去年も今年も来年も。













 吐く息が、白い。



駅で待ち合わせをして、初詣。
もう大分暗くなっているけど、大晦日という事もあって、街頭は明るいし人通りも少なくない。
未だ着ていない、待ち人をその中から探す。
時計を確認すれば、約束の時間よりもだいぶ早い時刻をさしているけど
気持ちばっか焦って、時間より早く来てくれる偶然を期待してしまう。

知ってるとは、思わないけども新年とともに俺の誕生日。

(やっぱ、こういう日は特別な人とすごしたいじゃん。)
半ば強引に、誘い出して。
久しぶりに帰った家でもなんがだかそわそわして。
いてもたっても居られなくて約束の時間よりも早く、場所に着いちゃって。
「あ〜、なんかもう。オレ馬鹿みてぇ。」
なによ、このうかれっぷり。
心が躍るって、こんな感じだよね。
多分ここが寮だったら、三上先輩あたりにキモイって言われるんだろうな。
そんで、ケリ入れられるんだろうな。
(でも、しょうが無いじゃん。)
嬉しすぎてどうにかなりそうなんだから。
少しくらい顔がにやけてても、勘弁してよ。



目があって、離せなくて。

普通なら、視線そらしたりするのかもしんないけど。
不破はそんな事しないで、視線は動かすことなくまっすぐにこっちに歩いてきた。
どちらかといえば、無表情な不破は感情の起伏が読み取りづらい。
俺は馬鹿みたいに手を振ってみせて、不破に何かリアクションして欲しかったんだけど。
(勿論、俺だって自分がオーバーアクションなのは知ってるから、同じようにしろとは言わないけどさ)
何の反応もなく、それでもまっすぐにこちらを見据えてくる不破は
俺の目の前でぴたりとその足を止めた。
「…………、」
そして、無言。
何かを考えているらしい、『考察』。
「……不破?」
「今、何時だ」
語尾が上がっていないものの、疑問系であったその言葉に慌てて時計に目をやる。
「8時、32…分?」
細かい事まで気にする不破の事だから、出来るだけ正確に答えようとして口ごもる。
「待ち合わせは」
「9時。」
こっちは、自信を持って言える。
はっきりすっぱりと応えた俺に、不破は白い息を吐き出した。
「……俺が間違っているわけではないのだな。」
「あぁ、オレ早く着すぎちゃってさー。」
「…………そうか。」

1秒でも早く、会いたかったからだと言ったら「理解不能だ」とか、言う?

何となく、想像がついて言うのをやめる。
タフな俺だけど、やっぱり不破からの直接的な言葉はキツイ。
正直でまっすぐな分だけ、ごまかしの言葉が無いだけ。





何となく、話すきっかけを失っちゃって黙って二人で目的地の方に歩いていく。
黙っているのが辛い相手っているけど、不破の場合は、そんな事ない。
基本的に、不破はあまり喋る方じゃ無い。
特別無口って訳でもないけど。
最初の頃は、やっぱりそういうの気になってたけど今は、平気。

それって前より、オレと不破の関係が近くなったって事

だと、思う。
何も言わなくても、心地よく感じる空間。
なんか、そう思える自分に嬉しくなる。
それで、嬉しくなった自分に気付いて不破への気持ちを再確認。
「オレって、単純……」
半ば、呆れ気味に一人ごちると不破が不思議そうにこっちを見た。
「単純…お前が、か?」
不破が余りに意外そうに言ったから反対に聞き返した。
「………不破は、単純だと思わない?よく皆から言われっけど。」
そういわれるのは、馬鹿にされてるみたいであまり好きじゃ無いけど。
裏とか考えるの、キライ。ただ単にめんどくさいっつーのもあるけど。
「俺にとっては、お前や風祭のような本能で動くタイプの方がよほど、行動が読めないと思う。
未だにその行動パターンがわかっていない。まだ研究の余地あり、だ。」
「そうかぁ?………っと、」
風祭の行動もやっぱオレから見れば単純だと思われるタイプだと思う。
反論しようと思って、言葉に詰まる。
視界に目をひく、渋い緑。
さっきから、気になってたんだよな…と付け加えながら
不破が、左手に持っているその物体を指差した。
「それ、何?」
左手に、何だかとても不思議な…。
なんていう名前だったか忘れたけど、よく泥棒とかが頭につけてる模様…。
そうそう、『カラクサモヨウ』だ。
その模様の風呂敷で何かを包んで左手に提げている、不破。
あまりに不自然で、だからこそ不破にとって違和感が無い。
俺の指差す方向をたどって、その物を確認すると不破は口角を緩めて笑った。

