ヌード・デッサン

さて、今日は大学時代の事でも語ってみよう。

僕は大学時代に画像設計というちょっと特殊な(マイナーな)学科を専攻していた。そのため、大学一年時の必修科目の中に「平面I」という科目があった。ほかにも「平面II」「立体I」「立体II」などがあったのだが(簡単に言うと図画工作である)、まずはその「平面I」(つまりお絵描き)の単位を取得しなければならなかったため、僕はその「平面I」を履修することとなった。
ところで、この「平面I」ではヌードデッサンの実習があると噂されていた。ああ、なんて素晴らしい学校。

さて、お絵描きの授業であるからには絵の先生が絵を教えてくれる。きちんと絵を教えてもらうというのも、これはこれで嬉しいものである。
一発目の授業は普通のデッサンであった。デッサンといえばあれである。鉛筆かなんかでシャカシャカとスケッチブックに絵を描くあれである。何事も基本が大切だということだ。
そして、何度目かの授業で、噂どおりヌードデッサンが始まったのである。ヌードデッサンといえばあれである。裸の女体をここぞとばかりに凝視して、その細部恥部に至るまでを事細かに描写するあれである。いや、男性の裸体を描く場合でも恐らくヌードデッサンと言うのであろうが、やはりヌードデッサンと言えば女体でなければならない。この部分は大変重要である。もう一度声を大にして言っておこう。やはりヌードデッサンと言えば女体でなければならない。

…が、そうは言ってみたものの、実際にはこれが嬉しいやら恥ずかしいやらで、なんとも複雑なものだったのだ。なにしろモデルさんは全裸なのである。すっぽんぽんなのである。
しかも、周りには同じクラスの女の子もいるのだ。自然と顔が俯いてしまうのもいた仕方ないだろう。凝視など出来ようはずもない。いま思えば、大学一年生の自分のなんとかわいらしいことか。
しかし描かないわけにもいかない。結局僕はチラチラと挙動不審なオヤジよろしくモデルさんを観察しながら、筆を進めることとあいなったのである。
ところが、制限時間はあっという間に過ぎ、絵は未完成に終わってしまったのだ。ぶっちゃけて言うと、アンダーヘアーが描けなかったのである。いや、描いていいものやらいけないものやら、判断に迷ったと言ったほうが正しい。
情けないことではあるが、長いものには巻かれろ、多勢に無勢、大は小を兼ねる、人類みな兄弟、マラソンは宗兄弟、ということで、要は周りの状況に合わせたのである。両隣を盗み見ると、彼らもヘアーを描いてなかったのだ。皆がアンダーヘアーを描いていない中、一人だけヘアーを描いていたら恥ずかしいではないか。(と、当時は思っていた)

まあ、結局先生のお手本を見せてもらったら、それはもう黒々としたアンダーヘアーがモジャモジャと描かれていたのだが…

ところで、ある日こんなことがあった。
その日のデッサンは水着のデッサンだった。水着と言っても同じようにモデルさんがやってくることに変わりはない。その日のモデルさんは割と若いモデルさんだった(毎回違う)。20代前半〜半ばといったところか。
さっそく台に上り、ガウンを脱ぐ。スクール水着のような、地味な濃紺の水着を着ている。
「すみません、これしかなかったんで…」
モデルさんは申し訳なさそうに、そして恥ずかしそうに呟いた。
水着のデッサンは、ヌードデッサンとはまた違った難しさがある。特にスクール水着のようなワンピース型の水着だと、その立体感を出すのに一苦労なのだ。
モデルさんはといえば、恐縮してるのか恥ずかしがっているのか、しきりにモジモジしている。
「普段は別の水着もあるんですけど…」
「ごめんなさいね、こんな水着持ってきちゃって…」
「良く聞いていなかったんで…」
ポーズを変える度になにやらブツブツ呟くモデルさん。そしてついに…
「すみません、やっぱり恥ずかしいんで脱いでもいいですか?
突然そう言ったかと思うと、なんとそのモデルさんは先生の返事も待たずに、さっさと水着を脱いで全裸になってしまったのである。

その後は、いかにも落ち着いたという感じで、堂々とポーズを取っていたモデルさんであった…

 

人の価値観って面白いですね。

update:2003/1/17


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