千石清純奮闘記  ---前編


出会いは突然でした。

なんとなく席について、前をみたら

髪が綺麗な男の人が座っていた、ただそれだけで。

目は吸い込まれそうな紫色で、耳にはピアスの穴があいていて、

ちょっとそれがもったいないなぁ…て思いながら、ただぼんやりと彼を見つめていた。

傾きかけた夕日が、丁度彼の髪に反射して、それがまた綺麗で。

あまりにも凝視していたのか、彼が気づいて目が合った。

俺は慌てて目をそらすと、カバンからゲームをだしてやりはじめる。

ゲーム画面の中のキャラたちがバトルを始めた。

でも俺の心はゲームに向いていなくて、どこか遠くへ行ってしまった様な、不思議な感じ。



その日は部活が長引いて、疲れていた俺は電車の中で寝てしまったらしく。

ふと顔を上げると見知らぬ風景。

(あぁ、乗り過ごしたな)

気づけばもう電車は終点まで着いていて。

最近の電車はどこもかしこも直通ばかりで、終点ともなると県が変わっていても珍しくない。

案の定、ここは神奈川県。

(やべ、俺、東京都民なんすけど)

そんなことを突っ込んでみながら、ゲームの電源を切って辺りを見回す。

『終点ー…駅ー 車両は一端車庫に入ります…』

前を向くと、さっきの彼が立ち上がるところだった。

彼は終点が目的地だったらしい。


(神奈川の人なんだ、じゃぁもう会うことは無いだろう。)


何故そう思ったのかは知らない。

普通見知らぬ他人を見て、また会うか会わないかなんて考えない。

けれどその時はなんとなく、ただ心の片隅の方で

(もう一度会えたら)

そう思っていたのかもしれない。




『新任の先生を紹介します。』


だからまさか、俺は彼と再会することになるなんて思いもしなかった。

綺麗な髪、紫の瞳、そしてピアス。

(あの人だ…)

「うわー今回の先生かっこよくない?!」

「だよねだよねーv」

周りで女子が黄色い声で騒ぎ始めても、俺の頭の中は真っ白で。

何だろう、こんなの覚えの無い感情。

いや、どこかで感じたことのある、複雑な感情。

言葉では表せないような、何かがこみ上げてきて、溢れそうで、


『はじめまして。古典を担当させていただきます、梶本と申します。』


声を聞いたら、何故か分からないけど、

(この人だ)

って、そう思った。

そうしたら早く先生の授業が受けてみたくなって、たくさん話してみたくなって、

その日のホームルームなんて聞いちゃいれなくて。

頭で(梶本)っていう名前を反芻してみたりして。



…何でこんなにはしゃいでるんだよ、自分。

まるで恋する乙女vみたいじゃんか。








「では教科書、15ページを開いてください。」


そして、待ちに待った授業の時間が来た。

俺はすかさず教科書を開く。

梶本先生が、綺麗な声ですらすらと教科書を読み上げる。

妙にどきどきしている自分に、思わず苦笑したくなる。

周りの友達は、いつも寝こけてる千石が真面目に授業受けてるぞ、とからかってるし

俺も自分がどうしちゃったんだと思うんだけど、ね。


でも、人間どんなに興味があるものでも欲求には勝てないもので。

食欲、性欲、睡眠欲。

俺は今猛烈に眠たかったのだ。

折角の梶本先生との初授業なのに…眠くて仕方なくて。

うつらうつらとしはじめると、周りの奴らがやっぱり眠そうだ、と笑う。

しかしながら眠気に勝てるほど、俺は頑固な性格をしていないんだ。

そうして、教科書に突っ伏しそうになった時、事件は起こった。


「千石君、起きてください。」


梶本先生が俺の名前を呼んだー!!!…と、びっくりして顔をあげると、

目の前に梶本先生の顔があった。

この距離…近い!近いです!!!

シャンプーか知らないけど、何かいい香りがして。

「あ、え、えええ、す、すいません!!!」

妙にテンパって答えると、梶本先生は微笑んで言った。

「そんなに慌てなくても平気ですけどね。」

クラスメイトが先生やさしー!と笑う。

それを聞きながら何か俺はもう一杯一杯で。


…まさか。



まさか俺は先生に一目ぼれしていたとでも言うのか…?

いや違う!相手は先生!!男!!!禁断の愛!!!!

頭の中で!マークが飛び交う。

俺にかかれば女の子の一人や二人、楽勝なのに。

よりによって何故男。

どうしようどうしよう。

…これって恋のはじまりですか?!先生!!



そう思ってしまったが最後。

先生の事が気になって仕方なくて、でもそんな恋する乙女vな自分に寒気がして。

ブン太とかに相談しようかと思ったんだけど、からかわれるのがオチ。

…こうなったら最終手段だ。




そして、俺は勇気をだ出して保健室へ向かう廊下に、足を踏み出したのだった。













あとがき リクいただいたので学パラ久々更新です。ありがとでした! どうやら私はヘタレ千石が好きな模様です。 ヘタレでわけわかんないんだけど(え)でもイザって時はかっこいいんです。 次回、うさんくさい恋愛相談兼保険医の忍足先生登場です。