Happy*Happy*Birthday!
『誕生日に直接会えるのは誰にするか、そろそろ決着つけましょうよ』
『枠は2つだったよな』
『『『『そうですー』』』』
『でもどうやって決めるのさ?』
『言っておくが、バトルでは最初から勝敗が目に見えているぞ』
『ふっ、ご心配なく。この方法なら誰にでもチャンスはあって、なおかつ弱い子でも勝つことが出来るのよ!』
(一同)『おおぉ〜〜!!』
『…じゃあ、始めましょうか♪』
***
1月25日早朝。
城之内は、海馬邸の主のベッドの上ですやすやと寝息を立てていた。
今日は土曜日、学校は休み。
バイトもいい具合にシフトが外れて休みだった。
土曜日が丸々休みになるなんて事、本当に珍しいのだけれど。
(あ〜、でもそろそろ起きるか…)
折角の誕生日、寝て過ごすだけではもったいない。
それに今日の午後は、海馬とデートの予定なのだ。
海馬は午前中も屋敷にはいるのだが、午後をフリーにするために仕事を片付けなければならず、今は寝室の隣の書斎で、黙々と仕事を片付けている最中だったりする。
「う〜〜ん…」
よし、起きるか!と思い、目を開けて体を起こそうとしたその時。
「マスター!おっはよ〜♪」
ドスン!
「ぐはぁ!?」
「「「「おはようですー」」」」
ポス、ポス、ポス、ポスン。
「うわぁ!?」
誰かに布団の上から馬乗りされ、そのあとベッドの上に軽いなにかが4つほど乗っかってきた。
「な、なんだぁ!?」
目を開けて頭を起こせば、そこには見たこともない少女達が5人いたのである。
「え!?え!?」
馬乗りになった少女は、年の頃は自分と同じくらいで長い黒髪を頭の上で二つに分けて結ってあり、黒いTシャツとミニスカートというなんとも寒々しい格好をしていた。
他の4人は5〜6歳児だろうか。それぞれ色の違うパフスリープを着ており、髪はふわふわの天然パーマが肩まで伸びている。そして一目で四つ子だと解るくらい、みな同じ顔をしていた。
…なぜか目を瞑ったままだったのだが。
(こ、こいつら誰だ!?)
城之内は軽いパニックに陥りながらも、自分に馬乗りになっている少女の顔を見上げた。
(あ…あれ…?)
ついさっき会ったばかりの他人なのに、どこかで会ったような…懐かしい感じがして、城之内は戸惑った。
だが、戸惑ったのはそれだけではなかった。その少女の瞳は、人間ではありえない色…真紅の色をしていたのである。
(この赤、どこかで…)
「どうしかしたのか?城之内」
さっきの城之内の叫び声を聞いて、海馬が様子を見に寝室へ入ってきた。
「…………」
だが、ベッドの上を見た瞬間、不機嫌オーラが漂い始める。
「…おい、城之」
「あ!ブルーアイズのマスター!」
これはどういうことだと城之内に詰め寄る前に、馬乗りになっていた少女から声が上がった。
「「「「あー。マスターの旦那様ですー」」」」
「だれが旦那だーッ!!!!」
四つ子が声をそろえてそう言うと、ガバッと起き上がり、間髪入れず城之内がつっこんだ。
「…貴様ら、一体どこから入った」
海馬邸は完璧なセキュリティシステムを誇っている。
昨晩、城之内が屋敷に来た時は確かに一人だった。
そして朝目覚めるまで、城之内はこのベッドから抜け出していない。
最初に彼女達を見た時、一瞬城之内を疑ってしまったがそんな器用な真似など、真っ直ぐな彼が出来ようもないのだ。
ならばこいつらはどこから入って、そして城之内にべったりとくっついているのだ?
