貴方にとっての意味と、俺の存在意義。








「大和」の紡ぐ言葉は、いつも突拍子が無いけれど
今回俺に告げられた言葉も、例に漏れず。
俺は、眉根を寄せる。
拒否すると言う気持ちよりも、「何故」という疑問が勝っていた。
「―――手塚君は学校に行かず、ここを出てしまったでしょう?
いい機会だと思います。手続きはもう済ませてしまいましたから
明日から学校に通ってください。」
有無を言わせぬその言葉に、口を噤む。
今まで反抗らしい行動をとってこなかったが、
それは大和が俺の行動に無意味な干渉してこなかったからだ。

しかし今度はどうか。
「学校」と言えば、日常生活の殆どを拘束される場所だ。
しかも「ヒト」が集まる場所だ。
危険極まりないじゃ無いか。
易々と肯定すべきではないのだ。
そもそも、そんなことは大和だってわかっていることだろう。


では、「何故」。


「――――大和にはそれが俺にとって必要だというのですね?」
俺の言葉に大和は少しだけ驚いた顔をして、いつもの笑顔を作った。
「反対じゃ無いんですね。それは良かった。」
「何か――――何かが、あるんでしょう。
学校に通わないまでも、知識だけならこの無駄とも思える永い時の中で
蓄えてきました。……それでも俺には何かが足りないと……」
大和はその笑みを深くした。

この地は、俺が「うまれた」場所だ。
「人」として女の腹から産まれ落ち、大和の手で人の道から落ち
今の自分が生まれた。
この地を去ったのは、人からはずれてすぐの俺が、
とてもじゃ無いがまともな精神を保っておられず、
発狂したからだと聞いている。
狂いそうな俺と人を交わらない場所に移動する為。
その後、不老である俺たちの変化しない容姿を人々に不審に思われないために定期的に住処を転々とした。



「足りないのではなく、おそらく私の自己満足でしょうね。」
大和のサングラスの奥の瞳が見えないのはいつものことだが、
無性に今この人がどんな目をしているのか気になった。
「どういう、意味ですか」
「貴方の未来を、貴方の目の前にあった可能性を
潰してしまった事実を、見れなかった現実を、
あまりに永い時を生きてきてしまった自分は
見たいと願っているのかも知れません。」
大和の言葉は、時に抽象的で何を言いたいのかわからない時がある。
しかしこれはあまりにも―――
「後悔しているのですか、俺を仲間にしたことを。」
奥歯を噛み締める。
怒りにも近い感情が、胸の奥でチリチリと燻っているようだと思った。
「後悔……えぇ、しているんでしょうね。きっと。
貴方に契約を持ちかけた事を。」
「大和!俺はッ!」
「しかし、貴方に謝罪はしませんよ。
私と共に生きると”約束”してくれたのは、貴方ですからね。」

遠い昔の、契約を。
始まりの、約束を。

大和と共に永い時を生きる。
それが、俺が俺である為の、意味。
「――――えぇ。謝罪の必要は無いですし、俺は後悔していません。」
おそらく大和は、
後悔の念から俺が過ごす事のなかった人との関わりを今、
再現もしくは、実現しようとしているのだろう。
昔は―――それこそ人の近くにいるだけで、血の臭いを感じ取り
獣のようになった俺には送ることが出来なかった学生生活を
取り戻そうとしているのでは無いだろうか。
「大和、それに意味はあるんですか?」
”意味”は、きっとない。
俺にとっては、まったくと言っていい程。
俺の生きる意味は、人と共に生きることではなく、大和と生きること。

「だから、言ったでしょう。自己満足だと。」
大和は、静かに笑った。






けれど大和がをそれ望むのなら、それが”意味”となる。







(2007/1/31 UP)

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