B−rain




その日は、ずっと雨が降り続いていた。
梅雨入りしたここ最近、そんな日は少なくない。
雨は嫌いじゃ無い、何もかもを流してくれそうだから。



………決してそんな事など有り得はしないのに。











人気のない街路。




がたん、



もっと人気のない裏路地。
そこから、何かの音が聞こえた。
厄介事には巻き込まれたくないが、好奇心の方が勝った。


俺は、その裏路地に足を踏み入れる。


頭上から降り注ぐ雨がいっそう強くなったように思えた。
雨のせいで敏感になっている感覚が、警告を発する。
ゆっくりと、足をとめる。
慣れる事の出来ない、匂い。

(血、だ。)

瞬間的にそう思った。
このまま、何事もなかったようにこの場を去る事も出来た。
しかし、俺はそれをしなかった。
否、出来なかったと言うのが一番正しいだろう。
物陰に隠れるように、倒れている人間を視界に入れてしまったからだ。
片方脱げている、ハイヒールの靴はその人間の物らしい。
スタイルのいい身体を投げ出して、そいつは気を失っていた。
「………女、」
赤く長い髪が乱れて、地面に舞っていた。
近づき、抱き起こして息があることを確認する。
安緒の溜息を吐き出すと、そいつは少し身動ぎした。
甘い香水の匂いが鼻腔をくすぐる。
よくよく見てみれば、服にべっとりと付着している紅のシミもこいつの物ではないらしい。
これからどうしようかと少し考えて、結局自分の家に連れ帰った。




「ん…、」

長いまつげの下から淡い青の瞳がうっすらと開かれた。
「起きたか?」
声をかけると、うつろだった瞳が大きく開いた。
俺の顔を確認してすぐに、怪訝そうな顔に変わる。
「アンタ…、誰?」
「おっと、お互いに素性を探るのはやめようぜ。あんな所に血まみれで倒れてたくらいだ。
あんただって探られたく はないだろう。」
俺がそう言うと目の前の女は、目を細めてうっすらと笑った。
「随分、物分りのいい…。同業者かしら?」
「まァ、そんな所だろうな。」
(多分、種類は違うだろうが…な。)
女は、ベットから静かに下りて自分の胸元を探る。
予想通りに中から1枚のフロッピー。
連れ帰る時にすでに気付いていたから、この女の素性も何となく推測できた。
(……俺ほど下世話な仕事ではないが、見た限り手段も選んでないんだろうな、)
自嘲気味に笑う。
「…ちょっと、何がおかしいのよ!」
「否、別に。」
俺がそう言うと、機嫌を損ねてしまったのか女は眉根を寄せてこちらを睨んだ。
「…………ヤな男。」
「………都合の『いい』男なんて、ごめんだね。」
俺の言葉を聞いた女は、少し面食らった面持ちで俺を見たが、その直後に今度は楽しそうに笑った。
(意外と、表情豊かな女。…仕事に差し支えは出ないのか?)
俺は、余計な世話である事を承知でそんな事を考えた…らしい。
ボケっとしていて、女が俺の側にきていたことにも気付かなかった。
顎に柔らかい手が触れたかと思ったら、半ば強引に引き寄せられる。
先程まで酷く冷たかった身体がすでに温かく、触れた唇は熱かった。
甘い香りが、鼻腔をくすぐる。
唇が離れたので理由を聞こうとして…止めた。
こういう女に、理由を求める方が間違ってるだろう。
「なに、馬鹿っぽい顔してんのよ。」
「あいにく、生まれつきこういう顔なんだよ。」
「あー言えば、こう言うのね。」
くすくすと笑いながら、フロッピーを元に戻した。
そして、此方を再び見上げる。
「さて、借りも返した事だし。そろそろ行くわ。」
「借りを返した?さっきのキス一つで?」
俺が、わざとらしくそう聞くと女は嬉しそうに笑った。
「あら、私の身体は高いのよ?…………いいわ…もう一つオマケ。私の名前、教えてあげる。」
「……名前?」
「メイ。」
女は、それだけを口にして、少し間を置いて笑顔のままで言葉を繋げた。
「………もう、会わないといいわね。」

笑いながら言うセリフじゃ無いだろう、と思いつつ。

女が出て行くのを無言で見守った。
お互い、こんな仕事をしていて、深入りも感情移入も出来ない事は最初から承知の上だったはずだ。
次に会う時は仕事の障害になるかもしれない。
その時は、殺しあうのかも知れない。
女が―――メイが言った言葉を何度も、頭の中で繰り返した。



(もう、会わないといい――――)



まるで、言い聞かせるように。















KKvメイです。覚えていらっしゃる方がいるか…分かりませんが…。毎日更新(2002年6月)で言っていたKメイ小説。
よって、何故か梅雨入りです。アップするの遅すぎるよ…!>自分
続きも、一応頭の中にはあるのですが…書きあがったとしても裏行きですので中途半端ですみません。
裏行き…と言っても、精神的黒さであってエロではないのですが。(苦笑)
ちなみにタイトルの「B−rain」は、「bloody rain」です。ありがちー。
一応サトリュの「rainy-B」の対話としてあったのですが、考えていたエピがどちらの話からも消えてしまったので
全く、関係の無い物になりました…。(反省)。


(2003/2/25 UP)

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