そう思い、聞いてみたのだが。
彼女達の指した場所は、城之内の学生鞄だった。
「…オレを馬鹿にしているのか…」
どんなに体の柔らかい人間でも、あの鞄に入れるのはせいぜい四つ子の内の一人ぐらいだろう。5人も入れるわけがない。
「馬鹿になんてしてないよ?本当にブルーアイズのマスターは短気だねぇ。…うーん、どっちかっていうと入ったって言うより、出てきたって言った方が正しいのかな?」
ね?と、その少女は四つ子に同意を求めた。
それに四つ子も大きくうなづき、海馬の方を向いて、こう言ったのだ。
「正確にはー」
「私たちはー」
「最初からマスターと一緒にー」
「いたのですー」
その言葉に驚いたのは、城之内だ。
海馬は先ほどと同じく眉間に皺が寄ったままだが、二人は確かに同じ結論に達していた。
黒髪、黒尽くめの服装、真紅の瞳。
ふわふわの髪、色違いの服、目を閉じた同じ顔の四つ子。
城之内のことをマスターと呼ぶこと。
それは、城之内がいつも鞄に入れて持ち歩いているカードのモンスター(一方はトークン)を連想させるものだった。
ガサゴソと鞄の中をあさり、デッキを手にした城之内は、目的のカードを探し出して見た後、固まってしまった。
そこには、描かれてあるはずの絵が無かったのである。
「も、もしかしてお前ら…」
城之内が、信じられないといった風に四つ子と少女を交互に見つめ、震える声で言った。
「レッドアイズと…スケープ・ゴート、か…?」
その瞬間、5人ははちきれんばかりの笑顔になって、城之内に抱きついた。
「どわぁ!!」
思わぬタックルに、城之内はまたベッドへと逆戻り。
「マスターなら、絶対解ってくれると思ってた!」
「「「「ですーv」」」」
少女と子供だとは言え、5人にのしかかられては少々苦しいのだが、あまりにも嬉しそうに擦り寄ってくるその姿に、モンスターの時の姿がダブって見えて、思わず城之内はふきだしてしまった。
寝室のドアの側で、それを不機嫌そうに眺めている海馬など知る由も無く。
***
「…それで何故、お前達はこの世界に存在しているのだ?」
城之内が着替えと食事を済ませ、海馬も仕事を終わらせて、7人は書斎のソファに向かい合って座っていた。
もちろんというか、モンスターたちは城之内にべったりなので、海馬のみ向かいのソファに座っている。
城之内は膝に二人と右側にもう二人の四つ子を抱え、左腕にはレッドアイズがしがみついている状態である。
この状況で海馬が切れなかったのは、奇跡といえよう。
(厳密に言えば、切れる一歩手前といったところなのだが…)
「だって今日、マスターの誕生日でしょ?」
「だからなんだ」
イライラと海馬が返してくる。
現在の時刻は午前10時。本来ならそろそろ出かける用意をして、城之内とデートに行く予定なのだ。
それがこんなイレギュラーな存在が突然現れて予定を崩されてはたまらない。
今日という日は、二度と来ないのだから。
「私たちだって、お祝いしたいもん」
「「「「ですー」」」」
「お、お前ら…」
城之内が感動して、目をうるうるさせている。
(チッ!)
海馬は舌打ちした。城之内はこういった情に脆い。
もしもこいつらが一日城之内と一緒にいたいなどと言い出せば、城之内のことだ、OKしてしまうだろう。
恋人と二人で過ごすよりも、そちらを選びかねない。
だが今日は城之内の誕生日だ。
彼の望むまま一日を過ごせばいい。
…そうは思うが、やはり自分よりこいつらを選べばおもしろくないのは事実だ。
「それは答えになってないだろう」
“誕生日を祝いたいから”では、実体化(しかも人間の姿)をした理由にはならない。
「オレが聞いているのは、どうやって人間の姿で実体化をしているのかということだ」
思い出すのも忌々しいが、ソリッドビジョン以外でカードの実体化が出来るのは闇のゲームだけだ。
しかしそれも、カードの絵柄を忠実に実体化するだけもので、竜や羊を人間の姿に変えるなどということはなかったはずである。
今、目の前にいる少女達は確かに人間だ。触感もあるし体温もある。影も出来る。
普通に考えれば、ありえないことだった。
「それはね、マスターの誕生日だから」
「…だからそれでは理由にはならんと!」
「はぁ〜、ホントに気が短いなぁ、ブルーアイズのマスターは。人の話は最後まで聞きなさいよ」
「……」
ぴしゃりと言い放たれて、海馬は一瞬言葉を失う。
