に、ドアを開けるとマコトがこっちを振り向いた。
「お前なー、ノックしながら入るなよー。」
注意をしつつも笑っている様子を見ると、怒っているわけじゃ無い。
「母さんが、そろそろ飯だって。」
読んでいたらしい雑誌を、音を立てて閉じるて机に置く。
手紙を持っているほうの手に、思わず力が入った。
「あ、と!それと、コレ…!」
ずい、と手紙をマコトの方に押し付けて相手が受け取るのを待つ。
妙にゆっくりとした動作でそれを受け取るのを見ると、俺はアニキの部屋から出ようとした。
ドアノブに手をかけると同時に
「ごめん、」
という声が聞こえて、意味がつかめずに後ろを振り向く。
(……何の為の、謝り?)
思った事を、口には出来なかった。
アニキの顔は、何故だか辛そうに笑っていてびっくりした。
「………ご飯、行こうか?」
さっきの言葉は最初から無かったのかと思われるほど、さらりと言われてどうしていいのかわからない。
アニキは手紙をさっきの雑誌の上に載せて、俺を促して部屋を出る。
「……………。」
自分の前を歩いていくアニキの背中を見つめながら、その背中に願う。
早く、大人になるから。
追いつける事は、無いけど。
ハサミが無くても、断ち切れるように。
笑えるように。
だから、もう少し。
もう少しだけ――――オレだけの「アニキ」で、いてよ。
初マコサイ。ど、どどどどうしましょう?(聞くな)
兄弟モノ、大好きなんですけど書いてみると必ず微妙な関係になっているのは何でなんでしょう…。
自分の気持ち的には、両思いな感じな二人なのですが。……アレ?
気付いたら、何だか一方通行…?
マコト視点も書きたい…です。そ、そしたら多分両思いっぽく…!!(必死)
(2002/12/12 UP)
<モドル