君に触れたい








「触れても?」

いいか?という意味を持って、その言葉が俺に向けられる。
面と向って、言われる事なんて初めてで意味を理解するのに一瞬反応が遅れた。
嫌だ、と返事をする前にもうその手は俺の髪に触れていた。

「!」

反射的にその手を払いのけようとして、反対にその手首をとられる。
苦笑いしながら、髪の毛を梳く手塚さんはなんだか嬉しそうで腹立たしい。
その緩みきった顔に、もう片方の手で反抗する気も失せた。
「―――…なんで、」
「何だ?」
「なんで、みんな人の髪に触りたがるんだ…。」
”みんな”とは言っても、限られた人間ではあるが。
自分が苦手だと思うからであろうか、どうにも気になってしまう。
しかし、その質問をこの男にするのは間違いだった、とすぐさま後悔する。
返答次第では、自由の利くもう一方の手で殴る用意は出来ている。
ろくな事を言わないんだ、この人は。
(腹立たしい。)
イライラと、睨むような形で手塚さんを見れば
「好きな人に触れたいと思うのは、みんな同じだろう。」
真顔でそんな事を言われたので、言葉を失う。
断じて見惚れた、とか。
肯定的なものではなくて、呆れて何も言えない、というやつだ。
「……あんたは……」
がくり、と頭を垂れれば殊更優しく髪の毛の隙間を縫ってその指が髪の毛を梳いた。
自然な流れで、前髪に触れて少し黙ったかと思えば




「髪の毛に邪魔される事なく、その綺麗な眼が見たいからかもしれん。」




















なんて事を言いだしたので、容赦なく殴りました。






2004/8/10 up


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