「私たちはカードだけれど、扱う人間によっては心が宿るの。心が宿るということは、その人間に魔力があるということよ。あ、この魔力って言うのは悪い意味じゃないわ。具現化する力だと思ってね。でも魔力だけあっても心は宿らない。マスターたちみたいに、私たちを信頼して特別に思ってくれないとダメ。だから私たちはみんな心を持った」
「ちょっと待て。みんな、って…デッキのカード全部がか!?」
驚いた城之内が、思わず声を上げた。
海馬は静かに聞いている。
「うん。モンスターは全員ね。スケープ・ゴートはマジックだけどトークンだから、私たちと同じになるわ」
「「「「ですー」」」」
「でも、心を宿しても全部のカードが具現化…つまりこうして3次元の現実世界に出てこれるかというと、そうもいかない」
「それはー」
「マスターの魔力がー」
「足りないからー」
「なのですー」
「…オレの?」
「そう。普段の状態だと、一体のモンスターでさえ具現化するのは無理ね。デュエルの時の、精神が高ぶった時とかなら可能だけど…」
「じゃあなんでお前ら、今日は出て来れたんだよ?」
それが海馬の聞きたかったところなので、やっと本題に入ったかと内心ため息をついた。
時間はすでに30分過ぎている。
「マスターの誕生日だからだよ」
「だからそれでは理由にならんと言ってるだろうが!!」
同じ答えの繰り返しに、とうとう海馬が切れた。
「「マスターの旦那様はー」」
「「怖いですー」」
「……」
幼い子供(元は羊)に本気で怖がられて、その様子に子供好きな海馬はちょっとショックを受けたようだった。
少し冷静になったのか、咳払いを一つすると、立ち上がった腰をソファに沈める。
「誕生日になると、魔力が増すのよ。増し具合は、その年によって違うんだけど。今年は、モンスター2体分の具現化が出来る増し分だったってわけ」
「それでー」
「私たちがー」
「ジャンケン勝負の末にー」
「勝ち残ったのですー」
得意げに四つ子が言った。
「ジャンケンで誰がこっちに来るか決めたのかよ…?」
モンスターたちがジャンケンをしている様を想像して、可笑しいやら情けないやら、城之内は複雑な気分だ。
「だってバトルだったら、やる前から勝負決まってるでしょ。それじゃあ、スケープ・ゴートみたいな弱い子たちは、勝ち残れないじゃない?」
それで、攻撃力・守備力に関係なく全員に勝つチャンスがあるジャンケンで決めたというわけだ。
運任せの(ある意味とても城之内のデッキらしい)選択である。
「では何故人型なんだ?」
非現実的な話に、それでも疑問に思っていることを解決しないと気がすまない海馬である。
「スケープ・ゴートはともかく、私がそのまま具現化したら色々大変でしょ?…それに、マスターとも話をしたかったし、誕生日を祝うなら…人型の方がいいかと思ってさ」
「それとー」
「ケーキを作るにはー」
「人間の手でないとー」
「無理なのですー」
「…え?ケーキ?」
スケープ・ゴートの思いがけない言葉に、城之内は?を飛ばす。
「そうですー」
「マスターはー」
「誕生日には丸いケーキをー」
「好きな人と一緒に食べたいってー」
「…!!」
「思っ…むぐぐ」
いつの間にばれていたのか、密かに願っていたことを言葉に出されて城之内の顔は真っ赤だ。四つ子たちの口を必死でふさぐ。…が、聞かれたくない肝心の言葉は、目の前の男に聞かれてしまっていた。
「…ほほう?初耳だな、城之内?」
「……う゛」
なんでお前ら、そんなこと言うんだよ〜!と内心泣きながら、そんな女の子みたいな思考を知られて恥ずかしくなった城之内は、そのまま俯いてしまった。
それは本当に小さい頃からのささやかな願いだったのだ。
両親が離婚する前は、誕生日に母さんがケーキを作ってくれて、ロウソクを立てて、4人で切り分けて食べていた。
他にご馳走やプレゼントは無かったけど、そのケーキを食べられることが嬉しくて、誕生日を心待ちにしていたものだ。
だが、離婚後は誰も誕生日など祝ってくれず。
妹の静香だけは、お祝いの言葉を電話でくれたけれど。
いつしかあの丸いケーキは、自分には縁遠いものになっていた。
幸せの象徴かのようなそのケーキを、また食べられる日が来るなら…その時は一人ではなくて、好きな人と一緒ならいいなと思っていたのだ。
家族はもう元には戻らないから。
いつか出会うであろう、未来の恋人と一緒に。
「それで貴様らは、城之内のためにケーキを作りにやってきたというわけか」
「「「「そうですー」」」」
にっこりと、四つ子が微笑み返す。
