静かな、文字の海の中で。



「「あ、」」


静かなその場所に、二つの声が重なった。
自分も驚いたが、目の前のこの人もよほど驚いているのだろう。
冷静沈着ないつもを知っていると、
今の間の抜けた声は、この人らしくないものだと思った。
「こんなところで会うとは、これは運め、」
「偶然ですね、探している本があって思わず遠出してしまいましたよ。」
いつもは無口に見えるくせに、なんでこの人は俺の前だけ
こんなに饒舌になるんだろうか、と呆れながらも
苦笑いを含んだ表情で言い訳のようなものをすると
手塚さんはすこし表情を柔らかくした。
「そうか。」


ここは自分の行動範囲から少しはなれた公共図書館だ。


この人がどこに住んでいるのか、までは知らないが
ここは確かに青学からも近かったような気がする。
この人の行動範囲内だったのか、と冷静に考えた。
休日である為に、どちらも私服だったが
こうやって「偶然」が重なって、試合などで見かける回数よりも
こういう形で会う回数の方が多くなってきて
いつの間にかその姿に違和感もなくなってきた。
受け入れたくないのに、これが普通なのだと思えてきてしまう。
「……手塚さんは?」
「あぁ、少し調べモノがあったが…もう、済んだ。」
「そうですか………」
会話が終了した。
当然だ、元より共通点など無いに等しいのだから。
敢えて挙げるなら「テニス」だろうが、
この人とその話をする気にはなれない。
静かな空間なのに、二人に落ちる沈黙だけが異質な感じがして
早くこの場を去ろうとして、挨拶をするために顔を上げる。
「あの…」
「もしよければ、この後昼ごはん一緒に食べないか?」

本当に、らしくないと思う。
自分も、この人も。
一緒にいるのに違和感を感じるのに、
何故離れがたいと感じてしまうのだろう。



借りた本を片手に二人で図書館を出ると、
冬の寒さが身にしみた。




2008/5/8 UP



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