こんこん。
低いノックの音で目が覚めた。
いつのまにかドアにもたれかかって眠ってしまっていたらしい。
「…………誰、」
もそりと起き上がり、扉を開ける。
「おかしな顔をしているな。」
「ユーリ…、」
扉を開けるとそこにはユーリが居た。
なんとなく、ユーリが此処を訪れた理由を理解してしまった。


アッシュのこと。


逃げたくなったけど、ユーリを部屋の中に招き入れて扉を閉めた。
ユーリは、窓の方に近づいていつのまにか出ていた月を見つめた。
ユーリが話を切り出さないので、スマイルは所在無く視線を動かした。
「珍しいね、ユーリが僕の部屋に来るなんてサ。」
「まぁな。」
窓のガラスに指を置いて、まるでその冷たさを認識するように硝子をなでる。
ユーリは、一つため息を吐いた。
「………それで、」
それだけを言って、ユーリはスマイルを見た。
「それでって…何さ?」
普段から言葉が少ないユーリだが、今日は特別言葉になっていない。
「お前はどうしたいんだ。」
「どうしたい…って言われても………、」
さっきよりも深くため息。
「先程……アッシュが私の部屋を訪れてきてな、この城を出て行きたいと言った。」
「え?嘘!?」
正直に驚く。
もしかしなくても、僕の所為で!?
「どういうやり取りがあったかまでは、詮索する気もないが…お前はそれで満足なのか?」
「満足…って……そんなわけ無いじゃん!!」
気付いたら声を荒げていた。
何がどうなって、アッシュがそういう結論を出したかはわからないけど。
それが、僕の所為だって言うなら…、
「…………素直になれ。お前は気に入らないと言っていたが目はアイツを追っていただろう。」
「……ボク…アッシュを見ていた?」
「あぁ。自覚も無かったか?」
いつから、目で追っていたんだろう。
いつからか、気に入らないと思い込もうとしていた?
…………距離をおくために。
「ユーリ……ボクは怖いのかも…、必要以上に執着してしまうコトが…。」
ユーリは何も言わなかった。
その沈黙が、「答えは自分で見つけろ」と言っている様で。

「ちょっと、アッシュのところ行って来る!」
僕は、いてもたってもいられなくなって部屋を飛び出した。







ユーリには、ああ言ったが…。
正直なにをアッシュに言っていいのかわからなくなって扉をノックするのを躊躇った。
(…………どうしよう…。)
うろうろと、扉の前を右往左往した。
もしかしたら、何か違った理由でアッシュはこの城を出て行きたいのかもしれない。
僕はそれ程重要じゃ無いのかもしれない。
自惚れ…かもしれない。
(えぇい!!)
スマイルは勇気を出して、扉を強くたたいた。
「誰っスか?…………スマイル…、」
アッシュはスマイルを確認すると、驚いてすぐに寂しそうに笑った。
「話があるんだヨ、いい?」
スマイルがそう言うと、アッシュは自分の部屋にスマイルを通した。
部屋に入ってみれば、荷物がすでにまとめられていた。
いや、未だ此処に来てそんなに経っていないから荷物を解いてないだけかも知れない。
「……ユーリから聞いたんだけどサ、ここ出てくってホント?」
アッシュを見ると、彼は目をそらした。
「…………迷惑かけてすまないとは、思ってるっス…。」
彼に近づくと、アッシュは体を小さく震わせた。
あきらかな拒絶。
「何で……、じゃぁなんであんなコト言ったのサ!!!!!」
そんな事簡単に言わないで。
どうせ裏切られてしまうから。
「スマイル?」
目が潤んで視界がゆがむ。

ふわり。

暖かい体温に、やっと自分がアッシュに抱きしめられている事に気付いた。

「アアア、アッシュ!?」
頭がパニックで、何も考えられない。
耳元に彼の声が心地よく流れた。
「………好きっス。でも…俺は此処には居られないっス…、」
「何でさ!」
噛み付くように、叫んだ。
顔をあげて、睨むように見るとアッシュは顔を赤く染めて僕を見ていた。

「俺が、狼男って言うのはわかってるっスか?」

何故、今その話をし出したのかスマイルには理解できなかった。
話をすり替えられたとも思ったが、素直に答える。
「一応、採用時にユーリに聞いてるケド…。」
「満月の夜は、理性が吹っ飛ぶっスよ」
「?」
アッシュが言いたい事がわからない。
「自分の考えが甘かったっス。もっと、平気だと思ってたのに…。駄目そうで…」
「??何言ってンの、アッシュ。」
スマイルを抱く手に、力が入った。

「好き過ぎて、壊してしまうかもしれない…そんなのはいやっス!」
アッシュが言いたい事が一気にわかってしまった。
体内の血液が沸騰するかと思った。
顔が、体が熱くてたまらなかった。
「す、好きって…そういう…」

「き……気持ち悪いっスよね、こんなの。」

スマイルはアッシュの背に手を回した。
自分の体より一回りほど大きいアッシュの心臓は妙に早く鳴っていた。
「う…」
「スマイ……、」

「うわーーーーーーーん!!!!!!!」

突然、スマイルが叫ぶように泣き声を出した。
もともと聴覚のいいアッシュは、眩暈がする程その声は大きくて。
「ス、スマイル??」
わたわたと慌てるアッシュは、スマイルの顔を覗き込もうとしたがスマイルはその表情を見られ ない為にアッシュの胸に顔を押し付けていた。
どうしていいのかわからなくなったアッシュは、ぽんぽんとスマイルの背を優しくたたき泣き止む までずっとスマイルを抱きしめていた。






 アッシュはそっと、自分の部屋から出た。
静かに、ユーリの部屋の扉をノックする。
「アッシュか、」
そういう言葉が部屋の中から聞こえて、扉が開いた。
ユーリが静かに笑い、スマイルはどうしたのか聞いてきた。
「寝てるっス、」
「あれだけ、思いっきり泣けばな…疲れもするだろう。この部屋からでも聞こえたしな。」
ユーリは、くすくすと笑った。
「スマイルは何で…」
「私に聞かれても、困るな…。それは本人に聞け。」
それもそうかと、アッシュが納得する。
「フフ………、出て行くタイミングを逃したな、」
「今から満月の夜が怖いっス…、」
ユーリは、にっこりと笑った。




ぱたりと、自分の部屋の扉を閉めた。
寝台には、自分の場所を占拠したスマイルが未だ眠っていた。
起こさないように、その隣に腰をおろしスマイルの寝顔を覗き見る。
未だに、アッシュにはスマイルが泣いた理由がわからない。
しかし。
抱きしめ返してくれたという事は、アッシュが恐れていたことではないという事がわかる。


「早く……起きないっスかね……、」

艶のある青い髪の毛をなでるように触りスマイルが目を覚ますのを待った。












 スマイルが目を覚ました時、隣にアッシュが眠っていた。
最初は状況が把握できなかったが、次第に思い出してきて恥ずかしいのと同時に幸せになる。
きゅっと、アッシュに抱きついてもう一度スマイルは夢におちた。











全てが夢にならないように祈りながら、アッシュの夢が見れたらいいなと思いつつ。










結構前の誕生日祝いに某方に贈らせて頂いた(押し付けたとも言う。)アスマ。
本当にごめんなさい。(初っ端から謝罪かよ!)
何だか、久し振りのバカップルでした。は、はずかしい…。
かわいい二人を目指してみました。
……目指しきれませんでした…。

とにかく、ごめんなさい!!(逃亡)


(2003/4/14 UP)

<モドル