時間を止めたいから。
その針の動く音が怖くて。
どうしようもなくて。

時計を、止めてみました。





時計の秒針の音で、眼を覚ます。
リズムは一定をを保って。
ずっとずっと、響く音。
静かで暗いこの部屋に、うるさい位に余韻を残して。
夢の中ではどんなにどんなに壊しても、動き続けていた時計。
寝ながらにして、この音が気になっていたんだな…と結論付ける。

(時計の音が、嫌。)
今まで、そんな事思った事も無かったのに。
最近、そう思うようになった。
崩れる事がなく、止まることなく動き続ける機械的な時計。






全部全部 「終わり」 に向かってるって、知ってるから。
「永遠」 なんて無いって、知ってるから。






するりとシーツから滑るように這い出て。
隣で寝ている人間を見下ろす。
規則的に寝息を立てているこの人間は、確かに寝ているらしい。
布越しに、三上に触れてその体温を確かめる。




いつまで。
いつまで、こうやってられるだろう。




時が止まる事なんて無い。
ずっと進み続けるから。
変わらない 「時」 を、変わってしまう 「時」 を不安に思う。
そういう時、決まって涙腺が弱くなるんだけど。
俺だってもう、当たりかまわず泣いてたガキとは違う。
グ、と我慢したら鼻がつんとした。
「……先輩……」
小さく呟いたはずが、静かなこの部屋には大きく響いてしまって。
三上が小さく動いた。
「今日…ですよね。誕生日…おめでとう御座います。」
起きてはいないだろう、人物に向かって囁く。


(せっかく俺と、同じ年だったのに。)
先輩は俺を置いて、一つ大人になった。
先輩だと言う事実は変わりはしないのに、その壁は何だか大きい。

先輩は、俺を置いていく。
あと2ヶ月ほどで、ここをも出て行く。
短いようで、長い1年間。
俺、どうやって過ごしたらいいんだろう。
先輩と過ごしたこの空間を、何で埋めたらいいんだろう。
浮かんでしまった疑問に解決の糸口すら見つけられそうに無い。

無性に心細くなって、先輩の腕の中に潜り込んだ。
(……寝てる人間って、何でこんなに暖かいんだろう。)
そんな事を思ってたら、先輩の大きな手が動いて強く抱きすくめられた。
「………先輩……?」
「もう一度。」
「え、」
「もう一度……言えよ。」
寝起き特有の、低くかすれた声で。
一瞬何の事か、と考えそうになってさっきの言葉を思い出した。


「誕生日、おめでとう御座います?」
「ん。」


ゴメン、先輩。
俺、上手く笑えないけど。
アナタが生まれてきてくれてホントに嬉しいと、思ってるよ?
俺より先に大人になる先輩を、恨みがましく思っても無い。
-------ただ、寂しいだけ。


「時間が止まれば、いいのに。」
さっきから、頭の奥にまで響いている秒針を目障りだと思いながら。
吐き捨てた。
先輩は何も言わない。

また、眠ってるのかも知れない。
それとも、聞かなかった事にしてくれた?

考えるのもめんどくさくなって、先輩にしがみついたまま少しの間微睡む。
(あと少しで目覚ましが、鳴るかな-----)
頭の片隅で、考える。








それまではせめて、秒針の音じゃなく。
先輩の心音を、聞いてよう。



その 「時」 までは。
















三笠……。
三上の誕生日話のつもり…で書いたはず…なのですが……暗ッ!!
何も祝ってないし、めでたくもない話ですね…。(反省…)
この話になるまでに納得いかず3回ほど消去。

めちゃくちゃ出来上がってる感じの二人…。
ごめんなさい、ごめんなさい。
そして、私は笛!内でも節操なしなんです。ホントごめんなさい。


(2003/1/22 UP)

<モドル