(しかし具現化する魔力だと…?非ィ現実的な話だ。バーチャルリアリティも、もっと研究を重ねれば触感を生み出せるのかもしれないが…。今の技術力では無理だな。…だとすると、こいつらの話は本当なのか?…いや、しかし…)
「…ま〜だ信じてないのね、ブルーアイズのマスターは」
やれやれといった感じで、レッドアイズが呆れ返る。
彼にも相当な魔力があるにもかかわらず、それに気付きもしない鈍感ぶり。
これでは、ブルーアイズも救われまい。
なんでこんな男がマスターなのかと、ちょっぴりブルーアイズに同情したレッドアイズであった。
「それよりマスター、これからデートなんでしょ?出かけないの?」
「…え、だって」
お前らがいるのに、という言葉はスケープ・ゴートの
「マスターはー」
「私たちと過ごすよりー」
「旦那様と一緒の方がー」
「幸せそうですー」
という、ストレートな言葉に遮られた。
何事も、無邪気な子供には敵わないものなのだ。
***
レッドアイズとスケープ・ゴートは、『城之内のためにケーキを作る』間、彼らには当初の予定通りデートをしてもらうことにした。
夕食にケーキを食べてもらうので、それまでに帰って来て欲しいと一応言って、二人を送り出す。
今頃マスターは、楽しい時を過ごしていると良いなと思いながら、厨房と材料を借りて、ケーキ作りに励む5人だった。
***
「ただいま」
「「「「おかえりなさいですー」」」」
デートから帰ってきた城之内の足に、四つ子たちが抱きついた。
「おかえりなさい、マスター」
「おう、ただいま!」
レッドアイズも、本から目を離して出迎えてくれた。
5人はケーキを作り終わった後、海馬の私室でおとなしくしていたようだ。
「お前ら、暇じゃなかったか?大丈夫か?」
「「マスターはー」」
「「心配性ですー」」
ぐりぐりと四人の頭を撫でてやると、キャッキャと笑いながら見上げてくる。
「楽しんでこられたようですね」
少なくともマスターは、と言ってレッドアイズは海馬を見た。
恐らくは夜までこのデートは計画されていたのだろう。
それがキャンセルになったのだ。海馬の方は面白くない。
「そんなしかめっ面しなくても、マスターの願いが叶えられたら私たちは帰るわよ」
「…そうか」
レッドアイズのその言葉に、少しホッとした海馬である。
「マスターの旦那様はー」
「私たちにー」
「やきもちをー」
「やいてるですー」
「…!」
またしても四つ子に本心を言い当てられ、珍しく海馬が狼狽した。
「え…?海馬が、やきもち…?」
城之内が、信じられないといった面持ちで海馬の方を見ると、目を逸らされてしまった。
その行動に、さっきの四つ子たちの言葉が本当であったことを悟った城之内は、海馬のその気持ちを嬉しいと感じてしまって、知らず知らず顔が綻ぶ。
「…先に食堂に行っているぞ」
その場にいることが居た堪れなくなった海馬は、コートを脱いでソファに投げ出すと、さっさと部屋を出て行ってしまった。
それが照れ隠しであることくらいは、そこにいた全員が解ってしまった事なのだけれど。
「結構、単純なのね。ブルーアイズのマスターって」
「ポーカーフェイスだから、パッと見は解らねぇけどなー」
ずっと一緒にいたら、僅かな雰囲気の違いとかで解るようになるんだぜ?と、笑いながら城之内が答える。
「…マスター。今日私たちが来てしまって、本当は迷惑だった…?」
レッドアイズが、ずっと思っていたことを聞いてみた。
城之内にしてみても、今日は一日、恋人の海馬と過ごす予定を楽しみにしていたに違いないのだ。
「何言ってんだよ!そんなこと全然無いぜ!」
むしろ会えて嬉しかった、と。
「海馬とのデートが出来なくなったわけじゃないしさ。…まあ、アイツはアイツで夕食のレストランとか予約してたみたいだけど…。別にオレは、海馬んちのいつもの料理でも良かったんだ。…アイツと一緒に食べられれば、…な」
はにかむ城之内。
「…マスター…」
レッドアイズは、今日、こうして城之内と話が出来て本当に良かったと、心から思ったのだった。
***
「…あれ?なんで兄サマ、ここにいるの?」
夕食のお時間です、とメイドに呼ばれ、食堂に降りてきたモクバが見たのは、午後に城之内とデートに出かけた兄だった。
いつもなら、ホテルに泊まって帰ってこないハズなのに。
しかも今日は城之内の誕生日だから、てっきりスィートルームでも取ってあるのか思ったのだが。
「……今日の夕食は、ここで取る事になったからだ」
なんとなく、兄が不機嫌なのはその所為なのだろうか?
