ひなたぼっこ


「うわ、珍し〜!」
 よく晴れた日曜の昼下がりの海馬邸に。
 新聞配達の次に入れていたコンビニのバイトが終わり、その次のファミレスのバイトまで時間が空いていたので、立ち寄ってみたら。
「・・・・・・何がだ」
 いつも忙しい恋人が、広い庭の日当たりのいい場所でひなたぼっこなぞをしていた。
 いや、正確にはその膝にはノートパソコンが乗っているので、仕事をしているのかもしれない。
 それにしても、海馬が芝生に直に座っていること自体が珍しいのである。
 ・・・ひなたぼっこにも無縁そうではあるが。
「何がって、お前が庭に出てること」
「ここはオレの屋敷だ。庭に出ることくらいある」
「え〜?そうか?俺が知ってる限り、庭に出てるの見たこと無いぜ」
「・・・いつもお前が来るのは、夜だからな」
 そう言ってニヤリと笑うと、城之内はたちまち赤くなって反論する。
「そ、それはそうかもしんないけど!けど今日は次のバイトまで空き時間が出来たから、わざわざ来てやったの!」
 ありがたく思いやがれ!と照れ隠しに怒鳴ると、城之内は海馬の隣に腰を下ろした。
「でもマジで珍しいぜ?なんで外で仕事してんの?」
 そうなのである。デスクワークなら部屋の中で事足りる。
 それをわざわざ外に持ってきてる事が不可解だ。
 城之内がそう聞くと、海馬はキーボードを打っていた手を止め、少し溜息をつくと、
「・・・モクバだ」
 と、一言つぶやいた。
「モクバが、今日は天気がいいからひなたぼっこしようと言ったのでな」
「優しい兄サマは、それに付き合ったってわけね・・・」
 苦笑して、言い出した張本人が居ないことに気づいた。
「あれ?でもモクバいないじゃん」
「・・・ああ。しばらくここに居たんだが、友達から電話がかかってきてな。一緒に遊ぶといって、出かけて行った」
「ふーん?」
 じゃあなんで今もここにいるわけ?・・・という質問を言いかけて、止めた。
 そう言ったらこの男のことだ、さっさと部屋に戻ってしまうだろう。
 恐らくは、最初は嫌々ながらでも、今はこの心地よい日差しの暖かさが気に入っているのだろう。
 華奢なようで意外に広いその背中に、目一杯小春日和の日を浴びて。
 相変わらず、城之内には訳の解らない文章やグラフに目を通している海馬。
「よっと・・・」
 海馬の隣の位置から移動して、その背中にもたれるようにして座りなおした。
「・・・重いぞ」
 その行為に少し眉をひそめながら、海馬は後ろを振り向いて抗議する。
「いーじゃん、こっちの方がお日様いっぱい浴びれるし。あ、お前にもちゃんと日が当たるようにはしてやるから。気にすんなって!」
 そう言ってにっこりと笑顔を向けられてしまうと、何も言えなくなってしまう。
 海馬が気にしているのはそういうことではないのだが、特に仕事に支障が出るわけでも無いので、放っておくことにした。
 
 

 カタカタと、キーボードを叩く音。微風が奏でる葉のざわめき。
 ぽっかぽかの日差しを浴びて、城之内はだんだんと迫り来る眠気に逆らうことが出来ずに、そのまぶたを閉じようとしていた。
 その中で、ぼんやりと思う。
 海馬とこういう関係になる前は、コイツの背中はやけに遠くて冷たくて。何もかもを拒絶していたように張り詰めていた。
 実際、今でもそういう時がある。(それは自分やモクバに対してではなく、違う人間なのだが。)
 いつだったか、背後に立たれると否応なしに攻撃するとか言ってたっけ・・・。
 だけど今は。
 こうやって背中に身を預けても、何も言わない。
 むしろ気にせず仕事をしてくれている。
(それってさ、特別ってことだよな・・・?)
 好きな人の特別になれることほど、嬉しいことは無い。
 こんな些細なことでも、海馬の中に自分が居ることが証明されている事が解ったから。
(あ〜。なんか、幸せかも〜・・・)
 暖かいお日様の日差しを浴びて、体はぽかぽかで。
 海馬の背中から伝わる温もりで、心もぽかぽかで。
 知らず知らずに、笑みがこぼれる。
(もっともっと、お前の中のオレが増えるといいなぁ・・・)
 まるで猫が主人に擦り寄るかのように、城之内は寝入る前に、海馬の背中に頬を摺り寄せていた。
(海馬・・・大好き・・・)
 そんな事を思いながら。



 しばらくして、背中から規則正しい息が聞こえるようになった。
 どうやら、城之内は寝てしまったらしい。
「・・・・・・」
 キーボードを操っていた手を止めて、起こさないように静かに振り向く。
 ここからだと、その寝顔は髪の毛に隠れてしまって見えないが、どんな表情をしているかぐらいは想像がつく。
 きっと、笑いながら寝ているに違いない。
 寝しなにつぶやいた言葉が、普段は滅多に聞くことが出来ないものだったから。
「・・・出来れば、起きているときに聞きたいものだな・・・」
 そう言いながらも、海馬の顔にも微笑が浮かんでいた。




 なあ、海馬。
 そうやって、お前がオレに見せてくれる特別を知る度に、もっともっとお前を好きになってるなんて、知らないだろ?

【END】




■あとがき
これは個人的にお世話になった、『Something Blue』のみけ様に贈ったSSです。
みけ様のリクエストは、社長に惚れ直す城之内君だったのですが…結構難しかったです。(^-^;)
ですが、贈ったご本人に気に入っていただけて、何よりでした!(ホッ)
一緒に贈ったイラストもすごく喜んでもらえたみたいで、なんとサイトのTOPに飾っていただきました。絵描き冥利に尽きます!!
遅れに遅れた御礼だったのにもかかわらず…。(汗)


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