記 念 日


「………?」
夜明け前に、ふと目が覚めた。
そして、やけに肩口が温かい訳を知る。


昨日は、久しぶりに城之内と眠ったのだ。
ここしばらく開発で多忙を極め、ほとんど会社に寝泊りしていた。
漸く目処が立ったので、屋敷に帰ってみれば。
いないと思っていた人物が、満面の笑みで自分の帰りを迎えてくれたのだった。


互いの温もりを求め合った後は、いつも一緒のベッドで眠りにつくが、城之内が引っ付いてくることはない。
着かず離れずといった風な、体温は感じるが体をつける距離ほどではない、微妙な位置に陣取って眠るのだ。
それが。
今の状態といえば。
まさに、腕枕。
寝ているうちに、自分は少し腕を伸ばしていたらしい。
そこに、城之内が擦り寄ってきたのだろうか。
滅多にない場面だけに、思わず緩む口元。
それを気にすることもなく、城之内の寝顔を見ようと、仰向けの状態から体を右にひねる。
「…ぅ…ん…」
振動が伝わったのか、城之内が身動ぎをする。
(起こしてしまったか…?)
まだ起床するには早すぎる時間だ。
そもそも城之内の眠りを邪魔するつもりはない。
いったん動きを止め、城之内の様子を伺う。
すると、すぐに規則正しい寝息が聞こえてきて、安心する。
しかし先ほどの身動ぎで、益々顔を胸にうずめてしまったため、お目当ての寝顔を見ることは叶わない。
その代わり、同じシャンプーの香りがする髪が唇をくすぐり、頬の柔らかい体温を腕に感じる。
肌を合わせる時とはまた違った、ゆっくりと満たされていくような、この温もりが気持ち良い。
城之内が寝る前に少しだけ開けた遮光カーテンの隙間から、漸く昇り始めた朝日が部屋に差し込んでくる。
城之内曰く、自分の寝起きが悪いのは朝日を浴びないからだというのだ。
体が覚醒するには朝日が必要で、それなのに遮光カーテンでそれを遮っているから自然と目が覚めないと。
それからというもの、こうして城之内が泊まる時は必ず、寝る前にカーテンの合わせを10cmほど開けておく。
その所為かどうかは解らないが、城之内が泊まった日の朝は目覚めが良い。
…まぁ、理由は違うところにあると思うのだが、それを言うと真っ赤になって照れて拗ねてしばらく泊まって行かなくなると思うので、朝日のおかげにしている。


朝日が昇り始めたということは、だいたい今は5時前だろうか。
まだ覚醒しきっていない脳でぼんやりとそう思うと、そういえば城之内が、携帯電話の目覚まし機能をセットしていたことを思い出す。
ベッドサイドに時計はあるのだが、ベルの音で目覚めるのはあまり気分がいいものではないという、よく解らない理由により、城之内お気に入りの着メロで設定されたソレ。
まるで自分のもののように扱う城之内に少し呆れはしたが、城之内が気分良く起きて、そして自分を起こしてくれるならそれでいいと思い、特に何も言わなかったのだが。
今日はその役目を休んでもらうとしようか。
城之内を起こさないように、慎重に体をひねりながら左手を後ろの方へ回す。
今、自分の頭の後ろの枕元にあるであろう携帯電話を手探りだけで見つけるのは、多少難しいが…。
何度かシーツを叩くと、硬いものに手が当たった。
迷わずそれを拾い上げ、目の前に持ってくる。
幸い、ボタン操作の音も消音にしてるから、それで城之内を起こすこともない。
二つ折りのそれを左手で器用に開け、時間を確認する。
4時54分。
目覚しは確か6時だったはず。
何も休日に、こんな早く起きなくてもいいものを…。
今はもう新聞配達もしていないし、特に朝早いシフトのバイトも入れていないというのに。
いつも通りに起きないと、体内時計のリズムが狂うとかなんとか言ってくる城之内が容易く想像できて、思わず笑ってしまう。
(今日くらいは、遅く起きてもいいだろう?)
久しぶりの休日だ。
たとえ昼近くに起きたとしても、午後も夜も一緒に居られるのだから。
カチ・カチ・と、ボタンを押す小さな音だけを出して、城之内がセットした目覚ましを解除した。
再び携帯電話を折りたたみ、左手を後ろに回して、元あった(と思われる)位置にそれを落とす。

これで邪魔者は居なくなった。
思う存分、この温もりを抱いて眠れる。
未だにその位置から動いていない城之内を、そっと抱き込むように体を移動させて。
腕にかかる程よい重みと温もりを心地よく感じながら、また眠ろうと瞼を下ろした。




次に起きた時、既に城之内は着替えが済んでいて、カーテンは全開に開けられていた。
「…お前、ホント俺が起こさないと起きないんだな」
そう言って城之内は、少し嬉しいそうに笑っていた。
どうやら目覚ましは、セットし忘れたと思ったらしい。
そして。
あの姿を見られたとは思いもしないのだろう。
「…そうだな」
だから。
「毎朝起こしてくれると、ありがたいんだがな?」
「なっ…//// そ、そこまで面倒みきれるかよっ…!(真っ赤)」

そんな、いつも通りのようで新しい発見のあった日は。
記念すべき、プロポーズの日となりました。

*END*

(C)『SWEET HONEY』by.Kaho Nanami 2003


■あとがき
ふとした瞬間に湧き上がったこのネタ。
七海の実体験だったり。(苦笑)
ええ、私が腕枕したのはダーリンでもハニーでもなく、ですが。
人間相手だったらこんな感じかなと。
それを海城変換するところがまたアレですがね。(笑)
今回始めてチャレンジした社長の一人称ですが、なんだか三人称っぽくもあります。…社長の一人称は難しい…。
ていうか最後がプロポーズになるなんて自分でも考えていなかったからびっくり。
プロポーズネタはこれで2度目だよ…。あんたも好きねぇv(笑)
相変わらず私の書く海城は、出来上がっててラブラブで安定期(?)な感じです。
うん、だって幸せな二人が好きですから!
今回はモクバ君も出てこない、本当に海馬と城之内だけの海城物語です!珍しい。(笑)
***
サイト開設3周年記念のフリー配布SS(現在は持ち帰り不可)でした。


写真素材:MIYUKI PHOTO




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