犬も食わない
オレの名前は、海馬モクバ。
海馬コーポレーションの副社長だ。
社長はもちろん、オレの兄サマだぜ!
兄サマは、海馬の養子になってからなぜかオレに冷たくなった。すごく悲しかった。
でも、遊戯とデュエルして負けてから・・・そう、心のパズルを組み立ててからは、昔のように優しい兄サマになったんだ。
だから遊戯には感謝してる。
それからもう一人、兄サマを変えた奴がいる。
遊戯の時とは違う優しさを兄サマにくれたんだ。前よりも家に帰ってくるようになったし、食事も一緒に摂ってくれるようになった。オレと過ごしてくれる時間も、増えた。
今そいつは、オレ達の屋敷に住んでいる。ちょっと前までは、「絶対に来ねぇからな!」なーんて言ってたんだけど。オレが、ほんの少ーし協力したおかげで、兄サマのプロポーズ(言ってて恥ずかしい)を、OKしたらしい。・・・単純だよなぁ。
ま、そんなところがあいつらしいと言うか、あいつの長所というか短所というか・・・。
・・・で、今オレの目の前にいる男がそうだ。
兄サマが忙しくてかまってもらえなかったり喧嘩したりすると、必ずオレのところにやって来て愚痴を聞かされるんだ。・・・どうせ、1日経てばまた仲直りするんだろうに・・・。毎回毎回、聞いてるこっちが疲れるよ。
こういうの、なんて言ったっけ。確か諺にあったような・・・。
「おい、モクバ!ちゃんと聞いてるか!?」
・・・そんな大きな声ださなくったって、ちゃんと聞いてるさ。
「聞いてるよ、城之内。それで?今回はどうしたの。」
「おおっ!聞いてくれるか、モクバ!」
・・・自分で聞いてくれって言ったんじゃないか・・・。
「海馬の奴がよー、」
「城之内、海馬じゃなくて、瀬人だってば。」
城之内の奴、何で未だに兄サマのこと名前で呼べないんだ!?
「ばっ!そ、そんな恥ずかしいこと・・・。そ、それよりなぁ!」
・・・あ、逃げたな。まあいいや。続きを聞いてやろう。
「うん、それで?」
「海馬の奴がオレに、携帯買ってやるから持っていろって言いやがったんだぜ!」
「・・・それのどこが喧嘩の原因になるんだよ・・・。」
それって兄サマなりの優しさじゃないのかなぁ・・・。城之内は、中学の頃つるんでたとかいう不良に未だに絡まれてるらしいし、何故かよく拉致されたり人質に取られたりするし・・・。何かが起こってからじゃ遅いからだと思うけど。携帯を持っておけば今どこにいるのか把握できるし、兄サマとだって連絡が取れるじゃないか。
それを、なんで・・・?
「オレはなぁ!その言い方が気に入らねぇんだよ!すげぇ嫌な言い方だと思わねぇか!?」
「・・・どこが。」
「買ってやる、持っていろ。これのどこにオレの意志が有るんだよ!?自分のものくらい自分で買うし、必要ないと思うから今まで携帯は持ってなかっただけだ。それを、あいつは・・・。あ゛ーーっ!思い出しただけでも腹が立つ!!もうこなったら・・・!」
「こうなったら・・・?」
なにやら城之内が考えついたらしい。一体今度は何なんだ。
「こんな家、出てってやる!!」
「なんだってぇーっ!!!?」
何を言い出すかと思えば!そんなことしたら、兄サマが悲しむだろー!
・・・オレだって、城之内が家にいてくれるのは嬉しいのに・・・。
「つーことで、モクバ。海馬によろしく伝えといてくれ。」
「い、言えるかよ!そんなこと!」
オレが慌てて引き留めようとしても、城之内は自分の部屋へ戻ってしまった。
あまりのことに少し呆けていたオレだったけど、すぐに城之内の後を追って部屋に向かった。
ドアをノックもせずに開けると、城之内はもう荷造りを始めていた。
城之内、本気なんだ。本当に出て行っちゃうのか・・・?
オレは、その光景を見てたらだんだん悲しくなってきた。じわり、と目頭が熱くなるのを感じる。
そうだ!城之内を止めることができるは、兄サマしかいない!オレがこれだけ嫌なんだ、絶対兄サマだって城之内に出ていって欲しくないはずだ!
そう思うと、おもむろにポケットから携帯を取り出して、短縮の1番にダイヤルした。
電話に出た兄サマに事の成り行きを説明すると、今すぐ帰ると言ってプツリと回線が切られた。
オレに残された仕事は、兄サマが帰ってくるまで城之内を引き留めておくこと。
外に出られたら、そう簡単には捜索出来ないからな。(デュエルディスクでも装着してたら解るけど)
「兄サマ、すぐに帰って来るって。愛されてるじゃん、城之内。」
にっこり笑ってそう言うと、目を丸くした城之内が口をぱくぱくしてこっちを見ている。・・・鯉みたいに。
「か、会社は・・・っ。」
解ってないなぁ、城之内。会社は逃げないけど、おまえは逃げるだろ?
「会社か城之内か、って聞かれたら・・・きっと兄サマはおまえを取ると思うぜ。・・・今、ここに向かっているのがその証拠だろ。本当なら、この時間は取引先との会議なんだぜ。それをすっぽかしてまで、ここに来る理由は何だと思う?」
「・・・・・・っ!」
城之内の手が止まった。顔は、俯いたから解らない。
よし!もう一踏ん張りだ。
と、その時。
バリバリバリ、と、ヘリコプターの音が聞こえてきた。
「兄サマだ!兄サマが帰ってきた!」
さすが兄サマ。電話を切ってから5分も経ってないぜ!
その音に城之内は弾かれたように顔を上げ、少し視線を彷徨わせた後、オレの背後・・・つまり、ドアの方に目を向けた。
そして・・・。
バンッッ!!!!
勢いよくドアが開かれた。
兄サマだ。
普段はゆっくりと歩いてくるのに、今日は走ってきたらしい。息が少し乱れている。
そうして部屋に一歩踏み入れた場所から城之内を見つめて、呼吸を整えていた。
さて、オレの役目も終わったな。
ここは早々に立ち去った方が良さそうだ。オレがいると、兄サマはともかく城之内が意地を張りそうだし。
オレとしても、二人には早く仲直りをしてもらいたいしね。
「じゃあオレは会社に行って来るぜぃ!」
兄サマの代わりに、今日はオレが取り仕切らなきゃ!
「ああ。すまない、モクバ・・・。」
「そんな謝らなくてもいいんだ。それより、ちゃんと仲直りしてくれよな!城之内も、意地張るなよっ!」
そう言って、赤くなる城之内と苦微笑する兄サマをちらっと見た後、オレは会社へと向かった。
― 数日後 ―
城之内の手に、兄サマと同じ型の携帯が握られてたのは言うまでもない。
・・・はぁ〜。やれやれ・・・。おしまい。
| モクバくんから見た海城の二人、ということで。(笑) 恋人達の喧嘩なんていうのは、端から見れば痴話喧嘩にしか見えませんよねぇ…。(時と場合によるが) あれだけ派手に喧嘩しておいて、すぐに仲直りなんてされた日にゃ、真剣に相談に乗ったのが馬鹿げてくるというか呆れ返るというか…。(^^;) ちなみに、これの後日談を裏メニューに載せる予定。 後日談と言うより、どうやって仲直りしたか…っていう話ですが。 …まあ、裏ですのでそれなりに…。(微笑) |
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