新春羽根突き大会


2002年1月1日。

城之内は、すでに配達されたであろう年賀状を取りに、団地の入り口にある集合ポストへ足を運んだ。
距離にすればそんなには離れていないのだが、さっきまでこたつに入っていたために程良く暖まった体には、この冷たい風は結構辛い。
ポストから全ての郵便物を取り出し、踵を返す。早く戻ってまたぬくぬくしたかったのだ。
さすがに正月だけあって、いつもより多いそれを上着のポケットにしまい込み、同時に手も入れて駆け出す。
親父は年末から年明け早々、どっかで酔いつぶれているのであろう。
どこへ行くとも言わず、昨日は帰ってこなかった。
大方どこかの店で仲間内と博打でもしながら酒でも飲んでいるんだと予測される。
そのおかげで、自分は穏やかに静かな正月を迎えることは出来たのだが。
頼むからもう借金だけは増やさないでくれよ!…と願う城之内だった。

電気をつけっぱなしにしていたこたつは、冷えた体に心地よい暖かさを提供してくれた。
こたつ机の上に、さっきポストから持ってきたはがきを広げる。
自分のアルバイト料だけで学費と生活費をまかなっている城之内にとって、年賀状を自分から出すことは殆ど無い。
例外は、遠くの町に住んでいる彼の母親と妹だけだった。
今年も真っ先に彼女達の名前を探し、そのはがきを裏返す。
目の手術をして失明を免れた妹の、去年とは違う生き生きした文字とイラスト。
疲れた様が読みとれた母親の文字にも、今年はそれが感じられない。
…自然と、城之内が微笑む。
それから友人達からの年賀状を読んでいた城之内の手が、ふと一枚のはがきの前で止まった。
機械で印刷されたと解る宛名のそれは、やけに無機質な感じがする。
恐る恐る裏返した、そこには。

謹賀新年
(ココに馬の墨絵入り)
明けましておめでとうございます。
昨年は大変お世話になりました。
本年も宜しくお願い申し上げます。


やっぱり印刷された、しかもお約束な文面が。
そしてその文面の下の方には、朱色で「海馬瀬人」の四角い判子が入っている。

(つーかオレ、別にアイツにお世話してねぇよな?)
しかも。
(宜しくお願いされても、困るっつーか……。)
出来れば願い下げしたいくらいである。
これがいくらお約束な年賀状の文面だとしても、だ。

海馬に関わると、ろくな事がない。
歩くトラブルメーカーなんじゃないかと思うくらい、彼の周りでははた迷惑なことばかりが起こる。

しかしその年賀状はココで終わりではなかった。
後の文章にも目を通すと、そこには…。

来る1月3日正午より、海馬邸にて新春羽根突き大会を開きます。
勝者には金一封と特製豪華おせちもご用意してございますので、是非ご参加下さいますようお願い申し上げます。


「……なに考えてんだ?あいつ……」
自分と海馬は、仲の良い方ではない。それは向こうもよく解っているはず。
普通こういうのって、友達を呼ぶんじゃねぇの?
とは思ったものの、金一封とおせちには心引かれるものがある。
おせちなんて、せいぜい自分で作っても黒豆程度。
昔母親がいた頃に食べたあの重箱に詰まった色とりどりのおせちなど、ずっと食べていない。
「…俺が呼ばれてるって事は、遊戯も呼ばれてるよな…?」
さすがに一人であの豪邸に乗り込むのは気が引ける。
でもまぁ、遊戯が誘われていないなんて事は無いだろうと思い直す。
なにせあの二人は、自他共に認める『宿命のライバル』とかいうやつなのだ。

そして最後の一文には、手書きでこう書かれていた。

持ってくるもの…気合い。


「……はぁ?」
そのあまりのギャップに、思わず声を漏らす。

(なんで羽根突きに気合いが必要なんだ!?)

どちらかというと、あれは女の子の正月遊びで。
『そ〜れ!』パコン
『は〜い!』パチン
…なんて風な、おっとりした雰囲気の遊びではなかったのか。

しかもこの字は、海馬の字では無いような気がする。
以前ちょっとだけ見た(それは偶然だったのだが)彼のノートに書かれていた文字とは似ても似つかぬ、…なんというか、幼い字なのだ。

「モクバの字か…?」

しかしそれもなんだかおかしい。
何故兄が自分に宛てた年賀状に、わざわざモクバがそれを付け足すのかが。
しばらく頭の上に?マークを何個も飛ばしていた城之内だったが、そんな考えることでもないだろうと、その疑問はとりあえず横に置いておくことにした。



