ゆず湯



「ほい、これ」
「…?なんだ、これは」
「何って、かぼちゃプリン」
「…だから、なんでそれをオレに寄こす」
「だって今日、冬至だぜ?」

そう言って城之内は小さく笑った。

その日、海馬瀬人が帰ってきたのは、時計の針が後ひと周りすれば次の日付になるという時刻であった。
クリスマスと年末年始商戦を控えた今の時期は、一年でもっとも忙しい。
そのため、いつもより帰りは遅くなる。
昨日までは寝て待っていたのに(寝ているので“待っている”とは言えないかも知れないが)、今日に限って起きていた城之内に少なからず驚いていた矢先、手に乗せられたプリン。
訳が分からず聞いてみた答えがさっきの言葉で。

「お前今日さ、かぼちゃ食べてないだろ」
「…何故そんなことが解る」

逐一自分の食事内容など報告してはいないのだが?
…とでも言っているような、眉間にしわの寄った海馬の顔。
そんな反応を楽しんでいるかのように、くくく…と笑う城之内。

「だってお前、普段からあんまし野菜食ってねぇし。今日に限って食うような事、しねぇだろうな〜って思ってさ」
「フン、冬至だからと言って、かぼちゃを食べなければならないなど…」
非ィ科学的だ、と言おうとしたのだが。
「…なんだよ、人がせっかくお前のためにと思って作って待ってたっていうのによ…」
少し俯いてボソリとつぶやいた城之内の声に、海馬はあっさりとK.O.されたのだった。


「………」
「…………」
カシャン。
空っぽになった陶器のカップと使い終わったスプーンがトレイの上に置かれる。
場所は先ほどと変わって、ベッド近くの丸テーブル。
(K.O.されても、さすがにプリンを立食するつもりはなかったらしい)
食べている間、何の言葉も発しない海馬に、城之内は『海馬の口には合わなかったのかも…』と、不安になっていた。
だが。
「…美味かった」
そう言われただけで嬉しくなったのに、そこに普段滅多にお目にかかれない優しい微笑みまで向けられてしまっては、真っ赤になる上動けなくなるのも至極同然というもの。
「あ…う……う…」
そんな状態の城之内を見て愉快そうにクツクツと笑う海馬は、もしや確信犯ではなかろうか。
「何をどもっている。…ほら、食器を片づけないといけないのではないか?」
そう言って次ぎ動作を促してやるのも、思考の止まった城之内にとってはありがたいことではあったのだが。
「お、おう!じゃあ、片づけてきちまうぜ」
火照る顔に照れ隠しの笑みを浮かべて、トレイを取って立ち上がりドアへと歩みを進める。
城之内が横を通り過ぎた時、ふと揺れた空気に。
わずかながらに香ったそれは。
あまりにも彼に似合っていたので、思わず口元がほころんでしまった。

毎年冬至など関係なく過ごしてきた海馬邸である。
使用人が用意していたとは考えにくい。
では、一体誰が。
…なんて、問うたところで一人しかいないのは明らかだった。

「城之内」
「んー?」
食器を片づけ終わった城之内が部屋に帰ってきた。
さっきと同じように対面に座ろうとしているのを引き留め、同じ位置に立つ。
そうして予告も無しに抱きつくと、「いきなり抱きつくんじゃねぇ!心臓に悪いっつってんだろ、いつも!!」などと言ってくるが本気で嫌がっているわけではないので、それもすぐに止んだ。
しばらく経って、海馬が口を開く。どうやらそれの香りは堪能したようだ。

「…香りがするな」
「え?柚子の?」
「ああ」
「よく解るなー、お前。自分じゃ気づかなかったぜ」

そう言って自分の腕を鼻に近づけてくんくんと匂いを嗅いでいる。
それでも自分では解らなかったらしく、首を傾げていたが。

「柚子はお前が用意したのか」
「あー、うん。団地の敷地内さ、柚子の木が植えてあってよ。誰の、ってわけじゃないから、この時期になるとみんなで分けるんだ」
「そうか」
「でさ、せっかくだから一人で入るのももったいないと思って持ってきてみたんだ」
「そうか…」

