動き出した、ストーリー







例えば、あの時出会えてなかったら。


そう思うことも、ある。
あの時俺が、あの瞬間を見なければ
多分俺達の進む道は、交わることのない直線だった。
強い眼差しにどうしようもなくひかれ、
その視界に自分を映して欲しいと思わなければ、
俺は多分こうして日吉の目の前に立っていない。

同学年であれば、偶然にも同じテニスをする者同士
名前を知ることもあっただろうし
その実力もお互いにあると思う。
(お互いにまだ強くなる余地が多分にあるのだ)
しかし残念ながら、2人の年齢差は1つ。
この年齢の、1歳差はかなりの開きがあるように思う。

多分交差しなかった。

基本的に他人に興味を抱かない俺は、おそらく話しかけなどしなかった。
ましてや触れ合いたいなど、少しも思わなかっただろう。

けれど、今俺はこうしてここにいる。
泣いている日吉に触れたいと思い、
抱きしめてその頭を撫でたいと思い、
心を開いて欲しいと思う。

あの夏の、刹那に起こったその出来事は
確かに俺を変え、そして俺を変えたことで、日吉をも変えた。
自分達は、傷つけあうことしか出来ないわけではないと信じたい。
心を頑なに閉ざしたまま、終わりになどしたくない。





だって、あの夏に俺は「日吉若」という存在に出会ってしまったのだから。




たとえ誰かにとってありふれた瞬間だったとしても。

俺がその時、
美しいと思ったものを、
特別だと思ったものを、
信じたいと思ったものを、





守りたいと思ったんだ。










(2008/6/30 up)


<モドル