異心伝心
あの日の真実 〜悪夢からの目覚め〜
高校が始まった。
やはり桜高はレベルが高くて、ついていくだけで必死だ。
それで、佐倉の自殺のことなんか完全に忘れていた。
だが、一年生のクラブ活動が始まった頃、俺はとんでもないものに出会う。
俺は、美術部に入部した。
中学校の三年間、帰宅部で過ごした俺にとってはちょうどいい部だ。
それに美術は俺の得意とする教科の一つ。楽勝だ。
初めての部活の日、先輩の二・三年生と新入部員がそれぞれ顔を合わせた。
新入部員は俺を含め、男子三人、女子八人の合計十一人だった。
当たり前のように、俺の知ってる顔は一つもなかった。
向かい側にいる、二・三年生は誰が三年で誰が二年なの当然かわからなかった。
きょろきょろと、部室である美術室を見回していると、部長と思われる女の先輩が指示を出した。
「向かい合って、自己紹介をしましょう。」
二・三年生と一年生が向い合い、一列になって、一人ひとりが自己紹介をしていき、名前と出身校を言わされた。
新入部員たちは、順々に自己紹介をしていき、残りは俺一人になった。
「野山真人、柳沢中学校出身です。宜しくお願いします。」
俺が言い終わると、次は二・三年生の先輩たちが自己紹介を始めた。
次々に先輩たちが簡単な自己紹介をしていく。
そして、最後の一人となった。
「二年の佐倉美和です。深山中学校の出身です。宜しくお願いします。」
確かにそう言った。
俺の中に今いる、佐倉美和と同じ名を名乗った。
(佐倉・・・あの先輩、お前と同じ名前・・・。)
ただの偶然か?
先輩は二年生。(俺の中の)佐倉が受験に落ちた時に、先輩は受かったということになる。
つまり、(俺の中の)佐倉と同じ年に生まれた同姓同名の少女・・・。しかも桜ヶ丘高校を受験している。
同姓同名は確立的にはまだ、在り得る方だ。だが、高校まで同じ所を目指すだろうか?
しかも桜高だ。とんでもない学力までがほぼ同じなのは、ただの偶然だとは断定しにくいだろう。
『・・・今からここを抜けられますか?』
(俺の中の)佐倉が言った。俺は心の中で頷く。
「すいません。ちょっとトイレ行ってきます。」
俺はそう言うと、凄い勢いで美術室を後にした――。
人のいない中庭に来た。
そこでベンチを見つけ、腰掛ける。少し前屈みになり、顎に右手を当てて、問う。
「どういうことだ・・・?」
(俺の中の)佐倉に問うたのか、俺自身に問うたのか、自分でもよく解らなかった。
だが、自分に問うても、返事は返ってこない。代わりに(俺の中の)佐倉が返してきた。
『もしかしたら・・・あの佐倉さんが私を殺した方かもしれません。』
「でも偶然かもしれないぞ?」
ただの偶然と断定しにくいが、断定出来ない訳ではない。
もしかしたら、物凄く低い確率で起こり得ることかもしれないからだ。
『はい。ただの偶然かもしれなせん。しかし、名前だけじゃないのです・・・。』
「・・・顔もってことか?」
そんなことって本当にあるのか? それでは、まるでドッペルゲンガーではないか。
ドッペルゲンガーは見たら死ぬと言われている。
それは、現在の自分にそっくりだったり、過去や未来の自分にそっくりだったりするそうだ。
なら、あの美術部員の佐倉美和が俺の中にいる佐倉美和のドッペルゲンガーということか?
でも何故殺す必要があったのだろうか?
俺の中の佐倉が、入学しないため?
そう考えるのが一番自然かもしれない。
だが、ドッペルゲンガーとは限らない。この世には自分に似た三人の人間が存在するという。
あれ? それがドッペルゲンガーのことなのか?
頭がこんがらがってきた。
とにかく、真相を確かめなければならない。
「佐倉、ちょっと俺に時間をくれないか?」
その日から俺は、佐倉先輩について調べだした。
それと同時に、学校にいる時に(俺の中の)佐倉は口出ししなくなった。
何だか恥ずかしいのだそうだ。
俺は、美術部の先輩たちからも、新入部員たちからも、佐倉先輩のことを聞き出した。
怪しまれないように、「俺が佐倉先輩に一目惚れをしてしまった」と言えば、簡単に情報が得られる。
月日が経つにつれ、佐倉先輩との距離も少しずつ縮まっていった。
最初、絵のアドバイスを貰いに行き、話すきっかけを作った。
もちろん、周りのみんなは「俺が佐倉先輩にアタックしている」と思い、気をつかってくれる。
そしてどんどん話す機会が増えていく・・・。仕舞いには、佐倉先輩の方から話しかけてくるようになったのだった。
放課後。
いつものように美術室へ行くと、佐倉先輩が待っていた。
今日は、俺の誘いで、二人で中庭に行って花のスケッチをすることになっている。
もうすぐ入梅前。行動に出るのは今日しかない。
あのベンチに先輩と二人で腰掛ける。
いきなり単刀直入に「自分とそっくりな人殺しましたか?」なんて聞けないので、スケッチを進めながら、何気ない会話を交わす。
流石にドッペルゲンガーと言っても、性格までそっくりそのままではないようだ。
口調こそタメ口だけど、(俺の中の)佐倉がいれば、こんな感じで・・・何考えてるんだ俺。
任務に集中しなくては・・・!
俺は少しずつ真相をあばきにかかる。
「先輩、ドッペルゲンガーって知ってますか?」
俺は先輩の表情を観察しながら聞く。
「ドッペルゲンガー? 知ってるよー。」
いつものように先輩はニコニコしている。
「会ったこと・・・ありますか?」
俺は表情の変化があるか集中する。
「ないよ? もしかして・・・野山君、見ちゃったの?」
・・・いつものように先輩はニコニコしている。その表情に嘘は見えない。
「あ、はい。実は友達がですね・・・」
一通り作り話を話した後、佐倉先輩と俺はスケッチに戻った。
俺はスケッチをしながら、(俺の中の)佐倉に話しかける。
(先輩は無実だ。)
『でも・・・でも私は突き落とされたのですよ?』
(だが、先輩は嘘をついているように見えないぞ。)
『ですが・・・あの日、私を突き落としたのは・・・』
(俺の中の)佐倉は静かに語りだした――。