……ん?
今、一人で入るのがもったいないと言ったな?
オレと入るつもりだったのか?
いや、しかし城之内はもう入浴済みだ。
……と、いうことは……。

「城之内」
「んー?」
「ゆず湯は一人で入ったのか」
「あ?まさか。さっき一人で入るのがもったいなから、ココに持ってきたって言ったじゃねーか。モクバと入ったぜ?」
「………」
「アイツ、ゆず湯入ったこと無いってつってはしゃいでたぞ。…ああいうところは年相応にカワイイのな」

腕の中で思い出し笑いをしている城之内には、海馬の受けたダメージなど知る由もなく。
…知っていたならば、次の海馬の行動から逃れることも出来ただろうに…。

「城之内」
「んー?……っぃて!ちょ、海馬っ、痛いって…っ」

ぎゅっと抱きしめている腕に力が入る。
あのジュラルミンケースを振り回している腕力で締め付けられるのだ。
結構どころかかなり痛い。
さっきまで普通に会話していたというのに、一体何のスイッチを押してしまったのか、城之内にはさっぱり訳が分からなかった。

「…今までモクバと入浴したことは?」
「は?(な、何言ってんだコイツ!?)…んなの、いちいち数えてられっかよ」
「ほう…数え切れないくらいあるのだな?」
「だ、だから一体なに…」
「何故だ!?」
「…は?」
「何故モクバとは入浴しているにも関わらず、オレとは一度もしないんだッ!!」

…………。
えーっと、これはつまり…。
もしかしなくても、妬いてたりするのか…?

「…あ、あのさ。モクバって結構寂しがり屋だよな?」
「………」
「でもお前に心配かけたくなくて、それを表に出さまいとしててさ」
「………」
「本当はお前に甘えたいんだろうけど、それが出来ないからオレに甘えてくるんだと思うんだ」
「……ああ」
「だからモクバと一緒に風呂にはいるのは、兄貴としてっつーか…、か・・家族としてっつーか…。と、とくかくな、スキンシップの一環なんだよ!解ったか!」
「……ああ」

腕の力がゆるんで、ホッとしたのもつかの間。
今度は首筋に顔を埋めてきたものだから、思わずギョッとして体が無意識に反応してしまう。
だが予想していた事は起こらなかった。

「……ならば」
「え?」
「オレも寂しいと言ったら、オレと入浴するのだな?」
「……あ、の?」

…その代わり、城之内は自分の耳を疑う事態に陥ることとなる。

「………寂しい…」

今まで聞いたこともないような弱気な声で。

「……オレ以外に、お前の全てを見せないでくれ」

そんな声で懇願されたら。

「それがたとえ自分の弟だろうと……許せないくらい、」

たぶんきっと。

「お前が好きなんだ。……克也」

トドメの一発で、城之内の膝はぐずれ落ちた。
ずるずると落ちていき、抱きしめられた時に掴んでいた海馬のシャツからも手は落ちて、今は床に付いているため辛うじて上半身は倒れずに踏みとどまっている状態である。
所謂、『腰が砕けた』という症状。
顔は真っ赤だし体は震えているし目はバッチリ潤んでいるし。
心臓だって、自分で解るくらい大きな音でドクドクとなっているし。
どこをどう見ても、さっきの言葉でノックアウトされたのは明かである。
それがまた城之内には悔しくて、ことさら涙を浮かべることになってしまうのだが。

「し…信じ、らんねー…っ!」

あんな事言われたら、オレどうしようもねーじゃねぇかよっ!!
(実際、腰が砕けて動けません)

