Happy Valentine's Day



 今日はバレンタインデー。女の子から好きな男の子へ愛の告白と甘いチョコレートを送る日である。
 そしてここ、綾南高校にも、その想いを託したチョコレートをある人物に渡そうとしている女生徒がいた。
 綾南高校1年2組、女子バスケット部マネージャーの さん。腰まで伸びた黒髪が印象的な小柄な女の子で、少々のんびり屋な性格をしている。
 …しかし、そんな彼女がなんと!その人物を追ってわざわざ東京からこの高校に入学したというのだから驚きである。
 では、問題の「ある人物」とは……。(皆さんはもうお解りですね?)



2月14日午前7時30分。

「ああっ!!ここもいっぱいだぁー!!……どうしよう〜…。」
 私は途方に暮れてしまった。
 何故って、せっかく…せっかくこの日のために持ってきた手作りのチョコレートが渡せなくなりそうだったから…。直接渡す事なんて私には出来そうもないから、靴箱か机の中かロッカーに入れて置こうと思って朝早く登校してきたのに。
 まさか、すでにもう靴箱も机の中もロッカーもチョコレートでいっぱいになってるなんて想像もしなかったんだもの!
 はぁ〜……。やっぱり、仙道先輩って人気有るんだなぁ…。そんなこと、中学の頃から知ってるけどさ……。
「こうなったら、やっぱり直接渡すしかないのかな……。」
 でも…。そんな勇気私には無いし……。
「…はぁ〜〜…。」
 今日何度目かのため息をついて、とりあえず私は、チョコレートが入った箱を自分のバッグに戻して、教室でどうやってチョコレートを渡すか考えることにした。



2月14日午後12時10分。

 キーンコーンカーンコーン。
 やっとお昼休みになったわ。
 仙道先輩は、お昼はいつも部室にいてお友達とご飯を食べているって言う情報はもうすでにチェック済み。(やっぱり同じクラスに彦一君がいるっていうのはラッキーね。)
 だから、このお昼休みに賭けることにしたの。
 勇気を振り絞って、直接渡す事に決めたんだもの…きっちり渡してこなくちゃ!!

 …って、思ってたのに…。

 この人だかりは一体なに!?
 男子バスケ部の部室の周りには、すでにものすごい数の女の子が取り巻いていたのです。
 (す、すごすぎる……。)
 みんな知ってたんだ…。がっくり。
 私はそれを見て、お昼休みに渡すのを諦めました…。まだ放課後があるし。
 そうよ、部活に行く前の仙道先輩に直撃しよう!これだけ今渡してるんだから、帰る頃には減ってるかも…。
 淡い期待を抱いて、私は自分の教室へと戻っていった。



2月14日午後3時50分。

 とうとう来たわ…放課後が…。私はドキドキする胸を落ち着かせるように、ゆっくりと階段を下りて行った。両手には、今朝から渡す機会をうかがっていた手作りチョコレート入りの自分でラッピングした箱を持って。
 私も部活に行く身だから、そう長くは道草しているわけにはいかないけれど…。クラブハウスに行く途中の仙道先輩を見つけたら、絶対にチョコレートを渡す!そう決めたの!だから…覚悟はいいわね、!!
 そして。
 しばらく歩いて、仙道先輩発見!!
 お昼休みほどじゃなけど、やっぱり女生徒達に囲まれてる。よしっ!あれくらいの人だかりなら、背の小さい私でも大丈夫よね。
 意を決して仙道先輩(もといその人だかり)に近づいていくと……。

――ドンッ!!