「あ、ああそうなんだ?でもなんで…?」
「…それは…」
兄が眉をひそめて言いよどむ。
「城之内のたっての希望で、誕生日には丸いケーキを…」
「ダァァアーッ!それ以上言うなァ!!」
ズバァァン!と勢い良く食堂の扉を開け放ち、大声で海馬の声を遮って、城之内が入ってきた。
モクバは、兄の口からケーキという単語が出てきたこと自体に驚きを覚え、先を促す。
「?ケーキがどうかしたの、兄サマ?」
「…いや。…モクバ、食後にホールのケーキを3人で分けるから、コースの方はあまり食べ過ぎるなよ」
「!」
「あ!そっか!バースディケーキだね兄サマ!」
今日は城之内の誕生日だもんね!お誕生日おめでとう、城之内!
と、ニコニコしながらモクバが言う。
「あ、ありがとうよ、モクバ…」
(海馬、お前…)
城之内は呆然としながら海馬を見ていた。
スケープ・ゴートが言ったのは、『好きな人と』ケーキを食べることだったはず。
本当のところは、『家族と』だったけど、それはもう叶うことのない事だったから、『好きな人』に変わったのだ。
なのに海馬には、解ってしまったのだろうか。自分の本当の願いが…。
「…敵わねぇなぁ、…ったく」
城之内は思わず目頭が熱くなって、でも笑ってごまかした。
「うわ〜!うまそー!」
レッドアイズたちによって運ばれてきたケーキは、本当に見事な出来栄えだった。
ケーキ店で買ってきたといっても解らないほどの。
真っ白のホイップクリームでスポンジを覆い、その上には真っ赤な苺と一輪のバラ。
お約束の板チョコには、おたんじょうびおめでとうの文字が書いてある。
3人で食べるには少し量が多いかもしれないが、こんなに美味しそうならぺロリと食べられてしまいそうだ。
モクバには、レッドアイズたちのことは話してないのだが、どうやら今日のためのケーキを作った、パティシエだと思ったらしい。
四つ子のことは、パティシエの妹だと説明をした。
まずは6等分にして、一切れずつ皿に分ける。
チョコレートとバラは、もちろん城之内にだ。
「「いっただっきま〜す!」」
モクバと城之内が、早速ケーキを頬張る。
海馬は静かに口に運んでいる。
「「美味い…!」」
「……」
レッドアイズたちは、満足げに微笑んだ。
「こ、これ!すっごく、すっごく美味いぜぃ!!」
モクバがキラキラした目を向けて、興奮しながらレッドアイズに美味しさを伝える。
「こんな美味いケーキ、食べたの初めてだ…」
城之内も、今まで食べたケーキを凌ぐその美味しさに、感嘆の息をもらしていた。
「…見た目にしては、甘さが控えてあるな。…まさか、俺の口に合うケーキが作れるとは…」
海馬も素直に褒めている。(珍しいことだ)
「え?兄サマ、このケーキすっごく甘いよ?」
「何…?」
「そうか?オレにはちょうどいい甘さだぜ?」
クリームもスポンジも苺も。
ケーキ全体が、それぞれ3人の好みの味になっている。
「どういうことだ?」
海馬が、傍らに立つレッドアイズに聞いた。
「簡単なことです。そのケーキは、食べる人の好みをそのまま映すからですよ」
「「「「ですー」」」」
「「すっげー!そんなこと出来るのか!?」」
モクバと城之内が、同時に驚きの声を出す。
「…非ィ科学すぎる…」
やっぱり海馬だけは、信じてないようだったけれども。
***
2切れめのケーキも食べ終えて、食堂を後にした3人は、それぞれの部屋へ戻っていった。(城之内は、海馬の部屋だったが)
「マスター、そろそろ私たちは帰りますね」
「「「「ですー」」」」
レッドアイズが、午後9時を指す時計を見上げて、そう言った。
「え…まだいいじゃねぇかよ。今日一日はこっちにいられんだろ?」
だったら…と、言いかけた城之内に、レッドアイズは苦笑しながら言ったのだ。
