「行って欲しくない」と、言えたらどんなに楽だろうか。
置いて行かないで、と。
夏特有の、熱い空気で息が苦しい。
肌がちりちりと、燃えている。
部長は、相変わらず笑っていた。
別に、会うのが最後と言う訳じゃ無い。
でも、それは確実に俺と部長の関係を切断するものだった。
『引退』
その、たった2文字が俺にとっては重すぎて。
分かっていても、心の整理が出来ない。したくない。
暑いから、かもしれない。
思考回路が働かないのは。
なにかを言わなければ、と。
まだジャージを着ている彼に、まだテニス部員である彼に。
どう声をかけていいのかも、分からない俺は、
ただ焦りばかりを身のうちに感じて
尚更、どうしていいのかわからなくなる。
泣きたいのか、俺は。
やはり、かける言葉が見つからずでも咄嗟に、
部長の羽織っていたジャージを引っ張った。
まだ、おそらく沢山。
教わりたい事が、ある。
(違う、そうじゃない。)
学ぶところは多いとは思うが、学ぶ為の師として
一緒にいたいわけではないのだ。
「手塚君?」
「こっちを向かないでください。」
今、アンタにいつものように笑われたら
もう何も言えなくなるから。
(―――――泣いてしまいそうだ。)
本当の別れじゃ無い。
校内で偶然会って挨拶を交わすのかもしれない。
そのときアンタは、何も変わらずに笑うのだろう。
しかし離れた距離はおそらくはもう、どうする事も出来ないのだ。
自分すらも制御できないその感情を持て余して
言葉の代わりに流れた涙を、ただ静かに地面に落とした。
「----―――――有り難う、」
ただ、その言葉だけを俺に残して
部長はおそらくいつものように笑ったのだろう。
俺からは、広い背中だけがその全てで
真実どうだったのかは、知る術も無かったが。
そして夏が終わり、また始まる。
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…どうしちゃったの、自分…。
ツッコミどころが、多いですが…とりあえず眼鏡と部長が大好きです。(主張)
大好きなんです。
(2003/9/29 UP)
<モドル