羽根突き大会はトーナメント制で行われる。
4人であみだくじをした結果、トーナメント1が海馬vs城之内、トーナメント2がモクバvs遊戯と言う組み合わせになった。
勝者には金一封とおせち、ということだったのだが、遊戯と城之内は昼時に海馬邸にやってきたため昼食を取っておらず、空腹を訴えてくるので(海馬にしてみればかなりの譲歩で)おせちだけは敗者にも振る舞うことになった。
『これで一食分の食費が浮くぜ!』
…などと城之内が思ったとか思わなかったとか…。
とりあえず食事は一回戦の後ということになり、4人とも羽根突きをするべく縁側から外へ出る。
手には海馬家特製羽子板が握られていたのは、言うまでもない。
「それではこれより、新春羽根突き大会を始める!」
声も高らかに海馬が開会の宣言をした。
「勝敗は、羽根を2度落とした方の負けとする。その際、羽根を落とした度に顔に墨を塗ること。つまり、顔に2箇所の墨が塗られた時点でそいつの負けというわけだ!」
その説明を受け、3人は静かに頷く。
「では各人所定の位置に着け!」
命令口調が気に入らないが、コレが終わればおせちにありつけるのだ。
多少は我慢してやっても良いだろう。
渋々と言った感じで城之内が所定の位置に行くべく、その場を離れる。
すると、クイクイッとジャケットの裾を引っ張られて足が止まった。
「?」
見るとモクバが心配そうな顔をして自分を見上げている。
「モクバ?どうした?」
「城之内。兄サマとの羽根突きは、……気合いだぜぃ!!」
「…は?」
確か年賀状にもそう書いてあった。やっぱりあれはモクバだったのだろうか。
「頑張れよ!怪我するなよな!」
「け…!?」
モクバはそれだけ言うと、さっさとその場を離れてしまった。
たかが羽根突きで怪我をするなとはどういうことなのか。
?マークを飛ばしながらも所定の位置に着くと、正面には海馬の姿が。
両者とも、その距離は20mと言ったところだろうか。
最初の羽根は、海馬とモクバから突くことになっている。
「行くぞ、凡骨!!」
「だから凡骨言うなっつってんだろーッ!(怒)」
海馬がスッと片手を上げた。羽根が空中に舞う。その羽根を羽子板が正確に捕らえ、振り落とされる。
それはまるで、テニスのサーブでも見ているようだった。
(綺麗なフォームだなぁ…)
と、城之内が思ったのと同時に羽子板から羽根が打ち出された、その瞬間。
シュンッ!
頬の横を、何かがものすごいスピードで横切った。
そのスピードが作った風で、そちら側の髪がなびく。
(…え?)
ドコォォォオォォンン・・・!!!
(…なんだか後ろの方で、何かが崩れる音がしてるんですけど…(汗))
今回ばかりは自分の予想が外れて欲しいと思いつつ、恐る恐る後ろを振り向くと。
そこには無惨に崩れ落ちた、海馬邸の外壁があった。
自分の後ろにあった外壁までは、ゆうに50mはあったはず。
「…………マジ?」
背中を伝う汗が冷たい。手のひらにも汗がにじんできている。
(あんなのが直撃したら、オレ死ぬ!!)
ガックリと膝を落として目の前の現実に恐怖している城之内の前に、海馬が近づいてきた。
顔を上げると、逆光を浴びた海馬がニヤリと嫌な笑みをこぼす。
手には筆。
ようやく立ち上がった城之内の顔に×マークを書いて、一度目の羽根突きは終わり。
二度目は羽根を落とした方からのサーブ(?)のため、自分からだ。
…しかし、海馬のような殺人的な羽根が突けるわけでもなく。
ごく普通の、『パコン』という音を立てて、羽根はゆっくりと海馬の元へ飛んでいく。
「こんなゆるい打ち方しか出来んのか貴様はッ!…よく見ておけ!羽根突きの羽根とは、こう飛ぶものなのだッ!!」
(いや、そう思っているのはお前だけだろーよ…)
そうして、本日二度目の壁が崩れ落ちる音を聞きながら、これで暖かい部屋でおせちが食えると思い直していた城之内であった。
「それにしても、怪我がなくってなによりだぜぃ」
城之内の隣に座り、出されたばかりの雑煮を食べていたモクバが、溜息混じりでそう言った。
外では、海馬vs遊戯(いつの間にかもう一人の方に変わっていた)の決勝戦が行われている。
未だに決着が付いていないらしく、時たま漏れる、『うおぉーーーっ!!!』という声や『ぬどりゃぁああーーーっ!!』などという、羽根突きをしているとは到底思えないかけ声を聞くに付け、
(あいつら人間じゃねぇ…)
と、城之内は思っていた。(それを遊戯が聞いたら、泣き崩れることだろう)
もう自分には関係ないので観戦も程々に、こうしてモクバと共におせちを食べてくつろいでいるのだが、ふと思ったことがあったので聞くことにした。
「そういや、遊戯はともかく…何でオレが呼ばれたんだ?」
だってアイツとは、友達って訳でもないし。
年賀状をくれたのだって驚いたのに、羽根突き大会とか言って家に招待されてるし。
「なんでって………………馬の骨、だからって兄サマは言ってたけど……」
「っ!んだと海馬の野郎ぉー!人をバカにしやがって!!」
オレの年だとか言ったのは、そういうことだったかよ!!
全くムカツク野郎だな!!!
「で、でもな!去年までは相手するのは、KCの新入社員だったんだぜぃ!」
「…?それがどうしたよ」
なんだかモクバが必死になって、そう言ってきた。
「だ、だからっ!今年は初めて兄サマが同級生を招待したって事なの!……年賀状だって、今までは海馬の親戚とかKCの主要取引先にしか出してなかったんだぜぃ。」
そんな兄から、自分宛に年賀状を送ったのは凄いことなのだと、モクバは言いたいらしい。
「…へぇ、そう」
自分だけに来たなら凄いことかも知れないけれど、遊戯にだって送ったんだから…。
きっと自分のは本当についでなんだろうと思い、何故だか少しがっかりした気分になった。
「……兄サマ素直じゃないから…羽根突き大会とでも託けないと、出せなかったんだと思う……」
そして一人だけ出すわけにもいかず、嫌々ながらも遊戯にも送ったのだろう。
ポツリと呟いたモクバの言葉は、城之内には良く聞き取れなかった。
「え?なんか言ったか、モクバ?」
モグモグと栗きんとんを頬張りながら、モクバの方を振り向く。
モクバは首を振って何でも無いと言うと、また雑煮のお椀を持って食べ始めた。
こんなに賑やかで楽しい正月は久しぶりだった。
家族でもないのに、一緒にいて温かいと感じる不思議な空間。
こんな時間がずっと続けばいいなと思い、それは無理だと頭を振る。
外では未だに白熱したバトルが繰り広げられている。
自分たちのいるこの部屋に二人が帰ってきた時、果たして顔に2箇所墨を塗られているのはどちらなのか。
遊戯が負けても海馬が負けても。
自分が笑ってしまうのには、変わりないだろう。
「なぁなぁ、城之内!コレ食べ終わったら、4人でカルタでもしようぜぃ!」
「お!いいねぇ!じゃ、それが終わったら凧揚げでもすっか!?」
「うん!」
無邪気にはしゃぐモクバとじゃれ合っていると、縁側の襖が開いた。
どうやらやっと決着が付いたらしい。
顔に2箇所の墨が塗られていたのは――――――
……。
それから日が暮れるまで、海馬邸には正月遊びに夢中になっている高校生と小学生がいましたとさ。
【おしまい】
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