「マスターはいいかもしれないけど、ブルーアイズのマスターが持たないんじゃない?」
「あ…」
そう言われて、海馬がレッドアイズたちにやきもちを焼いていたことを思い出した城之内は、自分達に二人きりで過ごす時間を残そうとしている事に気付いて真っ赤になった。
つまり、これから二人っきりになるということは、そういうことなのだ。
「ブルーアイズに蹴られて死にたくないしね〜」
などと冗談半分に笑いながら、ちらりと海馬を見、レッドアイズが言う。
「さっさと帰れ」
「解ってますよ!でも最後に…」
「…まだ何かあるのか」
海馬がまた眉間にしわを寄せて不機嫌そうに問う。
「次はいつ来られるか解らないから…」
寂しそうに言いながら、レッドアイズはバルコニーに出る窓を開け、外に出た。
冬の冷たい風が、暖かい室内に容赦なく入ってくる。
「お、おい、レッドアイズ…?」
夜の闇と同化しそうなレッドアイズの体。その背中から、バサバサッと漆黒の翼が出てくる。
そうして彼女は、バルコニーの手すりに身を乗り出して飛び降りた。
「!!!レッドアイズ!?」
驚いた城之内と海馬は、すぐさまバルコニーへ駆け寄る。
…するとどうだろう。目の前には、カードに描かれた通りの真紅眼の黒竜がいたのである。
『マスター、聞こえますか?』
「レッドアイズ!?おう、聞こえるぜ?」
『この姿になると、私の声はマスターの心にしか届きません』
「そうなのか?…なぁ、海馬。今レッドアイズの声、聞こえたか?」
隣に立つ海馬に、城之内が問う。
「…なにも聞こえんが」
『ですが、同じモンスターになら聞こえます。ブルーアイズのマスターには、スケープ・ゴートを通して聞いてもらいます』
「お、おう?スケープ・ゴート、よろしくな」
「「「「まかせるですー」」」」
「…さっきから何なのだ一体…」
どうやら城之内とレッドアイズは意思の疎通が出来ているようだが、海馬にはさっぱりだ。
「マスターの旦那様ー」
「レッドアイズの通訳はー」
「私たちがするですー」
「良く聞くですー」
「あ、ああ…?」
今まで城之内にべったりだった四つ子が、今度は海馬の足にべったりとくっついてきて見上げている。どうやら、レッドアイズの言葉を伝えようとしているらしい。
『マスター。今日私たちがこちらに来たのは、マスターの誕生日を祝いたいからです。マスターに喜んでもらえるように、私たちで出来る、マスターの願いを叶えるために』
「ああ、ケーキ、とっても美味かったぜ。ありがとうな」
レッドアイズたちが来なければ、あんなこと…言い出せなかった。
来てくれたからこそ叶った、小さな願い。
『ですがマスター、もう一つ…願いがあるでしょう?』
「え?」
『私の背中に乗って、空を飛びたいと……思ってくれてましたね』
「…レッドアイズ…」
ソリッドビジョンで見るたび、その勇ましい姿の黒竜と共に大空を駆け抜けたらどんなに気持ちいいだろうと、思ってはいた。
しかし所詮は幻影だ。触ることも出来ない。
でも今は…。
恐る恐る、目の前のレッドアイズに手を伸ばす。
触れた先はレッドアイズの頬。
ひんやりと冷たい感触と硬いボディ。
確かにそこには、真紅眼の黒竜が存在していた。
『さあ、私の背中に乗って!マスター』
「え…でも…」
ちらりと海馬を見上げる。
レッドアイズには乗りたいけれど、海馬をここに残すのは忍びない。
「…乗らないのか」
海馬が、レッドアイズを見据えたまま言った。
「オレはコイツに乗りたいなどとは思っておらん。どうせなら、ブルーアイズに乗る」
つまりは、自分のことはいいからレッドアイズと空の旅を楽しんで来い、という事らしい。
いちいち解りづらい男だ。
クスリと小さく笑うと、城之内はレッドアイズに飛び乗った。
「じゃあ、ちょっと行って来るぜ!」
『もう少しの辛抱だよ、ブルーアイズのマスター』
