月下の狼

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第一夜『雨夜の月』


お月さま。僕は、あの人にもう一度会いたいんです。…だからあなたの魔力を、どうか僕に分けて下さい…。そのためなら、僕は――――。



ザァァァァー……
 神  : せっかくの満月なのに…雨だなんて……。
 越野: 今夜は晴れないかな…。
 神  : …………ごめん。
 越野: なんで神が謝るんだよ。
 神  : だって…、俺には……っ。
 越野: 別に神が謝る事じゃねぇだろ?
     それに…俺はこうなる事を望んでいたのかも知れないしな…。
 神  : 越野……。
 越野: ほら、早く帰ってあげろよ。…あいつが待ってんだろ?
 神  : …うん…。でも…俺も会いたかったんだけど…今夜は無理かな。
 越野: 俺は一晩中ここにいるつもりだけど、お前はそうもいかねぇだろ?
 神  : 会えると…いいね。
 越野: ああ。
 神  : (空を仰ぎ見る)……雨夜の月、か…。
 越野: …え?
 神  : 今日みたいな、雨の降る夜の月のことだよ。
 越野: ふーん…。
 神  : 雨で見ることの出来ない名月をいうんだけどね。
     …恋人の姿を想像するだけで、実際には見られないことを例えて
     いるんだってさ…。
 越野: ……へぇ〜…(まるで今の俺みたいだな…)。
 神  : じゃあ…俺は帰るけど…、風邪引かないようにね。
 越野: おう。気を付けて帰れよ。
 神  : ……越野。
 越野: 何だよ?
 神  : 本当に、…このままでいいの?
 越野: …………何が。
 神  : まだ望みはあるんだろ?…だったら!
 越野: …いいんだよ。これが俺の幸せのカタチなんだ…多分な。
 神  : ……そう…、越野がそこまで言うなら…もう俺は何も言わないよ。
 越野: じゃあな、神。
 神  : …うん。雨が上がるよう、祈ってるよ。



それから程なくして雨は上がり…雲は晴れ…天満月が鬱そうとした森の奥深くにも、その明かりを注ぎ込む時…遠く、狼の遠吠えが聞こえた…。



 神  : ただいま。
 清田: あ!神さん!おかえりなさい!(だきっ)
 神  : (なでなで)……雨が上がったね…よかった…。
 清田: ま〜たあんなヤツの心配なんかしてるんすか?
     ああなったのは自業自得じゃないっすか。
     神さんが気にすることないっすよ!
 神  : 自業自得、ね…。じゃあさ、信長。
     …もしもあの時…、ああなったのが越野じゃなくて俺だったら…、
     お前はどうしてた?
 清田: そ、そんなのっ!助けるに決まってるじゃないですか!
 神  : 仙道と同じ方法で、だろ?
 清田: …う゛…そ、それは…そうなんすけど……でもっ!
 神  : だったら…そんな風に言わないの。今の状態があの二人にとって
     辛いことぐらい、信長にだって解るよね…?
 清田: ……はい…。
 神  : うん、良い子だねぇ、信長は。(なでなで)
 清田: あ゛〜!そうやっていつも子供扱いするー!(ぷぅ〜)
 神  : あはは。だって信長がかわいいから。…実際子供だろ?
 清田: 子供じゃないっすよ!
 神  : うーん、じゃあ…大人になってみる?(にやり)
 清田: えっ!…あ、あの。えっと…。(赤面しおろおろする)
 神  : ――ぷっ。あははは!ほんっとう、信長ってかわいい☆(ちゅ♪)
 清田: うわぁあ!予告なしにしないで下さいよー!



月明かりのもとに…対照的な二組の月影が、今そっと重なっていく……。
つづく。




第二夜『新月の出会い』


黄金の太陽より生まれし…昼の森を守護する金狼。
銀の月より生まれし…夜の森を守護する銀狼。
古代より、人々は彼らを森の守り神として尊び、また恐れた。
なぜなら、彼らには不思議な力があったからである…。



 「ひっく…ひっく…うぅ…」
――誰か、泣いてる…。
 「う…ぐすっ…。おとーさん…おかーさん…どこ?」
――ああ、そうか…。これは夢だ。俺の小さい頃の…。
 「まっくらでこわいよぅ…ひっく…はやくおうちにかえりたいよぅ…」

 「どうした…人間の子供よ。何故こんな所にいる」
 「!?…だ、だれ?どこにいるの?」(キョロキョロと辺りを見回す)
 「ここは人間が来て良い場所ではない。早々に立ち去れ」
 「で、でも…おうちにかえるみちがわからないの…」
 「…そもそもここへは立ち入れないはず…どうやって入ったのだ?」
 「…え、えっと…あ、あのね、ぼくね、きれいなちょうちょさんをみつけたの。それでね、おっかけてたらね、いつのまにかくらくなっちゃったの。そしたらちょうちょさんいなくなっちゃって…」
 「…そうか。それならば納得がいった。夜月蝶め…人間を惑わすなとあれほど言っておいたのに…。仕方ない…人間の子供よ、今夜はここで夜を明かすと良い。今宵は朔だ。月明かりも無くては帰れまい…。どうした?私が怖いのか?」
 「う…ううん!…ぼく、いぬさんすきだよ!」
 「……私は犬ではない……。狼だ」
 「おおかみ?」
 「そうだ」
 「ふーん…?」
 「夜は冷える。今夜は私の元で眠るのが良かろう…」
 「…おおかみさんにさわってもいいの?」
 「今日は特別だ。…ん?足に傷があるではないか…どれ」(ペロリ)
 「あ。あのね、これね、ちょうちょさんをおいかけてるときにころんじゃったの…って、あれ?なおってる!?なんで???」
 「他には無いようだな…」
 「もしかして、おおかみさんがなおしてくれたの?」
 「…そうだ。私には治癒能力と魂魄剥奪の能力があるからな…」
 「???よくわかんないけど、どうもありがとうっ!」(にこっ)
 「――あ、ああ…」
 「うわぁ〜い!おおかみさんのけってふかふかだぁ〜。きもちいーなー。あったかーい」(にこにこ)
 「そうか。それは良かった」
 「おおかみさん、おやすみなさーい」(…すやすや…)
 「……おやすみ、人間の子供…」