「ほう?オレの言葉が信じられないと言うのか」

心外だなという風に溜息をついて、城之内と同じ目線になるよう立て膝を付く。
そうして俯いている彼の顔をクイッと片手で上げさせると、目線を逸らされた。

「そーゆー意味じゃねぇよ!…解ってて言ってんだろ。この根性ワルっ!」
「…その根性悪を好きになったのは、どこの誰だ?」
「っ!」

海馬が意地の悪い笑みを浮かべて、そう問うと。
観念したかのように、「う〜〜」と低い唸りを上げて。

「……ホント、なんでこんな根性悪好きになっちまったんだろーなー?」

我が儘で強引で独占欲は人一倍。
最初はそれで嫌いだったのに、今ではそんなとこが時折カワイイ…なんて思ってしまう辺り、自分も相当重症なのではないだろうか。

「仕方ねぇなぁ…。じゃ、これからはお前とも一緒に入ってやるよ」


それから城之内が、二度目のゆず湯を堪能したのは言うまでもない。



おしまい。

********************************

★おまけ★を読む?
(下ネタ注意報発令中につき、16歳未満及び苦手な方はご遠慮下さい)


あとがき。

ゆず湯好きです。やっぱ冬至はこれがなくちゃネ。
ていうか、ゆず自体好きだし。(笑)
かぼちゃも、まあまあ好き。
海城かかれば冬至もこの有様じゃ!あははー。やっぱ甘いねぇ。
書きたかったのは、モクバくんに嫉妬する社長と、寂しいと城之内くんに訴える社長、そしておまけの下ネタでした。(爆)


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★おまけ★

二人でゆず湯に浸かりながら。
ふと思ったことがあったので聞いてみることにした。

「そういえば、何故かぼちゃプリンだったんだ?普通、冬至のかぼちゃといえば煮物だろう」
「あー、だってさ。お前帰ってくるの遅いだろうし、煮物だけ食えって言われても食えないだろうと思って」
「……まあ、確かに」
「だろ?あれはご飯がないと。おかずなわけだし」
「…で?」
「ああ、うん。それで、だったらデザート系がいいかな〜って思ったんだ。ほら、かぼちゃって結構甘いし。一番最初に思いついたのはパンプキンパイだったんだけどよ、それだと重すぎて胃がもたれるだろ」
「…そうだな」
「で、そういやコンビニのプリンにかぼちゃプリンってあったなって思い出してさ。プリンだったら軽いから夜遅く食べても平気だろうと思って…」

そこまで自分のことを考えて作ってくれていたとは。
時々、こちらで気が付くのが遅れるくらい、細かいところに気を遣っていることがあるのだ、城之内は。

「あ、でもあれはコンビニプリンじゃないからな!ちゃんとシェフさんに教えてもらって作ったんだぜ!」
「そんなのは、食べてすぐ解った」
「そ、そう…?」
「だから美味いと言っただろう」
「う、うん。…でも良かった〜、お前に美味しいって言ってもらえて!」
「何故だ。お前がオレのために作ってくれたものを、不味いと思うわけなかろう?」
「…う!!(赤面)…そ、そうじゃなくて。もしかぼちゃが嫌いだったら食べてもらえないだろうと思ってたから…」
「別に好き嫌いは無いから安心しろ」
「え?…じゃあ好きな食べ物とかも、無いのか?」

心底意外そうに、城之内は聞き返してしまった。
もしあるなら、今後の参考にしようと思ったのに…。
なんて、柄にもなく思ってしまったりして。
だってやっぱり、喜んでもらうなら好きなものを食べさせたいじゃん?
そんな幸せな思考に思いを巡らせていたから、海馬の見せた一瞬のいたずらな笑みに気が付かなかった。

「好きな食べ物か…無いことはない」
「え!マジ?…で、何が好きなんだ?海馬」
「城之内克也」
「………へ?」
「だから、お前だ」
「……お、オレは食い物じゃねぇだろ!」
「オレにとってはそうだが」
「んなっ!?」
「“オカズ”にもなるし、“デザート”にもなるし…な?」
「お…お…おか…オカズってお前…っ!」
「ああ、今日のメインディッシュはもちろん頂くぞ?さぞかし良い香りがするのだろうな…なにせ柚子を使った季節料理らしい」

クックック…と楽しげな笑みを漏らす恋人に、

「ふざけんなーっ!!」

側に浮いていた柚子を、力一杯投げつけてやった。



今度こそおしまい!

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