... Fairy tale ...
その花を見つけたのは、偶然。
休日に屋敷で片付けていた仕事が一段落し、気が向いたので邸内を散歩していただけのこと。
いつもは足を向けることの無い裏庭に、ひっそりと咲いていたその花は。
珍しい、薄黄色のコスモスだった。
こんなことは初めてだった。
気づけば、その花を手折って部屋へ持ち帰っていた。
至急、一輪挿しの花瓶を持ってくるよう、内線でメイドに指示をする。
部屋に行く途中に会ったモクバは、手の中にあるこの花と自分の顔を交互に見上げ、驚いた表情をしていた。
が、すぐに笑顔になって「兄サマ、その花 気に入ったんだ?」と嬉しそうに言った。
自分でもよく解らないまま摘んできてしまったので、それを気に入っているかどうかなど思いもしなかったが。
言われてみれば、そうかもしれない。
メイドが用意した一輪挿しは、ガラス製のものだった。
水を入れる下の方から青い色がついており、上に向かって無色のグラデーションになっている。
ちょうど、水を入れると良い位置まで色がついている。
あらかじめ水も入れてくるよう指示をしていたので、そのままその一輪挿しへ花を挿す。
コスモスは茎が細いため花がもたげるかと思ったが、そうでもないらしい。
「フン…」
それをデスクの右上に置き、残りの仕事を片付けようと書類に手を伸ばした、その時。
ポンッ☆
…という間抜けな音がしたかと思うと、先ほど置いた花瓶の上から声がした。
『うわぁ!?どこだよ、ココ!!』
それは所謂、“妖精”の格好をした何かが花の上に浮いていたのだった。
妖精…それは昔施設にいた頃、モクバに読んでやった絵本に出てきた仮想のキャラクターだ。
人間の手のひらほどの身長しかなく、背中にはトンボや蝶のような羽が生えている。
人語を話すのかさえ怪しいというのに、先ほどこいつが喋った言葉は理解できた。
いや待て。これが妖精だというのか?そもそも妖精など人が作り上げた偶像ではなかったのか。
妖精など、非ィ科学的だ!!存在するはずも無い!!
そう思い、もう一度花の方を凝視する。
…が、やはり前と同じ。
羽の生えた小さな人間の姿をしたなにかが見えていただけだった。
その時、苦虫をつぶしたような顔になったソレがつぶやいた。
『…仲間がまた一人消えちまった…』
(仲間…だと?もしや他にも屋敷内にいるのか?この未確認物体が?)
『つーか、ホントにココどこだよ〜!さっきまで花畑にいたのにー!』
「…ここはオレの部屋だが」
通じるかどうかも解らないというのに、気づいたら言葉を発していた。
言った後で舌打ちをする。
(チッ!何故だ。今日に限って何故こんな不可解な言動をするのだ、俺は!)
未確認物体が、今度は驚いた顔で自分を見上げている。
おまけに口をぽかんと開けて。
『お、お前…ッ!オレが見えるのか!?』
トンボのような羽をはばたかせながら顔の位置まで飛んできて、鼻や頬をペタペタと嬉しそうに触っている。
海馬はというと、あまりに近くに来られたため目の焦点が合わず、何をしているのかが触感だけでかろうじて解ったくらいだ。
「えぇい鬱陶しい!!離れんかっ!!」
ベリッと。
ソレがいるであろう位置に手を持ってきて鷲掴みにし、思いっきり放り投げた。
『ぎゃあぁーーー!!?』
ソレはくるくると回りながら放物線を描いて壁に激突する……前に羽を動かし、なんとか体勢を立て直した。
『何すんだー!あぶねぇだろうが!!』
威勢は良いが、回っていた分フラフラでヨロヨロである。
ゼイゼイと息を切らしながらも、海馬の元へ戻って来る。
それを横目に見ながら、今度こそ仕事を再開しようと書類に手を伸ばす。
……だが。
『なーなー、お前何やってんの?』
『あのさ、あのさ!オレ、人間に見つけてもらうの初めてなんだ!』
『あ、そういや自己紹介まだだったよな!オレはジョーノってんだ。よろしくな☆』
『あんたの名前も教えてくれよ。話できねぇじゃん』
『なーなー、オレ腹減ったー』
ブチッ。
「少しは静かに出来んのか貴様ぁ!!」
『うわぁ!?な、何怒ってんだよぉ…怖ぇなぁ…』
ジョーノと名乗った未確認物体には、海馬が怒った意味が解っていないらしい。
仕方が無いので、解るように説明してやる。
これ以上煩くされては、終わるものも終わらなくなってしまうだろう。
「…オレはまだ仕事が残っている。これが終わらなければ、お前の相手などしている時間は無い」
海馬にとっては格別の対応であった。
理解できぬものなど無視するに限ると思っている海馬が、わざわざ説明をしたのだから。
しかし、それも気づいたら言葉を発していた自分に、また驚いた。
『しごと?しごとって何だ?その白いぺらぺらのを移動させれば良いのか?』
どうやらこの未確認物体には、仕事という概念は無いらしい。
しかも手伝う気満々らしく、書類の上に飛んできて、紙を持ち上げようとしている。
…が、あんな小さな物体が、A4の書類一枚さえ持ち上げることなど出来るはずも無く。
ゼーハーと肩で息をしながら、
『なんだよこれー!すっげぇ重いじゃねぇか!』
などと言う始末。
「誰も貴様に手伝ってもらおうなどとは思っておらん」
だから終わるまで静かに待っていろ。と、ため息交じりでそう言うと。
「…おう!」
ソレは咲き誇ったあの花のような顔をして、笑ったのだった。
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つ、続いちゃった…。
連載のドック・スターが終わってないのに、また続き物出してどうする!って感じですがー…。
こっちは終わりまで決まってますので、そんなお待たせせずにお届けできるかと。
パラレルとはいえ、コレはどうなんでしょう。
城之内君の妖精姿は皆様に受け入れられるのか、ものすごく不安…。(汗)
2002.10.24
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