「ジェイムズ」



空には月。
地には花。
隣には、君。



「ジェイムズ」



柔らかな月の光に、白い肌が透けていて、
唇から零れ出る言葉も透明で、
彼女の全ては今、闇に溶けそうになって居りました。


なぜ、天はこのように儚きひとを御創りになったのでしょう。
きっと、誰にも彼女を守りきれる力はないというのに。



ジェイムズは月光に滲むの姿を目に焼き付けて、
ただただ、それだけを考えて居りました。
他の何事にも囚われず。





「ジェイムズは、魔法って信じる?」
「信じるよ」
「ジェイムズはすてきね」
「何が?」
「私は魔法だとか、不思議な力をとても信じているのだけれど、
私の周りのひとたちは、だぁれも信じてくれないの」
「みんな、分からないものは怖いのさ」
「そうね」




薄明かりがまた空から降りて、
辺りの草花に染み込んでゆきました。
ジェイムズとの肌の奥までも、しんしんと。


ジェイムズは少しだけ考えてから、また口を開きました。
「そうか、は魔法を信じるのかい」
「ええ、ほんとうにあると思ってるのよ」
「じゃあ、見せてあげる」


ジェイムズはおもむろに杖を取り出し、
足元の、今はすっかり萎んでしまった花に
そうっと先を触れさせました。
すると、枯れかけていた花弁が淡い光を帯びて、
瞬く間にそれは、月の光を受けた
薄紫の花を咲かせました。


はなにか夢でも見るように、熱を帯びた瞳で
もういちど生まれてきたこの花を見つめて居りました。


「ジェイムズは」
「うん?」
「まほうつかい、なの?」
「そうだよ。本当は内緒なのだけど」


は、絹のような薄紫の花弁を傷つけぬよう、
人差し指の腹で触れてみました。


「やっぱり、ジェイムズはすてき」


薄く笑うはやはりとても儚くて、
笑顔が見られたのに悲しいなんて不思議だな、と
ジェイムズは心の中で呟きました。


でも、本当はジェイムズも分かっているのです。
どうして自分が悲しいのかなんて。




「でもね、僕はまだ未熟だから
を守る力なんて、持っていないんだよ」
「やっぱり、だめなのかな…」


先ほどよりも苦い笑みを浮かべたを見て、
ジェイムズはもっと悲しくなりました。


「いいのよ。お医者様が言ったもの。
私を連れて行こうとする目に見えない何かには、
今は誰も追いつけないんですって。
先になって追いついたとしても、
私はとっくに攫われてしまった後でしょうって」
「何が君を攫っていこうとしているのかすら、
誰にも分からないんだね…」
「分からないのよ」






背後の黒い木立が、ざわりとゆれました。






「やっぱり、分からないものは怖いや」
「うん、怖い」
「だって君はいつか」




そう、きっと
そう遠くない未来




「人間の世界でもなく、魔法の世界でもなく」




誰にも見えないものに攫われて




「別の世界へ行っちゃうんだろう?」


「…そうね」


人間の世界と魔法の世界は、何処かで重なっているけれど
がこれから赴くであろう世界は、
きっと、他の何処とも重なってはいないのでしょう。




「お手紙も、かけないね」
「うん」
「ときどき会ったりも」
「できないよ」
「ジェイムズ。なんで、泣いてるの?」
「悲しいからだよ」



ジェイムズは泣かないようにと、
ずっとずっと、涙をこらえて居りました。


(だって、僕は男の子だもの)


でも、今はどうにも止められないのです。
小さな小さな子供のように、泣きじゃくることを。


「ジェイムズ、泣かないで。
私も、悲しくなってきちゃう…ふぇ…」


ついにはも泣き出して、
二人はわぁわぁと、顔も隠さずに
お互いにしがみついて泣きました。






なぜ、天はこのように儚きひとを御創りになったのでしょう。






「ジェイムズ」
「うん?」
「まだ、私は何処にもいかないよ」
「そうだね」


「まだ、私たちの世界は重なってる?」
「重なってるよ」
「同じ場所にいるよね」
「大丈夫だよ。
も僕も。
まだちゃんと、ここにいるよ」








いつかは、別れを告げる。
この二重世界に。
























なんとも分類しにくい夢。ツッコミ満載。あえて何も言いません。
ジェームズの名前をジェイムズと打ってみたかったんです。
月はむかーしに描いた絵からの使い回し(言わなきゃわかんないのに…)


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