「内緒だ。」



珍しく、本当に楽しそうに笑ったから。

思わず言葉を失って。
その顔に見惚れて。




思わず、抱きしめたくて。




周りのことなんて考えないで不破を抱き寄せたらオレの肩口で不破がかすかに笑った気配がした。

「やはり、予測できないな。お前の行動は。」

その言葉が、あまりに不破らしくて。
抱きしめるその手に、力を入れた。








たどり着いてみれば、予定の時間よりもすごく早い。
それでも人の流れは、切れ目なく動いてる。
「すっげぇ〜」
予想はしていたけど、改めてその人の数を目の当たりにして驚きの声をあげた。
本当に見渡す限り、人人人…だ。
何となくその人の流れをボケっと見てたら、突然首が締められた。
「ぐぇッ!?」
正確に言えば、マフラーが引っ張られたんだけど、息を詰めるには充分。
苦しくて咳き込んで、引っ張った本人を見れば不破はまっすぐにオレを見ていた。
何事かと、聞こうとする前に不破がちらりと時計を見る仕種をして踵を返した。
「え?ど、どこ行くんだよ!」
「ここでは、人が多すぎる」
そう言いながら、すたすたと歩いていってしまう背中を追いかけて
たどり着いたのは、すぐ近くにあった公園だった。
「???」
姿勢良くベンチに腰掛けた不破は、おもむろにずっと片手に提げていたその風呂敷を開け始めた。
その中身に、興味もあったので不破のその行動をただただ見ていた。
するりと滑り落ちるように、風呂敷が解かれてその中身が露呈した。
風呂敷の中にあったのは、白い箱。
「今からこれを食そうと思うのだが。」
「食!?………食べ物?」
俺の声に応えるように、不破はその白い箱を開けた。
かぽり、箱が小さく音を立ててその中身を露出させる。
その中身を覗き込むと、白いまるい輪郭に色鮮やかな飾り。
甘い匂いが鼻先をかすめる。
「誕生日ケーキ、だ。」
不破の言葉に、思わず不破の目を直視した。

………誕生日……。

「し、知ってた…?」
誕生日の話なんて、した事なかった。
妙に緊張して、胸が高鳴って。ドキドキと、音がうるさくて。
不破がうむ、と頷くのを確認して胸が一杯になる。
「とりあえず、今は4分の1ずつ食べる。」
「4分の1?」
なんで?と聞くより先に不破がその言葉を発した。
「未だ日付が変わっていないから、俺の誕生日だ。」
「へぇ、不破の誕生……え、たたた誕生日!!!????」
さらりと言われた問題発言に、オレが慌てると不破がしらなかったろう?と笑った。
なんかもう、いろんな事が頭の中をよぎって言葉に出来ないで居ると
不破が自分の横を目線で示して手を置いた。
隣に座ってもいいってことらしい。
言われるとおりにその隣に腰掛けて、
不破が器用に箱の中にあったらしいケーキナイフでケーキを切り分けるのを見ていた。
「今は4分の1ずつ。お前の誕生日になったらその残りの4分の1ずつ。」
よく家とかで見る家庭用サイズのケーキより一回り小さいそれは食べるのには、何の苦労も無さそうだ。
渡された、その4分の1のケーキを受け取りつつ何だか申し訳ないような気分になってきて
本来考え込む事に慣れてないオレは素直に謝る事にした。
「ごめん」
もくもくと、すでに食べ始めてる不破は一瞬目を見開く。
「何がだ?」
「いやだからさ、誕生日。お前はオレの知ってたのにさオレは知らなくてさ。」
(プレゼントすら用意できてない。)
好きな人間の誕生日くらい祝ってやるのが当然だと、祝ってあげたかったと。
何だか悔しい気分になる。
「別に構わない」
「いや、俺がかまうんだっつの!」
オレがそう言い張ると、不破は少し首をかしげて何かを考え始めてしまった。
こうなると、拉致があかない。
「………とにかくさ、今は何も出来ないけど…。誕生日おめでとう。」
ずっと動いていた不破の口が止まる。
「…………こういう場合、俺はなんて言えばいいんだ?」
不破の天然発言に、思わず吹き出しそうになった。
「って、それオレに聞く?」
「ありがとう、か?」
あまりに真面目な顔をして聞くから、本当に吹き出した。

あー。不破ってこういう奴だよなーとか何だか、嬉しくなって。
遠くで響き始めた除夜の鐘を聞きつけて、また笑った。
「あはは…あけまして、おめでとう」
「うむ。おめでとう。」

んで、残りの4分の1のケーキをまた二人で食べるんだよな?










去年も今年も来年も。
二人で笑いあえたら、それで幸せ。











happy new year&happy birthday!









初めての笛!小説アップ…。き、緊張…。
初めて書いたのは実はこれではないのですが…そちらの方はそのうち…勇気が出たらアップしたいと…。

兎にも角にも、あけましておめでとう御座います…!
今年のスリマ(Sleeping_Murderの略らしいですよ、奥さん。相方がそう呼んでたのを拝借)は、
笛!からスタートですよ……!!(……あ、あれ…?)
何だか論点ズレ気味の小説で申し訳ないのですが、藤代視点なので許してください。(?)
藤不…また、書きたいな。…リベンジ……。
とにかくおめでとう、藤代と不破!(何故、偉そうなんだ…)


(2003/1/1 UP)

<モドル