「…いいからさっさと行け」
城之内がしっかりと背中に乗ったのを確認すると、レッドアイズは翼を羽ばたかせて、見る見るうちに上昇した。
暗闇が苦手な城之内も、レッドアイズがいれば大丈夫だろう。
今頃は、眼下に広がるイルミネーションを楽しんでいるに違いない。
レッドアイズが飛び立った方向を見上げながら、海馬はその様子を想像して小さく笑ったのだった。
***
「ではマスター、帰りますね」
時計の針は午後10時を指していた。
「「「「マスター、さよならですー」」」」
四つ子たちが城之内に引っ付いて、別れを惜しんでいる。
城之内はしゃがみこむと、四つ子たちをぎゅっと抱きしめた。
「今日は本当にありがとな。お前らのおかげで楽しかったぜ」
腕を解いて笑顔を向けると、四つ子たちも笑顔になった。
「ほら、スケープ・ゴート。そろそろマスターから離れなさいな」
「「「「はいですー」」」」
言われて、レッドアイズの方へ行く四つ子たち。
「ブルーアイズのマスター、私たちのマスターをよろしくね」
「フン、貴様らなんぞに言われるまでもない」
「そう?…もしマスターを悲しませたりしたら、黒炎弾ぶちかまして再起不能にしてやるから♪」
「……」
「……」
おいおい、それは洒落にならねぇよ。と城之内は思ったが、レッドアイズの気持ちはありがたく受け取ることにした。
「それじゃあマスター、お元気で!」
「ああ、またな」
「「「「マスターの旦那様も、お元気でー」」」」
「…ああ」
そう言い残し、彼女達の体が透け始めた。
どこからともなく煙が巻き起こり、彼女達を覆うと、すっかり晴れた頃には姿はなくなっていた。
「…帰ったか」
「そうみてぇだな」
鞄の中からデッキを取り出すと、真紅眼の黒竜とスケープ・ゴートのカードを見る。
そこには、元通りに絵が納められていた。
城之内は、愛しそうにそのカードを見つめていた。
今日はとても不思議な日だった。
存在するはずもないカードの中のモンスターが自分達の前に現れて、そして誕生日を祝ってくれた。
今まで言い出せなかった…叶うはずもないと諦めていた、小さな願いを叶えるために。
「…今日は」
「ん?」
「今日はあいつらのおかげで、楽しかったのか」
不意に海馬が、独り言のようにつぶやいた。
その言葉に、城之内は海馬の言わんとする事がなんとなく解って、小さく笑う。
「別にお前だけだったら楽しくなかったなんて、言ってねぇぜ?…お前が居て、あいつらも居たから、もっと楽しかった、ってことだよ」
「…同じ事だろう」
「違うっての」
この男は、何でも自分が一番でないと気が済まないのだ。
つまりは今日、城之内が喜ぶ一番のプレゼントをするのは海馬でなくてはならなかったのだが、イレギュラーな存在に振り回されて、挙句にその一番を持っていかれたと思っている。
(解ってねぇよなぁ…)
いつだって、自分の一番は海馬なのに。
レッドアイズたちが叶えてくれた願いだって、海馬が居なければ成り立たなかったのだ。
「そういや、まだお前から誕生日プレゼント貰ってないけど?」
確かにデートはしたけれど、海馬のことだからソレがプレゼントだなんてことはないだろう。
だから、もし用意してあるなら貰わなければ悪いかなと思って聞いたのだが。
「………」
何故かさっきよりムスッとして黙り込んでしまった海馬に、首をかしげる。
「…無いならかまわねぇけどさ」
「そうではない…」
「用意はしてくれてたってことか?」
「…そうだ」
「だけどレッドアイズたちが来たから、ダメになった…とか?」
「…その通りだ」
(それで今日一日、どことなく不機嫌だったわけか…)
城之内は納得した。
「予定では、午後から沖縄に出かける事になっていたんだが」
「お、沖縄だぁ〜!?」
何故に誕生日で沖縄!?
