「あっ!こら押すなや!今はわいの番やろ!」 今、仙道の卒業アルバムの寄せ書きスペースには、バスケ部の後輩達がわらわらと集まってなにやら書いている。同じように、越野や福田や植草のところにも集まって話をしたりしていた。 つい先ほど卒業式が終わり、部活動をしていた卒業生達は必ずと言っていいほど後輩達に捕まって部室に強制連行される。そこでまたお別れの言葉だの感謝の言葉だの花束などが贈られるのだった。男子バスケ部も例外でなく、こうして卒業生が部室にいるのだが。 「越野さんは、仙道さんのには何も書かへんのですか?」 彦一が、さも当然のように越野に尋ねる。 仙道は一瞬ドキッとして越野を見た。あの時の答えはまだ聞いていない。いつ教えてくれるんだろうかと式の途中でも気が気じゃなかったけれど、ここまで来たら後は帰るだけである。もしかして、あれは幻聴だったのかも知れないと仙道は思っていた。 「おう、書くに決まってんだろ。真ん中にスペース空けとけよ?」 「はい、解りましたぁ!」 そのやりとりを聞いて、ほっと安心したのが自分でも解った。 越野はなんて書いてくれるんだろう。やっぱ、「バカ」とか「遅刻魔」とかかな。 越野がアルバムに書き込む頃には後輩達はすでに帰っており、卒業生だけになっていた。最後にみんなで校門まで歩いてお別れ、である。校門を出たら、みんなバラバラ。仙道は東京の大学に推薦で入学が決まっている。福田は家がお寺と言うこともあってか仏教系の大学に進むらしい。越野は…、結局何処に行くのか教えてくれなかった。出来れば同じ大学だったらいいなぁ…って思っていたのに。 「…っと、書けた。ほら、仙道。お前のアルバム」 「ああ、サンキュ。越野」 「そんじゃあ…、そろそろ帰りますか」 「そうだな」 「植草も福田も、元気でな!」 「ああ、越野もな」 「じゃ、また!」 「おう」 「仙道、またな」 「うん、またね。福田、植草」 越野は駅に向かう坂道を下り始めた。仙道も、越野の横を歩いて坂道を下っていく。 「なあ、…浜に降りてみるか?」 「うん?別にいいけど…」 どうせこの後の予定なんてないんだし。 浜に降りると、陵南生がちらほらいるだけでとても静かな海だった。 越野は、何処に行くのでもなくただその海をじっと見ている。 仙道は手持ちぶさたに、さっきみんなが書き込んでいたアルバムの寄せ書き蘭を開いて見ることにした。…と、越野の書いた文字を読んで、我が目を疑った。 (…これって…) 「越野っ!」 思わず叫ぶと、越野は仙道の方に振り向いてにっこりと笑った。 「やっと読んだのか?…それが俺の答えだよ」 「こ、越野…」 仙道は感激のあまり、卒業式でも見せなかった涙を流していた。 「お、おい!何泣いてんだよ」 「だって…すっごく嬉しいんだもん…」 「だからって…泣くほどのもんでも…」 「あるよ!…俺が一体どんな気持ちで今日まで待ってたか、越野には解る?」 解るわけないよな、とでもいいたそうな瞳で越野を見つめる仙道だ。 そんな視線は無視して、越野はもう一つの答えを言うことにした。 「ところで仙道、俺が行く大学…知ってるか?」 「え?…知ってるわけないだろ。教えてくれなかったんだから」 「お前、T大だよな?」 「ああ」 「俺、N大」 「ふーん、N大ねぇ……って、えぇっ?」 N大と聞いて、仙道は思いっきり驚いた。だって、N大って言ったら…。 「お前の行くT大とは、一駅違いのN大だって言ってんだよ」 「そ、それじゃあ、越野…一人暮らしするのか?」 越野の自宅からだと、多分通えないだろうし。 「いや、二人暮らし」 「…は?誰と?」 「お前と」 「………………。ええーっ!?」 今日はなんだかすごい日だ。驚くことがありすぎる。 「なんだよ、不満なのかよ」 「い、いや、そうじゃないけど…だって、それって…一緒に暮らすってこと、だよね?」 「それ以外の何があるってんだ」 さらりと言いのける越野。 「…越野って、意外と大胆だったんだな…」 「そうか?俺にしてみれば家賃が半分になって負担が軽くなるし、ワンルームより2DKの方が広くて良いなーって思っただけだけど」 ああ、なんだ。そういう理由ね…。 「…ま、それだけが理由じゃないけどさ…」 「え?」 「なんでもない!ひとりごと、ひとりごと!そ、それじゃあ仙道、俺そろそろ帰るから…」 仙道の脇をすり抜けて浜辺の階段を目指そうとする越野の腕を、仙道はがしっと掴んだ。 「帰る前に、ちゃんと越野の口から返事聞かせてよ」 「そ、それならさっき…っ」 「文字じゃなくて、言葉が欲しいんだ。…言ってくれるまで、この腕は放さないよ?」 「う〜…」 越野にしてみれば、きっとあのアルバムに書き込むことが精一杯だったのかも知れないけれど。でも、越野の気持ちを、直接本人の口から聞きたい。そう思ったから。 真っ赤になった顔が、トンッ…と仙道の肩口に寄せられて。注意していないと聞き流してしまうほどの小さな声で、言ってくれた。 「…お前が俺を想っているのと同じくらい、…好きだよ」 おしまい。 |
■「うわっ!青春してるねぇ、君たち!!」…なお話になってしまいました。(^^;)
最初に読んでもらった友人の第一声が↑コレでしたから。
いや、でもね…私もそう思いましたよ。書き終えてから読み返したら恥ずかしいのなんのって…(苦笑)
最初に考えていた結末と変わっちゃったんですが、それはまあ、いつものことです。
私はいつも漠然と終わりを考えながら話を考えています。
それで書いていくうちにキャラ達が勝手に動いていくんですよ。
「ちょっと〜、私が持っていきたいのはそっちじゃないのよ〜う!」…と言う風に。(笑)
そうすると、私の思い描いていた結末と少しずつずれていってしまうのですが、そうなったらそこで軌道修正。
最終的な話のオチは同じでも、そこまでの過程が違くなってくるわけです。(たまにはオチまで違ってくることもありますが…)
本当はね、この二人には3年の夏頃にくっついてもらおうかなと思ってたのに、
書いていくうちに越野君が返事を延ばしに延ばして卒業式になってしまいました。(笑)
告白ついでにチュウもさせようかとも思ったんですが、今度は私の方が恥ずかしくて書けなかったという…(爆)
ふぅ〜、まだまだ修行が足りませんな…。二人の初キッスはいつになるんでしょうかねぇ…(苦笑)
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