そうして迎えた1月3日。

城之内は遊戯と共に、海馬邸の門前に立っていた。
昨日少しの間ではあるが初雪が降ったせいか、一夜経った今日も身を切る寒さ。
遊戯は寒いのが苦手なのか、耳にはフカフカの耳当て、手には手袋、マフラーはもちろん、コートの下にはセーターを着込んで、さらに靴はいつものスニーカーではなく、今から雪国に行くのかと思わせるほどの防寒靴を履いていた。
「城之内くん、そんな格好で寒くないの〜?」
鼻の頭を真っ赤にしながら、遊戯がそう問うた城之内はと言うと。
いつものジーンズとトレーナーに加え、マフラーにフリースのジャケットだけという、遊戯からすればなんとも寒々しい格好であった。
「…まー、遊戯よりは寒いかもしんねぇけどな…。別に大丈夫だぜ?」
「じゃあホッカイロ分けてあげる!…はい!」
「お、サンキューv」
あれだけ着込んでまだ足りないのか…などと思ってしまったが、くれるというならありがたく頂いておこう。いくらポケットに手を入れていても、指先は冷えてきているし。
そんなやりとりをしながら、大きな門をくぐって屋敷への道を歩いていき玄関扉を叩く。
程なく扉が開き、執事やメイド達が出迎えてくれた。
「あけましておめどうございます。ようこそ、海馬邸へ。本年も宜しくお願い申し上げます」
ずらりと揃った使用人に一斉に頭を下げられて呆気にとられている二人に少し遠くから声がかかった。
「何時までもそんなところにつったってんなよ!兄サマが待ってるぜぃ!」
モクバである。
見知った声に二人ともホッとして、声のした方に顔を向けた。
どうやらモクバのいる方へ行けば良いらしい。
執事に促され、二人はモクバの元へ歩き始めた。
「あけましておめでとう、モクバくん」
「よう!あけましておめでとさん」
「…あけましておめでとうございます」
そういってぺこりと頭を下げたモクバに、少なからず驚く。
その表情から読みとったのか、モクバは少し不機嫌そうに
「オレだって礼儀ぐらいわきまえてるぜぃ!」
と言いながら奥の部屋へ走っていった。

「今の言葉、海馬に聞かせてやりたいぜ…」
「…ホントだね」

呟かれた言葉は、モクバに聞かれることはなかった。


モクバに案内された部屋の扉を開けると、洋館にはおおよそ似つかわしくない襖があった。
その襖を開けると、まるで旅館の一室かでもあるような和室が広がっており、二人は上がり端で靴を脱いで、その和室へ入っていく。
「……うわ」
そこにはモクバ同様、海馬も同じように紋付き袴姿で仁王立ちしていた。
「良く来たな、遊戯!ついでに凡骨!!」
ワハハハハ!と、何が愉快なのか大口を開けて笑っている海馬に少々面を食らったが、聞き捨てならない言葉に反応して、城之内は無意識に怒鳴りつける。
「てめぇ、海馬!凡骨言うな!しかもついでって何だよ!招待されたから来てやったのによ!」
そう、年賀状に『来て下さい』と書いてあったから来たというのに、この言われよう。
「…フン、本来ならば貴様ごとき、この海馬家恒例新春羽根突き大会に出場資格すらないのだがな。今年は貴様の年と言うことで、特別に招待してやったのだ。光栄に思え凡骨!」
「だから凡骨言うなっつってんだろ!耳が遠いのかお前!つーかオレの年って何だ!?オレの干支は午じゃねぇぞ」
「……まぁまぁ、城之内くん。海馬くんのアレは今に始まった事じゃないんだから少しは落ち着きなって…。海馬くんも、ケンカするために僕たち呼んだんじゃないんでしょ?…ていうか、ボクは早くこたつに入りたいんだけど、いいかなぁ?」
にっこりと笑みを向けられれば、海馬も城之内も(自分の意志に関わらず)頷くしかない。
「はぁ〜、あったか〜いv」
自分ん家の倍以上はあるかと思われるこたつに入って暖をとっている遊戯の隣に腰掛ける。
入ってみると、それは掘り炬燵だった。
(へぇ〜、掘り炬燵ってこんな風になってんのか。座ってる分には、こっちの方が楽だな)
ごろ寝するには普通のこたつの方が良さそうだけど。
「…そういえば海馬くん。羽根突き大会っていっても、僕たち羽子板持ってないけど…」
思い出したように遊戯が呟く。
「そんなものくらい、主催者が用意できないでどうする。安心しろ、数十個という海馬家特製羽子板の中から選ばせてやる」
ふふんと鼻を鳴らし、得意げに答える海馬。
「……あー、そうなんだ…」
もはや海馬家の変なしきたり(?)に、突っ込む気にもなれない遊戯と城之内であった。



NEXT



…あまりにも前置きが長すぎた。(汗)
というわけで、肝心の羽根突きは後編へ続きます〜!






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