君を
貴方を
守りたいと、思う。
スタッフの叫びにも似た声で、思わず後ろを振り返った。
いつも見ているのと、何か違う。風景。
足りない。
何かが、足りない。
そう思った。
「おいッ!大丈夫かよ!」
遠くで、フォースの声が、聞こえた気がした。
彼は、何故だかかがんでいて誰かを支えているようだった。
その腕の中には、若。
(そうか、視界に若がいなかったのか。)
妙に冷静に、そんな事を考える。
「大丈夫……です…。」
少し辛そうに笑う、彼。
誰が見ても明らかに、無理をしているようだった。
連日のハードスケジュールに、誰しもが疲れていた。
自分だって、結構きつかったと思う。
若は、どうだっただろうか。
最年少である彼にはもっときつかったに違いない。
体力もそんなにあるようには見受けられない華奢な身体は、倒れた身体を投げ出している。
フォースにささえられて何とか立ち上がろうとしていた。
「大丈夫か?」
ツーストが、声をかけた。
若にではなく、この自分に。
「?言う相手を間違えてるよ?」
自分は、そう言って笑ったような気がする。
…………笑えていただろうか。
自分の気持ちをごまかすように、瞳を伏せて一呼吸した。
一歩近寄って、声を出す。
若が倒れたことによってざわついていた空気が、一瞬シンと静まり返った。
「皆さんすみません、時間を頂いても宜しいですか?」
とりあえず、休息を。
自分の言葉に、驚いたように若が慌てて言う。
「そんなッ…僕、仕事続けられます!大丈夫ですから…」
「若」
遮るように名前を呼んで。
「頼むから」
休んでくれ、と付け加えた。
そんな自分の言葉に、若は寂しそうに瞳を伏せて皆に謝罪の言葉だけを述べて救護室に向かった。
激しく自己嫌悪。
(最悪だ。)
寝台に潜り込んで、せめて与えられた時間を有効に使おうと瞳を閉じる。
身体は気だるく疲れているのに、何故だか眠りにつけなくて結局白い天井を見つめていた。
涙が出そうだ、と思った。
情けなくて、あまりにも自分は弱くて。
皆のことが好きなのに、皆に迷惑をかけている自分が憎くて。
体力が無いのもあるが、やはり自己管理の無さが原因だと思う。
(最近、いつもそうだ。)
身体が重い。
気が重い。
与えてもらった時間の分だけ、沢山の人に迷惑がかかっている。
勿論、それは判断したウーノさんにも。
皆に迷惑をかけているけれども、一番心配をかけてるのはリーダーでもあるウーノさんだ。
あの人は、僕だけでなく他のメンバーの心配もしている。
すごく強くて――――弱い人。
かちゃり。
ドアノブの音が、静かな部屋に響いた。
誰かと、顔をあげると今顔を思い浮かべていたウーノさんだった。
「若、大丈夫?」
にこり、と優しげに笑うとその表情どおりに優しい言葉をかけてくれた。
「すみません。」
申し訳ない気分いっぱいで、思わず謝る。
ウーノさんは、近くに椅子をひいてきて寝台の横に座った。
いつもなら、謝罪の言葉に返してくれる言葉も宙に浮いたように消える。
怒っているのだ、と思った。
(当たり前だ。迷惑に思われている。)
思わず、白いシーツを掴んだ。
何よりも、自分が許せなかった。
「若。」
しかし、耳に届いた声は思いのほか柔らかかった。
「この仕事、やめた方がいい。」
この人は、どういう気分でこの言葉を言ったのだろう。
ただ、それだけが気になった。
突き放す、つもりは無い。
ただ、もう限界だった。
無理をしている、彼を見ているのが。
無理して笑う彼を見ているのが、辛くて仕方なかった。
君を守りたい。
心から、そう思うのに。
自分なんかでは、彼の力にはなれないとわかっていたから。
口から離れた言葉は、目の前の彼を戸惑わせていた。
漆黒の大きな瞳が不安げに揺れる。
「何で……ですか。」
守りたいから、君を。
自分は、弱すぎて。
せめてこの場所から遠ざけたい、と思った。
結局は、自分勝手な意見でしかない。
若の為だと言いつつ、彼の存在を完璧に無視している。
彼の言葉にどう答えようか逡巡して、思っている事を素直に言葉にしようとした。
「「守りたいから、」」
二人の言葉が、重なった。
そして、驚きの声も。
「「え?」」
この仕事にやりがいを感じている。
ファンも沢山出来た。
何だかんだと言って、沢山の人と触れ合えるこの仕事は楽しかった。
でもそれ以上に。
貴方といると、強くなれる気がする。
ただの勘違いかも知れないけれども。
『守りたいから』。
率直に言えば、この仕事をやめたくない――――やめられない理由だ。
守りたい、他の誰でもなく。
貴方を。
優しくて、でも人を傷つけない代わりに自分を犠牲にする――――貴方を。
時々、不安になる。
いつか、壊れちゃうんじゃないかと。
守りたい。
強くなりたい。
そして――――貴方の隣にいたい、と。
「心配かけて、ごめんなさい。でも、強くなりたいんです。」
凛とした瞳。
まっすぐに視線をウーノに向けた。
その心情を知ってか、知らずかウーノは困ったように笑って。
「………あと少しで、本番だから。それまで休むといいよ。」
「はい。」
若が返事をしたので、ウーノが腰をあげる。
椅子をもとあった場所に置こうとして、後を振り向いたら衣装を軽く後ろに引っ張られた。
「若?」
「あ、あの。もう少し側にいてもらってもいいですか?」
ぽんと、頭を撫でられた手に安心して若はもう一度シーツにすべりこんだ。
そんな訳で13(?)です。
というか、自分の中では若がもう少し成長したら31だと思うのですが。(エ)
この二人は、24や42に比べたら、大人しい感じですね…。
どちらかというと、人の目を気にする方だと思うのです。
周りに気を使って、自分を押さえ込んだり。
相手を思いやる気持ちが強くて、どうにもならない…そんな感じの話を、書いてみたいです。
(勝手に書け…って話。)
(2003/1/13 UP)
<モドル