想像していたプレゼントとかけ離れすぎていて、城之内は思わず叫んだ。
「…まあいい。それは来年に取っておくとしよう」
「え…」
来年、という言葉に目を瞠る。
「…なんだ?変な顔をしおって」
「う、ん…なんでもない…」
海馬は、来年の誕生日も一緒に祝ってくれるつもりなのだ。
一年も先の約束を、さらりと当たり前のように言ったことが、城之内を喜ばせた。
「へへ…」
来年は一体どんな誕生日になるのかと、まだ今年の誕生日すら終わっていないのに考えてしまって、自然と顔がにやける。
「…変な顔が余計変になってるぞ?」
「変な顔って言うな!…ックシュン」
会話の途中でくしゃみが出て、背筋をゾクゾクッと寒気が走った。
「レッドアイズとこの寒空の下、30分以上も飛行していたんだ。風邪を引き兼ねんぞ?…さっさと風呂に入って温まって来い」
誕生日に風邪等引きたくあるまい?と海馬から言われ、おとなしくそれに従い風呂場へ行く。
しかし、脱衣所のドアノブに手を掛けた時、ふとあることを思いついたので振り返って聞いてみた。
「…一緒に入ろうぜ?」
「……」
まさか城之内からそんな誘いが来るとは思わず、海馬はしばらく思考が停止していたようだった。
「いいのか…?」
「?だから言ってんだろ?」
「それはそうだが…」
「だってさ、オレが風呂に入ってる間ってお前暇じゃん。逆もそうだろ?…さっきレッドアイズの背中に乗って見てきた街の様子とか、話したいこといっぱいあるんだよ。だからさ、一緒に風呂に入れば、その間で話せるじゃん」
つまりは時間の無駄を省きたいらしい。
「なるほど。…だが、その余裕があれば、の話だがな」
ククク…と海馬が妖しい笑みを漏らす。
「…な、なんで?」
その様子に嫌なものを感じ取ったのか、城之内の顔が引きつる。
「オレとお前が一緒に風呂に入って、ただで済むと思うのか?」
…この人、ヤル気満々です…!
「や、やややっぱり一人で入るわ。じゃお先!」
風呂場でやられてたまるかとばかり、城之内はすばやく扉を開いて中に入ると、ガチャリと鍵を掛けた。
「ええい!開けんか城之内!貴様から誘っておいてなんだその態度は!」
ドンドンと容赦なく扉を叩く海馬に、
「オレはそういうつもりで誘ったんじゃねぇんだよ、このバカイバ!」
もうすぐ誕生日も終わりだっていうのに、なんだってこんなくだらない言い争いをしているのか、ちょっぴり涙が出そうな城之内だった。
『今頃マスター、ブルーアイズのマスターと愛を確かめ合ってるのかしら』
『マスターとー』
『マスターの旦那様はー』
『とっても仲良しでー』
『うらやましいですー』
『ふふふ、今日は激しすぎてマスターは辛いかもね〜♪』
『『マスターの旦那様はー』』
『『やきもちやきですー』』
『ブルーアイズのマスターって、釣った魚には餌をあげないタイプっぽいもんね〜。時々邪魔して嫉妬心を煽っといた方が、マスターをしっかり捕まえておいてくれるから安心だわ』
来年もまた行きましょうね〜♪などと、モンスターたちが余計なお世話を焼いていることを、二人は知らない。
さてさて、来年の誕生日はどうなる事やら。
【おしまい】
来年の話→城之内君の誕生日本『琉球緋桜』に続く。
--あとがき--
1月25日に間に合わなかったよ…。(涙)
久しぶりにサイト用SS書いてみたら、すでにSSじゃないし。長ッ!!
今までの最長記録です。読み込み遅かったらすみません!
あれもこれもと詰め込んだら、こんな量になってしまいました…。
私の得意なジャンルって、やはりほのぼのなのか!?(苦笑)
なんだか城之内君に幸せになってもらいたくて、彼に喜んでもらえるようなプレゼントを考えていたら、結構な数のプレゼントが浮かびまして。
今回のプレゼントは、社長からにしては難しいかな〜と思いまして、嫌いな方もいらっしゃるとは思ったんですが、モンスターの擬人化で賄ってみました。
女性なのは、私の趣味です。(笑)
いやだって、画面に男ばっかりだったらむさいでしょう?
それに社長は、女の子より男の子が城之内君にべったりくっつく方が、許せないと思うのですよ。
やきもちを通り過ぎて殺気に成りかねません。
イメージイラストとかも描けたら良いのですが…時間切れです。
そ、そのうちにね!
本になったら必ず挿絵で描きたいと思います。
実は最初に浮かんだ誕生日話は別のネタだったのですが、この話ともう一つ、来年の誕生日に回した社長が用意したプレゼント話を一まとめにして、春コミ(3月29日)に発行したいと思います。
…時期外れなのは重々承知なんですがね。(遠い目)
お誕生日の記念ですから、本という形にしたいなーと思いまして。
『琉球緋桜』の方は、今回よりも海城色を濃くして書く予定です。(笑)
お楽しみに!