ゆっくりと、瞳を開く。




そこに有るのは  静寂  だけ。




           それ以外には    何も      無い







                                      ………何、も












            目の前に広がるのは  静寂  と、        。










「起きたのか。」
突然聞こえた声に驚きを隠せず、身体を震わせた。
そして咄嗟にそちらに目を向ける。
「!…………誰だ!?」
放った声を自分で聞きながら、自分の目を疑った。
(誰…だ?)
感じたのは恐怖、だ。
「『誰だ?』………相変わらず薄情だな、ユーリ。」
「何故…私の名を…、」
「……眠りすぎて、忘れてしまったらしいな。フフ……それもまた、お前らしい。」
そう言いながら、その青年はユーリの頬に触れる。
(眠り……すぎ?)
何故か、抵抗するのを忘れた。
目の前の青年の顔が近づいてきたが、ユーリは動かずにその顔を見つめていた。


自分と全く同じ、顔。


まるで、儀式のようだった。ただ、触れ合うだけの口付け。
今まで仮死状態にあったユーリの体温は冷たく、目の前の青年の唇は、妙に熱を帯びて熱かった。
離れていく唇を内心寂しいと思いながら、ユーリはもう一度目の前の人物を見た。
どう、見ても自分だ。
髪の色や、羽、違うところも有るが似すぎていた。
似ていると言うよりは、「そのもの」という感じだ。

「どうした、」
ふと、思い出したようにユーリは訊ねる。
「………。スマイルや、アッシュは……」
「スマイルやアッシュ?」
「ココに、いただろう。」
先程から分からない事だらけだ。
せめて、あいつらの顔を見て安心したい。
「ここに?…………………フフフ、」
目の前の人物はユーリを見て少し考えた後、口に手をあてて笑い出した。
「何がおかしい、」
「ユーリ、お前は夢を見ていたんだよ。そんな物存在しない。」
「ゆ、め……そんな、はずは無い!!」
確かに、居た。現実に存在し一緒に音楽を作り、時には生活を共にした。

夢であるはずが無い。

「では、聞くが。居たと証明できる物などあるのか?」
「証明………」
ユーリは起き上がり、起きたばかりで未だふらつく足で必死に歩きだした。未だ羽の力も戻っていない。
ゆっくりと、ゆっくりと足を進めてそこから一番近いアッシュの部屋の前に立つ。
勢いよく扉を開いた。
かび臭い匂いとほこりが舞い上がる。
「………な…い。」
あるはずのものが何も無かった。
家具も、アッシュ本人も。
はやる気持ちを必死に押さえて、小走りにユーリは廊下を移動した。
(何かの間違いだ!)

ばん!

勢い良くスマイルの部屋の扉を開けたがあったのはやはりかび臭い匂いと何も無い、空間。
何も、誰も、居ない。
回復しつつある足を必死に動かして城中を探したが見つからなかった。
生活の痕跡さえない。

「はァ、はァ…ゲホッ。」
走り続けで、苦しくなった呼吸を整える。
(いない。)



「そんな、幸せな夢など忘れてしまえばいい。」
諭されるように、優しく背後から言われて涙が一粒こぼれた。
後ろを向くと、同じ顔。
夢。全てが、夢。
「は……ハハハ!」
笑うしかなかった。何もかもが自分が作り上げた偶像でしかなかった。
永らく眠っていた間に見た夢でしかなかったのだ。
いつから、どこから。
全てが。
幸せな夢、暖かい夢。
現実を思い知らされるなら、いっそ見なければ楽だった。
幸せを知ってから、それを全て崩されるならいっそ見ないほうが……。

それでも。

例え夢であっても、自分の中に残された胸が温かくなるような感情は消えない。
スマイルと出会って、自分が笑えることに気付いた。
アッシュと出会って、自分が余りに弱い存在だった事に気付いた。
一人では生きて行けない。
孤独が、虚無が、怖くなった。
強くなり、また弱くなる。

涙が止まらない。
まるで、子供のように泣きじゃくった。
優しく頭をなでられて、目の前の人物に抱きついた。
ただ、ぬくもりがあるのが嬉しかった。
確かに、そこに存在している証。
「幸せな夢など、忘れてしまえばいい。」
もう一度、先程の言葉を繰り返した。ぎゅっと、背中を抱きしめられる。





(忘れて、しまえばいい。)













「ユーリ?」
ぽんと、手を置かれ身を起こした。
「!?」
反射的に、身構える。
目の前には怪訝そうに自分を見るアッシュが居た。
「どうしたっスか?」

「ア、 ッシュ…、」
居るはずの無い人物。有る筈の無い、再会。
思わず声が掠れた。
「悪い夢でも、見たっスか?汗がびしょびしょで風邪ひいちまいますよ。」
そう言いながら、アッシュは目の前にタオルを差し出した。
「………私は…寝ていたのか…、」
「?そうっスよ?」
不思議そうに自分を見るアッシュ。


(忘れてしまえば、いい。)
「は、ははは…。」


自然と笑いがこぼれた。
目頭が熱くなって、涙があふれる。
ぽん、と頭をなでられる。
「悪い夢なんて、忘れるのが一番っスよ。」






どっちが、夢なのか。
どっちが、現実なのか。






でも。


もし、これが夢なら目覚めなければいい。
現実を忘れ、夢に溺れて。













そして私は、また深い眠りにつくのだ。




















同キャラカプが結構好きです。ユリユリー。
ユーリを書くといつもどうしてもテーマが似通ってしまうのですが、流石に同キャラだとそれ以前の問題でした。
というか、訳のわからない話ですね…。
訳の分からない話書くのも読むのも好きなんです…。ごめんなさい。
そして、何だかユリユリなのに途中…アスユリみたいになってますが。……あまり意識はしてませんでした。
アスユリも好きなので(というかDeuil内雑食なので)それでも可ですが。(オイ)




(2003/1/6 UP)

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