気持ちを、贈り物としてプレゼントしようか。
いつも、俺に幸せをくれるから。






 人間の縁とは奇妙な物で、何の接点もないはずの忍足と親しくなったのも
どこか策略に似た物を感じないでもなかったが。
其れを最近、心地よいと感じる自分がいるから手におえない。







「――――おい、」
「なんやの?」
まるで、暖簾に腕押し…ぬかに釘。
不機嫌を精一杯声に出してみたのだが、いつものように忍足は其れに動じる事はなかった。
「眼鏡を、返せ。」
突然奪われた眼鏡を、返却要求するのは当然の事だ。
けして良いとは言えない視力では、忍足の表情はおろか周囲の景色さえ明瞭に見ることが出来ない。
「全然見えへんの?」
表情は見えないが、声の調子や経験上で想像はつく。
「ああ―――――楽しんでないか?お前。」
「おもしろいで。普段は見えへん手塚やからなぁ。」
「――――――――…。」
(何を言っても、無駄か。)
忍足とは、いつもこんな感じだ。
特別何か共通な趣味がある訳でもなく
(敢えて言うなら、テニスなのだろうが何故か忍足はその話題を避けているような気がする。)
特に饒舌でもない自分達の間に常に会話があるわけではない。
しかし、突然気まぐれを起こしたように忍足が自分の予想もつかない事をしたりする。
(そういう所が、気に入っているのかも知れないが…)

「―――――手塚?」

忍足の声で、現実に引き戻される。
「……自分、考え事しとったやろ。」
「―――………。」
俺の無言での肯定を苦笑いする事で受け流した気配を感じた。
そして興味はまた、眼鏡のほうへ。
「―――なんや、おもろいなぁ。」
「………自分も眼鏡をしているんだから、今更物珍しくも無いだろう。」
今度は、自分の眼鏡をはずし俺の眼鏡をかけたらしい。
視界の悪い俺にフレームの違いが分かるわけもなく、
それが似合っているかどうかなんて分からなかったが、内心複雑な状況だった。
「うっわ、きつッ!」
「――――最近、視力が落ちたんだ。」
『そんなことはいいから返せ』と、眼で訴えて手を差し出したが未だ返す気はないらしい。
「俺の顔も、全然?」
「―――――見えない。」
はは、と小さく笑い声が聞こえた。
何が面白いのか、理解出来ないでいると手が伸びてきた。





「――――――――――なら」





ぼんやりと、輪郭の無いその情景を見つめた。
忍足の手が、頬に柔らかく触れる。
(他人の体温は、こんなに心地良い物だっただろうか。)

「―――これやったら、見えるやろ?」

まるで、目を覗き込むように。
吐息さえ触れる距離まで近づいて。
自然と目をつぶればわずかに有った距離も、全く無くなる。
素直に肯定しようとした言葉も、忍足に飲み込まれた。



















「――――結局、目をつぶらせてしもたけどなー」
お互いの唇が離れて第一声、忍足がそう言いながらやっと眼鏡を返してくれた。
眼鏡をかけて、安堵の溜息を吐くと忍足が笑いながら
「まぁ、今日くらい許したって。」
と言ったので、やっと今日ここに来た目的を思い出した。
「―――その件なんだが、」
言いかけた言葉に突然忍足が表情を変えたので、次の言葉が続かない。
「―――……。もしかして、知っとったん?」
「……お前の誕生日だろう?違ったのか?」
「〜〜〜〜〜〜〜。何も言うてくれへんから、てっきり知らんかと思うてたわ…。
………内心ごっつショック受けとったんやで…。」
表情が緩み、脱力した様子の忍足。そこでやっと気付く。
「――もしかして、さっきのは…嫌がらせだったのか…?」
眼鏡を。
―――確かに、突拍子も無い事をする忍足では有るが、
俺が嫌悪感を伝えれば普段ならすぐにそれを止めるのだ。
「はは、まぁ…そんなもんや。眼鏡無いと不安なん…俺かてわかっとるよ。」
忍足を不安にさせていたのだとやっと気付いて、何故早く話を切り出さなかったのか、と後悔する。
「――――――すまない、言いだし辛かったんだ。」
意味がわからない、と言うように忍足は首を傾げた。
「―――いろいろ、考えたんだが。プレゼントが思いつかなくてな…。」
「そんなんえぇよ、気ィ使わんといてー」
すでに自分の誕生日に忍足から贈り物をされているので、そう言う訳にもいかない。
なによりも、自分自身が強く忍足にプレゼントをしたいと思っているのだから
忍足がどう言おうとその気持ちが変わる事は無い。
「―――今日はお前の欲しい物を聞きに来た。」
俺の気持ちが揺るがないと分かったのか、分かりやすく考え込む仕種をして
「――――『手塚』が、欲しい…とか?」
「―――――なんだ、それは…。」
「あ、やっぱり呆れ…」


「俺はもうとっくに、お前の物だろう。」


「!」

今度は、赤くした顔を隠すようにうずくまって
「〜〜〜やっぱり、手塚にはかなわへんわ…」
とだけ言った。
「……?何かマズイ事でも言ったか?」
「いやいや。
―――来週の休みにでも、二人で買い物に出かけよか?」



―――――嬉しそうに笑った忍足の提案を、俺が断る訳など無く。










眼鏡同士…。(…いい言葉の響きだ…)(そうか?)
忍塚でした…。
塚<跡の反動で幸せそうな話にしようと思って書いたら
今回の誕生日話3コンボ…忍足ばかりがいい思いをしているような気がしてなりません。
―――――むぅ…。前回の時に書くのを忘れてしまいましたが…。
忍足の関西弁(?)…は全く自信が御座いません。
おそらく、おかしい言い回し等が有ると思われますが
こそりとメールでご指摘くださるか、目をつぶっていただけると嬉しいです…。(小心者)
ちなみに私は埼玉県民ですが、限りなく東京の端っこに近いので
緑山の喋り方もさっぱり分かりません。(役立たず)

今回の誕生花、みせばや。意味は、「大切な貴方」です。
眼鏡キャラ同士のカプが妙に嬉しく(苦笑)眼鏡の話ばかりさせていたら
うっかり誕生日要素が抜けそうになりました…。
話を詰め込みすぎた…。しかもダラダラさせすぎた…。
…あ、二人がいる場所は忍足の部屋です…(今更だ…!)
――――反省点も多いのですが、話を展開させるのがことのほかおもしろく
その雰囲気だけでも伝わっていただければ嬉しい限りで。

以上。跡部・手塚・忍足誕生日3コンボ小説でした。
(って、また違うキャラでもいつか誕生日小説は書くつもりではいるのですがー)

(2003/10/16 UP)


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