(なんで、『お兄ちゃん』なんだろう。)
強く、そう思ったのはいつの日だったか。
良くも悪くも自分の自己主張の上手な弟が、憎くもあり羨ましくもあった。
笑う事でごまかして。優しい言葉をかけて。
せめて嫌われない事で、周りからの愛情を得ようとするばかりに――――気付いたら嘘で固められた自分がいた。
自分の事を好きだと、言ってくれる女の子もいたけれどそのキラキラとした瞳に直視される度に罪悪感が胸を燻る。
周りが見ている俺は、本当の俺ではなくて。
本当の俺は、何処にもいなくて。

気付いて欲しかった、見つけて欲しかった。






泣く事も出来ない、臆病な自分を。










ばたん!
扉の音が家中に響いた。
もちろんそれは、隣の部屋の俺の耳にも痛いほど聞こえてそれまで読んでいた雑誌を、半ば乱暴に閉じる。
「?」
確かに、弟のサイバーは乱雑で大雑把でよく母親に怒られてはいるが今の音は常軌を逸していた。
不思議に思って、サイドライトを消して部屋を出る。
隣の部屋まではたった数歩。
鍵のついていないドアだから、伺うことなく入る事は出来るけれど一応ノック。
「サイバー?」
ついでに声もかけて見たけれど、反応がない。
絶対にいるはずなのに、返事もしない。
「………サイバー?入るぞ。」
扉をゆっくり開けると、手元が暗い事に気付いた。
開けて、部屋の電気すらつけられていない事がわかる。
「サイバー?」
手探りで部屋の電気を入れると、ベットの方にうつぶせになって寝ているサイバーがいた。
「―――――――何。」
ふてくされたような…不機嫌を声にしてみたらこんな感じです、と言わんばかりの声で。
「何かあった?」
ベットのすみっこに、腰掛ける。
自分の体重の分だけ寝台が沈んだ。
「…………別に。」
(嘘つけ。)
短く溜息を吐いて、またサイバーの方を窺う。


「友達と、ケンカした?」
「―――――誰が」
「好きな子に、ふられた?」
「だから、誰が」
「テストの点数が悪かった?」
「………違う」
「給食で嫌いなものが出た?」
「あーもう!うるさいなー!!っていうかなんだよ、給食って!」
激昂した、サイバーがこっちを見る。
「やっと、こっち見た。」
してやったり、だ。
思わず笑うと、サイバーは顔をしかめてまた枕に顔をのせる。



目が、赤い。
目蓋が少しはれて、いつもの大きな目が少し細くなっていた。
(泣いたん、だ?)
声に出して聞いたら、多分機嫌を損ねてしまうから。
心の中で問い掛けて、優しく髪の毛を撫でた。

「…………………俺、兄貴のそう言うところ、嫌い。」

ぽつりと零れた言葉は、本音か。
「うん。」
何となく、あいづちをうつ。
「――――ここじゃ無いどこかに、行きたい」
「うん。」
何処へ、と聞くのは無粋だ。
相変わらず伏せたままの顔は、どんな表情を浮かべているのだろう。
さっきから質問しておいて…と思われているかもしれないけれど、実際サイバーがどんな理由で
こんなに落ち込んでいるのかには興味がさほど無かった。
ただ、いつものように元気になって欲しいと思うだけで。
甘やかす事も簡単だし、叱る事も簡単だ。
手を差し出してしまえば、立ち直ってくれるだろう。
でも、その行為はおそらく自己満足でしかない。




「――――――行こうか?」




「え?」

意味がわからない、というように少し此方に視線を向けたサイバーの頭に、手を置いた。

「ここじゃ無いどこか?」
















――――――――笑ったのは、どっちが先だっただろう。

















何故……マコサイ書いてるのか…自分でも…。
本当は、サトリュの梅雨話を書く予定でしたが気付いたらマコサイを……。
でも前回書いたサイバ―話のマコト編ではなく、兄弟物な感じ…?(汗)
続きも途中まで書けてはいるのですが、マコトが面白いくらいに暗くなってしまったり、ストーリーを見失ったり…。
まだまだ修行が足りません。
出来るだけ早く、アップにこぎつけたいな…む、無理かな……。(遠い眼)



2003/7/8 UP
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