大抵の事は、出来る自分も。
遠い、その距離を近づける事なんて出来ない。









今まで何の接点もなかった二人が近づいて、親しくなって。
いつしか其れを、心地よいと思うようになってしまうことが、酷く怖かった。
自分が自分でないような。
確かにここにいるのに、地面さえも分からない迷子になってしまったように、
心細くて誰かにすがるように弱く、脆い。
そんな人間にはなりたくないと、強く思っていた。
自分と同じような立場にいる、アイツを。
確かにずっと意識はしていたが、それは好意と言うには鋭い感情で憎悪と言うには弱すぎる。
頼りなく、でも自分一人ではこの感情に、名前をつけることさえ不可能だと思う自分がいる。
ただ、恋焦がれるように、あの日以来あの日の手塚の姿が脳裏に焼きついて離れない。
コートの中に、凛と立つ姿と、強すぎるほどの視線と願い。
耳に五月蝿い程の歓声は何故か聞こえず、自分の荒い息継ぎと、ボールのインパクト音がその全てだった。



助けを求めたいわけじゃ無い、逃げたいわけでもない。
ただせめて。
傷が深くなる前にいっそ致命傷を与えて欲しかったのだ。
これ以上もう、考えなくて済むように。
その光を、意識しなくて済むように。
しかし、この距離の中でそれは無理なように思える。
―――――だから。



 雑誌で、誕生日を知ったのは本当に偶然だった。
自分と3日違いに生まれたと言うだけで妙な親近感を覚え、
今はすでに遠い空の下にいる手塚に会いたいと思った。
ゆっくりと眼を閉じれば、やはりと言うべきか
思い出せるのはあの日の手塚なのだが、今は病院の中にいるのだろう。
腕の負担にならないように、リハビリをしているのかも知れない。
 普段、思いついたらすぐ実行にうつす俺が敢えてそうしないのは、
金銭的なことが問題じゃなく、おそらく裏切られる事を恐れているからかも知れない。
(―――ボールを追いかけていない手塚も、果たしてあの時のように強く目の前を見ているのか。)
しっかりと前を見据えて、前進する、強い光。
全てを飲み込み、闇を遮断する。
光の洪水を生み出し、見る者を魅了する。

 意図的にそうしたはずなのに、罪悪感を感じてしまったのは手塚が真っ向から勝負してきたからだ。
まっすぐに、自分を犠牲にしても「全国」への道を。
仲間を信じて、俺と対峙した。
勝つか負けるか、勝者か敗者か。
どんなに際どいコースを狙っても返って来るボールをまた追いかけているうちに、
其れが一番重要である事が頭から抜け落ちていた。
ただ、楽しかった。
追い詰められたり、追い詰めたりする事が。
(この感情を、なんと呼べと言うのか)














 静かに、目を伏せる。
ふ、と光が遮られて手元が暗くなった。
「―――手紙、ですか。」
図書館と言う場所柄、潜められた声。
「……何か用か?日吉、」
動かしていたペンの動きを止め、1学年下の後輩を見上げる。
この後輩は、好んで自分から俺に話し掛けてくることはまず無いと言っていい。
「監督が、呼んでました。」
「そうか…わかった。」
使っていたペンを、筆箱に入れて書きかけの便箋を丁寧に封筒に入れる。

白い封筒にはまだ、宛名が書かれないまま。

「――――ご友人ですか。」
用が済んだにもかかわらず、そこに立ち止まったままの日吉を一瞥して。
「……気になるのか?珍しいじゃねぇか。」
封筒を指にはさみ、ひらりひらりと揺らす。
ただでさえキツイ日吉の目が一層細められたが、興味を失ったのか視線が違う方向に行く。
「―――部長がいつもとは違う顔をしていたから。余程、大事な人への手紙かと思いましたよ」
日吉の言葉に、言葉を失う。
これは、弱さだろうか。
危惧していたように、自分は変わってしまったんだろうか。
「――――これは、」
「え?」

俺は、笑えているだろうか。

「送らねェよ。」
意味がつかめずに、またこちらを見た日吉を一瞥だけして席を離れる。


 送る事もない手紙を。
書いては、破り捨てる―――その繰り返し。
届かなくていい、届けなくていい。
自分さえも持て余している感情を言葉になんて出来るはずが無い。



 (次に会う時も、コートの中だといい。)



それだけ、思って前を見据える。
 「―――――――…。」
遠い場所にいる、手塚に。
せめて今回は、バースデイカードを送ろうか。











                                                                  


アンタは誰だ…ッ!!

と、自分ツッコミを入れつつ書きました…(めそり)
塚←跡の誕生日話だったりします…。
……書けば書くほどに自信がなくなっていく、不思議小説…。
すみません…。
暗いな…跡部…ていうか跡部じゃ無いな………フフフ……。(泣きたいよ…私が…)
日々精進です…。人間前向きが一番です…。
謝らなければいけないことは沢山有ると思うのですが
見苦しさ満点なので、諦めます。

はッ!前回のにタイトルの意味を書き忘れてますね…。(今、後書きに追加してきました…)
とりあえず今回の紫苑(しおん)は10月7日の誕生花。
花言葉は「追憶(過去を思いしのぶこと。昔を思い出すこと。追懐)」、です。
花言葉を見た時点で、少し暗めなのかな…と覚悟はしていたんですが…。(以下略)

(2003/10/11 UP)

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