:*****************************************************キンギョ。******









ゆらり、ゆらりと揺れる赤は。
水の中でその存在を主張し、人の目を奪う。









「手塚さん、」
無言に堪えられずに、名前を呼ぶと不思議な顔をした手塚国光がこちらを見た。
まさか、俺がこの名前を…しかも本人に向って呼びかけるとは…。
人生、何がどうなるのかわからない物だ。

「どうした?」

いつも写真で見る顔はは眉間に皺がよっているような小難しい表情をしているくせに
そんなに親しくも無い俺に、笑いかけるなんて――――
(アンタ油断しすぎだよ。)
心の中で毒づき、口では違う言葉を紡ぐ。
「何故、俺を誘ったんですか?」
そんなに規模の大きくない夏祭り。
どちらの地元とも言い難く、会う確立はそんなにないかもしれないが
部内の人間に2人が一緒にいるところを目撃される可能性もゼロではない。
こだわる方がおかしいのかも知れないが、一応敵校として団体戦をしている。
変な憶測をされるのは、御免だ。
それに、学校だけじゃ無い――――もっと厄介な存在がいる。
アンタは知らなくても、手塚国光と言う存在は目立つから。
味方も多いだろうがl、敵も多いのだと知るべきだ。


右手に絡むのは、先ほど何となくやってしまった金魚すくいの戦利品。
ビニール一枚だけがその世界を安定させ、
ゆらりゆらりと、ゆれる赤。
視線をおとしてその赤を、目に留める。
「お前と、来たかったんだ。
―――――というよりも、話してみたかった…という方が正確だな……」





なんて、卑怯、な言葉。





俺は、会いたくなかった、と思う。
(接触したくなかったって、言ったらアンタはどんな顔をするんですか。)
名前だけはずっと、知っていた。その存在も。
テニスを始めるよりも、ずっと前から。




ゆらりと、ゆらりとゆれているのは自分自身だった。














2004/8/25 up

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