そらもとべるはず。





「何してんスか。」
かしゃり、と。
指の隙間から、漏れたフェンスの鉄の音が重なる音。
広がる青い空を、ただ空々しく響いた音を。
「越前?なんでここにいんだよ?」
自分のクラスは、自習だからいい。
しかし、コイツは――――
「次、英語だからいいんス。先生の発音、妙におかしいし。」
「そりゃ、帰国子女のお前から見ればそうかもしんね―けど。」
「トウゼン。」
越前が自分の方に向って歩いてきた。
つまりは、フェンス側に。
(俺あんなことしたのに、何でこんなに普通に話してんだ?コイツ。)
返り討ちにあったけど。
思い出すと、カッと頭の奥が熱くなりそうだったけれど、
足元から吹く風に、
すぅっと体温がなくなったように冷静になれる。
今は、何となく有り難かった。
「なに?自殺ゴッコ?」
慌てたような声ではなく、妙に冷静なのに声質は何故かいつもより低い。
何か不機嫌さが含まれた言葉は、俺に向けられた言葉だった。

今この屋上には、越前と俺しかいない。

越前は、フェンスの内に。
俺は、フェンスの外。
越前の言う、「自殺」をする気なんて毛頭なかったけれど
ふとした弾みで足を踏み外してしまうのならば、それでもいいような気がした。
足元の、遠い地面よりも近く感じる空の青に飲み込まれてしまいそうな。
ありえないけれど、重力が空に向って働いているような
そんな感じがした。
「人って、本当に飛べねーのかな。」
らしくも無い事を。
部活でならあれ以来話もしていない越前に、話しているなんて不思議な気がした。
「こういう場所にいると、不思議と飛べそうになるからこえ―よな。」
口はいつもより饒舌。
相手の反応も気にせずに、ただ相手に話し掛けるという形で独り言のように言葉を発する。
「ありえないけどな。」
特に意味もなく、声を出して笑ってみたら
まるで演技じみていて、空々しい。
反応の無さが、少し気になってフェンスの後を振り返ろうとした。
「って、聞いてんのかえちぜ…」
でも、振り返ることは出来なかった。

さっきまで、フェンス越しの会話だったのに
越前はいつの間にか此方側にいて
ふわりと、風と共に背後から抱きつかれて
その暖かさに、足元から吹いてくる風の冷たさに始めてきづいた。
今更ながらに、この場所にいることの恐怖を思い出す。





「荒井先輩の翼は俺がもぎ取るから、
アンタは此処以外のどこにも、行けないよ。」






お前が、俺を繋ぎとめるのか。
この場所、に。
「離せよ越前、飛べないのはわかってる。」
「アンタ、本当にどこかにいっちゃいそうでイヤだ。」
ぎゅっと、さらに加えられた越前の手の暖かさが妙に心地良い。
自然と笑ってしまった声は、今度こそ本物だった。














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なんか暗い……。
自殺シチュですが、荒井にそういう考えは本当にないと思う…つもりで書きました。
ただ時々疲れてしまうと胸にぽっかり穴があくみたいに、
無意味にこういう事がやりたくなったりするのかもしれない。
思春期ですから。(という言葉で決着をつけようとする藍樹)




(2004/09/04 UP)

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