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ぶらり 明神ケ岳



平野 正 (遠州屋薬局)

EM t-hirano@gray.plala.or.jp



大涌谷


9月に入りはっきりしない天気が続いていた。22日(土)から大陸の高気圧に覆われたせいか、寒くなり空気の澄んだ晴天に恵まれた。

8月に金峰山でへばってしまった女房は、週末の天気がはっきりしなかったせいもあったろうが、何処へ行こうとも言わなかったのだが、ここのところの秋晴れに、ハイキングの虫が目をさましたようだ。
近場できれいな所と言うと箱根の一部になる。

3年前の7月初めは、その前二ヶ月間山に行かず、冷房の中にいて暑さに体を慣れさせていなかった。猛暑のなか歩く時間が短いとの理由で明神ヶ岳に行ったが予想外に勾配がきつく体重を支える太ももが攣ってしまって行程半ばひきかえしたことがある。今回あらためて行くことにした。

明神はその年の秋、曇天の中、登るだけはリベンジしたが霧で3m先が見えなかった。しかし道端には色々の山野草があり目を楽しませてくれた。


箱根へは千代田線経由小田急で行っていたが、JRの方が早いことが解った。広重の東海道五十三次が脳に刷り込まれているのか、途中で見える海と富士に旅に出た、と興奮を憶える。

さて22日の夜、良い気持ちで寝ていたのだが、足が寒く目を覚まし、伸びをしたらふくらはぎを攣ってしまった。
起きる時間に近かったので今日も一昨年の二の舞いになるのかと心配しながら布団から出た。身の締まる冷え込みだった。

車窓から相模湾を望む
長袖の下着に長袖のシャツという10月の服装で家を出た。
雲ひとつ無い晴天で、茅ヶ崎あたりから山頂に雪をかぶった富士山が鮮やかに見える。例年より1週間くらい早い冠雪とのことだ。
驚いたことには大磯あたりで海をみたら、何時もは海原しか見えないのに伊豆大島が大きく見える。空気が澄んでいるのだ。感激だ。さぞ山もきれいだろう!


釣鐘ニンジン

われもこう

アキノキリンソウ

蔓ニンジン

たまあじさい


小田原から大雄山線で民家の軒を掠めるように終点まで行き、バスで道了尊まで行く。花はとっくに終わったがよく手入れされた紫陽花の道が続く。
終点には最乗寺と言う曹洞宗の大伽藍がありそこから登る。最初からバスも随分吹かして登るような勾配の急坂だが、寺の周りには芦ノ湖湖畔の杉に負けないような太い杉が何本もある。
太さの揃った檜林の中を登る。

早くも女房は草花に目をつけ、面白い花だから写真に撮っといてと言うが、娘に上に行けば綺麗なのがあるよと言われ見逃したが、その花は二度と現れなかった。でも、釣鐘ニンジンに始まり写真を沢山撮ることになる。


4月にデジカメを買うまでは、山案内の本に書かれてある予定時間を何分短縮するかが興味の中心だったが、最近は帰ってからPCで写真を見るのも楽しみになってきた。
今回はあれもこれも写したくなり、予定より時間が掛かってしまいそうだ。

登山道は十日に鎌倉に上陸した台風の豪雨で大変に荒れている。土留めが流されているところも度々ある。
林を抜け林道を横断すると見晴らし小屋で、一方向の林は伐採されていて見晴らしが利く。
麓の集落が綺麗に見える。


そこから少し登ると夏は炎天の叢だったがもうススキの野原になっている。
此処ではワレモコウ、萩、ツルニンジン、アキノキリンソウなど手当たり次第に知っている山野草を撮ったが、光線が強いのと、風で草が揺れるのと、しゃがみ込むと息切れがして手が震えるので、ぶれないで撮れるか心配だ(案じた通り、後で見たら“ブレた”写真も多かった)。

やや平坦なその道の突き当たりに神明水と言う、かれる事の無い草木に保有された水が浸出している所がある。今日は団体さんでいっぱいだった。いよいよ此処から始まる更なる急坂にかかった。