越野: …また…あの夢か…。(むくりと起きあがる)
    この頃よく見るよなぁ…、ふぁ〜…。(あくびをする)
    今まで忘れてたのに…こんな頻繁に同じ夢をみるなんて…。
    4月からだから…高校に入ってからってことか…なんでだろ?
    (結局、目が覚めたら森の外にいたんだよなぁ…。
    あの銀色の毛をした狼は…あの時の俺が見た夢だったのかな…?
    でも…あのふかふかした手触りとかあのぬくもりは………………、
    幻なんかじゃないような……………。)
    ええーい、止め止め!こんな事考えてもしょうがないじゃん!
    さて、さっさと着替えて朝練に行かねーと。
    …あー、あと仙道起こすのに電話するんだったっけ。…ったく、
    めんどくせえなぁ。なんであいつはあんなに朝に弱いんだか…。



その夢の意味するものを、この時彼はまだ気付いていなかった。
なぜその夢を見るようになったのかも……。
全ては、新月の夜の出会いから始まっていたのである。
つづく。




第三夜『月との契り』


しまった…!今日は新月だったんだっけ…。月光を浴びなければ、この姿を維持できない。今日の分まで、昨日浴びれば良かったな…。この頃練習厳しくてしんどいから、うちに帰ってきたらすぐに寝ちゃって、月の魔力を満タンにしておくのすっかり忘れてた…。これじゃあ、明日はきっと元の姿に戻ってしまう……。
あー、どうすっかなぁ…。学校は休んで良いとしても、この姿を誰かに見られたらマズイだろうし…。うーん…。



そして、朝。

プルルルル…プルルルル…プルルルル…プルルルル…プルルルル……。

 越野: …?おかしいな…。いつもなら3コールぐらいで出るのに…。
     もしかして、まだ寝てんのかな?

プルルルル…、カチャリ。

 『―ただ今、留守にしております。ご用件の方は、発信音の後に…』
ガチャ!!

 越野: 留守だぁ〜!?何考えてんだ、仙道のヤツ!練習さぼる気か?
     ……こーなったら、たたき起こすしかないな……。

 この時越野の頭の中には、『もしかしたら病気で寝込んでるのかも』などという考えは、みじんも浮かんではいなかったのである。
 そして勢いよく家を飛び出すと、仙道が住んでいるアパートへと駆けだしていった。



ドンドンッ!

 越野: おーい、仙道!寝てんのかー!?朝練、遅れっぞー!
     …………………………。
     反応無しかよ。一体、どうしちまったんだ?…ま、仙道のことだし
     放っておいても来るだろ。朝練には間に合わないだろうけど…。
     どうせ先生に怒られるのは仙道だ。俺は先に行ってるからなー!

タッタッタッタッタ…………(遠ざかっていく足音)

あ〜…、危なかった〜。まさかこっちに来るなんて思わなかったから、油断してたぜ。合い鍵渡しておこうと思ってたけど…もしこれから先、同じようなことが起こったら…俺の正体がばれてしまうかもしれない。この姿じゃ、電話は取れないもんな…。その前に会話が出来ないか。うーん…今夜も少ししか月光は浴びられないし、明日は部活の時間まで持つかどうかギリギリだな…。
今日は仕方ないから、おとなしくこの部屋で寝てるとしようか…。



 越野: …そういえば…。あいつ、時々こういうことあるよな…。
     急に連絡付かなくなって学校休んだり、部活の後…ふらりといなく
     なったり…。そうだ、あん時は屋上にいつの間にか上ってて、何して
     るんだって聞いたら「月光浴だよ」とかふざけたことぬかしやがった
     んだ。普通は日光浴だってーの。
     ………月…つき…?…あれ…あいつが休んだ日って、確か…。

越野は朝練が終わると、ホームルームまでの短い時間に図書室へ行き、月齢が載っている雑誌のバックナンバーを片っ端から調べていた。

 越野: …やっぱり…!あいつが学校を休んでる前の日は、いつも新月
     (つまり月齢0)になってる…。
     でも、なんでだ?この事と仙道が休む事と、一体何の繋がりが…。
     ただの偶然なのかな…?
     でも、偶然だとしたら重なり過ぎてるような気もするし…。

キーンコーンカーンコーン…。

 越野: あ!やぺぇ!教室に戻らねーと…!
     そうだ、帰りにまた仙道んちに寄って様子見てこよう。
     もしかしたら、風邪でも引いて寝込んでたりしたら大変だもんな。





――解りました、銀狼よ。お前に魔力を分け与えましょう。…ただし、その者にお前の想いが受け入れられなかった場合、もしくはその姿を見られた場合…、その者の命を剥奪し私に捧げよ。それがお前に魔力を与える条件です。…いいですね?
つづく。




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