棘。







自分だけが「特別」だなんて、そんなに自惚れてないつもりだった。
人より能力が有ったのは、もちろんもって生まれた物も有ったけれど。
やはり、これでも努力と言うものをしたわけで。
でもあからさまにそれと分かるように、自主練をするのは性に合わなくて
誰にも知られないように、走りこんでみたり基礎練習をしたりしたのだ。










だから、許せなかった。
その、存在が。
消えればいい、と願う。
切に。

「水野竜也」という、その人間を認めたくなかった。
認めることは、出来なかった。
例え汚い手段を使っても、罵られても。
自分のポジションを、自分の居場所を奪われる事は許されない事だった。
まるで、自分の存在価値そのものが消えてしまうようで耐えられない。

守らなければ、と思ったんだ。
自分の居場所を。








「―――――…意外と、落ち込んでないんだな。」
帰り支度をして、帰途に着く途中で声をかけられる。
今、多分一番聞きたくない声だった。
目の前に立ちふさがる…と言う表現が似合うほどに、俺の進もうとしている方向の真ん中に水野がいた。
無視して通り過ぎる事も出来たが、まるでこいつに道を譲るようで腹立たしい。
「………桐原……嫌味か、てめぇ。」
「嫌味に聞こえないんだったら、相当参ってる証拠だな。」
淡々と、視線をずらす事無く。
威嚇するように睨み付けても、ただ見つめ返してくるだけで特別なにかの感情があるような表情に見えない。
「……はは!笑いたければ、笑えよ…!選ばれたのは『お前』なんだからな…!」
「俺は、」
特別大きな声ではないけれど、はっきりと発音された言葉に
自虐的にも笑い飛ばしてやろうとした表情が固まった。

救いを求めたいわけじゃ無い。
特に、目の前のこいつには。
笑い飛ばせばいいじゃ無いか。
あんな、小細工をしてまであがいた俺でなく選ばれたのは、おまえ自身だ。
勝者はお前で、俺は敗者でしかない。
それでも、何かを期待していたのかもしれない。

「アンタに同情は、しない。」
強い眼差しに、一瞬言葉が出なかった。
結局のところ、甘い部分のあるこいつが慰めの言葉などかけてきたら本気で殴ってやろうと思っていた。
すぐに、足が出ないことがまだ自分の中に理性が残っている証拠だった。
しかしそんな考えも何もかも、真っ白にさせる言葉を。
目の前のこいつは。
「…………ッ、上等じゃねェか!」
まるで負け惜しみのような言葉を吐き捨てて、意地を張るのをやめて目も合わせずにその横を通り過ぎる。



「………アンタは…棘だな。」



ぼそりと呟くように、落とされた言葉に立ち止まり、顔だけそちらに向ける。
相変わらず何を考えているのか分からない表情で。
ただ思った事を、そのまま口に乗せるように。
「………守る事と、傷つける事を混同したままだ。」
「あ?」
また意味のわからない事を、と。
言おうとして、やはり言葉を失う事になる。
突然、水野が俺に向って小さく笑いかけたから。
それは、曇りも悪意も無く。
「…………俺、高校そっち行くから。俺が行くまで、守っとけよ。」
「はぁ!?」
「武蔵森に。……そのまま高等部に進むんだろ?」
「……………。」
「俺が行くまで、10番はお前だろ?」







「…上等だ!テメェが来ても渡さねェよ!」


安っぽい挑発だとわかりながら、俺は声を大きくした。
今度は、満面の笑みで水野が笑う。
「ははは、そういう方が…アンタらしい…。」
「笑ってられるのも、今のうちだぜ。」
「あぁ、知ってる」







(次は、負けない。)
それは、弱い自分を守る居場所を維持する為でなく。
自分がただ、強くあれるように。
(後は、振り返らない。)
明確な約束をした訳ではないけれど、充分すぎるほどの言葉。
次に会う時は―――きっと…












モノカキさんに30のお題、25の「棘」…の桐三になる前の話…です。
中途半端に選抜発表後の水野三上…。
(コレが元になって、桐三になっているので話が似通ってますね…汗)

水野の性格が…なんか妙に強気で偽物っぽいです…。
いや、三上の相手になる人は包容力がある人でないとなぁ、
と…思うわけでして。(受けであっても攻めであっても…)

関係ないけれど…三上が水野とくっついて
監督に「お、義父さんと呼ばせてください…!」とか、言って欲しい。
(現実を見てください、藍樹さん…)
そしてまた、監督は胃を痛めるのですね…ウフフ…。<監督大好き。

(2004/1/18 UP)

<モドル