「きゃあぁ!」
 思いっきり突き飛ばされた!
「…いったぁ〜」
 (なにすんのよっ!!)と心の中で毒づきながら立ち上がろうとすると、
「大丈夫か?あんた…。」
 という声がして、目の前に手が差し伸べられていた。
 私は思わずその手に掴まって立ち上がると、目の前には越野先輩が立っていたから、よけいに吃驚。
「は、はい!大丈夫、
です…。」
(うわっ!さっきの、見られてた!?)
 自分が転んだ現場を見られたのかもと思うと、恥ずかしくて俯いてしまった。
 だって越野先輩と言えば、仙道先輩と一番仲がいいお友達だし。私のこと、ドジな女の子だって仙道先輩に知られたら恥ずかしいじゃない?
「本当に大丈夫?結構派手に吹っ飛ばされてたけど?」
 (きゃー!!やっぱり見られてたー!!)
 その時の私は、きっと”冷や汗がだらたら”流れている状態だったんだと思う。体が固まっちゃって、その後に越野先輩が何を言っているのか聞いていなかったから。
「もしよかったら、それ。…渡しといてやろうか?」
「…えっ!?」
 その一言で、私の体は解凍された。
「あんたじゃ、あの人波…越えられないんじゃないの?」
「…う゛。た、確かにそうですけど…。」
 また近づいても、さっきみたく突き飛ばされるに違いないわ。…だから背が小さいのって不利なのよね…。(なんて、今ここで愚痴っても仕方ないんだけど。)
 本当は、こういうのって自分で渡すのが一番良いんだろうけど…。越野先輩もこう言ってくれていることだし、ここはお言葉に甘えて渡してもらうことにしよう。越野先輩って、ぶっきらぼうに見えても結構優しかったんだ…。
「…あの、それじゃあ…よろしくお願いします…。」
「おう。…あ、言っておくけど、渡すだけだぞ。これをアイツが受け取るかどうかまでは俺は面倒見無いからな?」
「はい!ありがとうございますっ!!」
 今日一日の緊張から解放されて、私は思いっきり感謝の言葉を言った後、笑顔になった。

 それから自分の教室に戻ろうと、来た道を戻ろうとした時…ちらっと仙道先輩の方を見てみたら、一瞬、目が合った気がした。



2月14日午後8時30分。

 さて。場面は変わって、ここは仙道君が一人暮らしをしているマンションの一室。
 今日は越野君が遊びに来ているみたいですが、おやおや?…なんだか空気が重たいですよ?

「おい、仙道。なにさっきから黙ってるんだよ。いつもならうるさいくらいに話しかけてくるのに…。」
「…………。」(無視)
「おい、仙道。」
「…………。」(無視)
「あのなぁ…。」
「越野のうそつき…。」
「…は?」
 なんだか会話がかみ合っていませんね。(聞いてる方にも解るようにしゃべってくれないと…。)
「バレンタインには、俺も越野も義理しか貰わないようにするって決めたのに〜!」
「ちょっと待て!俺がいつ本命貰ったなんて言ったよ!?」
「言ってないけど…俺、見たもん!」
「…はい?」
「放課後、俺が部活に行く途中に女の子達に掴まってた時…。越野、ちょっと離れたところでチョコ貰ってたじゃないか!…背の小さい、髪が長くて可愛い子に。あれは義理じゃなかったぞ!明らかに本命用のラッピングだった!!…そりゃまあ、あれだけ可愛い子だったら思わず貰っても良いかなって気になるかもしれないけどさ…。いやでも!約束したのにそれを破る越野が悪い!!」
 それって、もしかしなくても さんの事では…?
「……お前、あれだけ離れてたのに、よくそこまで見えたな……。」
 越野君、感心しているというよりあきれていますね。(その気持ちはよく解りますよ…。)
「あのなぁ、あれは俺宛じゃないっつーの!」
「じゃあなんで越野に渡すんだよッ!?」
「俺からの方が渡しやすいからだろ。…お前に。」
「…へ?俺?」
 仙道君、鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔してますよ。(そんな顔も出来たんですね。ファンの女の子に見せたら半数は減るんじゃないんですか…。)
「…ほらよ。」
 そう言って越野君は、自分のドラムバックから先ほど話題になった女の子からのチョコレートをテーブルの上に置きました。
「『背の小さい、髪が長くて可愛い子』からの本命チョコだ。どうする?『あれだけ可愛い子だったら思わず貰っても良いかなって気になるかもしれない』んだろ?仙道君?」
 ラッピングされた箱を前に、越野君はにこにこ笑顔でそう言いました。でもよく見ると額に青筋立ってますが…。ってことは、怒ってる…?
「(うわー!越野にはめられた!?やばい。相当怒ってる!)…え、えーっと…。」(冷や汗)
 どうやら仙道君は、今頃気が付いたようです。遅いよ。バスケの試合とは大違いですね。
「……ま、どうしようとお前の勝手だけどな。貰うならもらえ。返すなら自分で明日返せ。」
 そう言って越野君は、席を立って台所へ行ってしまいました。
「か、返せって…越野がこれを持って来なけりゃ……。」
「なんか言ったか!?」
「…いえ、何にも……。」
 越野君にとことん弱い仙道君。立場ないですねぇ。惚れた弱みなんでしょうか?
「…返すよ。返すに決まってんだろ。…俺には越野がいるんだから…。」
 ぼそりとつぶやいた言葉が、果たして台所の越野君に聞こえたかどうか…。おや?台所から甘い香りが漂ってきますよ。これって、もしかして…。
「仙道。…ほら。」
「え?なになに?…あ。」
「い、いらないなら別に無理して飲まなくてもい…。」
「飲む!飲みます!是非飲ませてください!!わーい!越野からの本命チョコ〜