少し登り見晴らしの良い所で昼食にした。
眼下は相模湾を一望出来、房総半島も見える。空は抜けるように高く、大満足の景色が広がっていた。むすびを食べながらゆっくり見た。

再び登り始めたころ、犬を連れたおじさんが頂上は富士山がよく見えるよ、すれ違いに言いながら下りていった。
今日は犬を連れた人に合うのは3人目だ。こっちは急坂に結構“ヒイヒイ”言っているのに、散歩気分の人もいるのだ。普通は急な道はジグザクに歩くのだが、此処は直線で道をとっている。距離が神明水から頂上迄1時間位だから良いだろうが、それ以上だと休憩も多くなり嫌気が出ると思う。

野アザミが道端に沢山あり、石につまずいてよろけると、チクチクとズボンの上からでも刺激してくる。
シシウドも夏の盛りにはひときわ背が高く、白い肌を見せていたが、この時期は褐色に萎れてあちこちにある。
玉紫陽花は盛りなのか、元気に咲いている。湯坂道で憶えたホトトギスがある。その時は一本ずつ、またあった!、と言う生え方だったが、ここでは群生してあった。
珍しいものを見た。


花を見ることで苦しさを紛らわせて登っていると、上の方で人声がしてきた。直に頂上だと感じると足取りもしっかりする。両脇の木も途切れ裸の赤土が現れる。硬く踏み固められ滑りそうなのを踏ん張って登ると、頂上直下の見晴らしの良い原っぱだ。

正面に富士山が裾野の下の方まで望め、手前には金時山がこぶを見せ、左に視線を移していくと仙石原から神山の中腹に盛んに煙を噴出している大涌谷がみえる。
更に目を回すと先ほどの相模湾が広々と見える。
この明神ヶ岳には3回半の挑戦だが、初めての快晴でこんな気持ちの良い思いははじめてだ。
箱根には小学校の修学旅行以来三十数回は行っているが、それをあわせても、こんなに晴れたのは初めてである。

強風の冬に湯河原から十国峠に登り、塵の払われた大気の中に、思いの外小さな富士山を見たのに次いで、はっきりと見たのは二回目である。こんな好天ではっきりと富士と海が見えるなんて望外の喜びである。


秋晴れのもとの富士

コンクリートの台に鉄で360度、周囲の海山の名前が書いてある。多少遠くはもやっているが、今日の午前中なら館山の洲崎まで見えただろう。
一息ついて下山にする。


フジアザミ


マツムシソウ


ホトトギス


トリカブト
野アザミの3倍はあると思えるフジアザミ、マツムシソウ、トリカブト、ミズヒキ、と次々とデジカメに収めながら、道を急いだ。
和紙で巻いたトリカブトの根を、藁の灰の中で蒸し、柔らかくなったのを縦に八等分し、日陰で干すと鼈甲色のブシができる。「これ良く停滞した体力を高め、起死回生の薬の材料の一つとなる」とある。紫色の綺麗な花だ。秋も深まるとその色は濃くなる。

ミズヒキもキンミズヒキと言って黄色の花の種類はこれも貴重な薬の材料となる。
こっちは乾燥し刻んだ、いわゆる生薬しか知らなかった。年齢と共に花鳥風月に感ずるようになって来たのだ。


花はそれぞれに美しい。女房が年とともに山野草図鑑等を持って楽しみはじめ、共通点ができた。
明星が岳への道から分かれ、岩がゴロゴロし段差があって飛び降りるような道を通って宮城野に下る。
此処には貫太郎の湯と、町営の宮城野温泉会館があるが、町営の方が空いているので大抵はこちらでゆっくりと温泉につかる。

宮城野のバス停で、明星が岳の下の盆に大文字焼きをする「」の字がはっきり見えた。
晴れたおかげで何回も通っているのに見えない物が見えて、新たな思い出になる。
帰りの電車からも山ぎわが赤く光る富士山のシルエットが大きく見えた。
やはり箱根は東海道線に限る。
2001年9月23日
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