「ばっ…!チョコじゃなくてココアだ!」
「何、越野知らないの?ココアは別名ホットチョコレートっていうんだよ?」
「…!!」
 あらあら、仙道君ってば幸せそうな顔してココア…もとい、ホットチョコレートを飲んでいますよ。その様子を見ている越野君もまんざらでもなさそうですし…。さっきの喧嘩はどこにいってしまったんでしょうね。
 う〜ん。喧嘩も幸せのエッセンスの一つ。…という事かしら?

「あ〜、美味しかったぁ〜♪やっぱり愛のこもったチョコは違うねぇ!」
「…そういうもんか?」
「そういうもんだよ!…あ、そうだ!この美味しさを越野にも分けてあげるよ。ん〜…。」
 チュッ♪
「う゛わっ、甘い〜〜〜!」(←越野君は甘いのが苦手です。)
「うんうん、でしょでしょ?…でもね、越野の方がもっと甘いんだって、知ってた…?」
「なっ!!!?」
 おやおや、越野君ってばゆでだこみたいに真っ赤になって固まってしまいましたよ。…まあ、あんな言葉を耳元で囁かれたら誰だって…ねぇ?
「今日は心ゆくまで食べさせて貰うからね、越野〜♪」
「ぎゃあぁぁ〜〜!バカやめろーー!!」



 次の日。
 とっても機嫌の良い仙道君から、 さんにチョコが返されたのは言うまでもない。



−END−



【コメント】

4444HITキリ番リクエストで、masami様より『バレンタイン当日に、喧嘩をしてしまう仙越(でも、ハッピーエンド)』というお題をいただきました。
そして、「出来れば私を少しだけ、小説に登場させてもらえませんか」とも希望されていたので、思い切って名前入力という方法を採用してみました!masami様も本名で読んでいただいた方が、より自分で渡したような気分になれるのではないかと思ったもので…。女の子キャラの設定は私好みになってしまって申し訳ございませんが…。可愛らしい女の子というと、どうしても背が小さくて髪が長いというイメージがあるものでして。
それはともかく、仙越の喧嘩は難しいです。(苦笑)
今回のは、どう見ても痴話喧嘩(もしくは夫婦げんか)にしか見えませんね。
でもハッピーエンドは守りましたよ!ハッピーどころか甘すぎて砂をはいてしまった画面の前のお嬢さん方が目に浮かぶようですわ…ふふふ。







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