一時間目の授業は魔法史。時に一部の生徒からは、催眠授業とも呼ばれる教科である。 だが、今日のリーマスは催眠の誘惑に強かった。なぜなら、今彼の後ろにいるのはあの少女なのだから。 (…ちゃん) 声は出さず唇だけで、リーマスは覚えたばかりの名前を呼んだ。
迷わずスリザリンのテーブルに向かったシリウスを、リーマスは少なからず羨ましいと思っていた。 それならば自分も行けば良かっただろうにと思ったけれど、彼女に対してシリウスと同じように動くのはどうにも癪で 変な意地を張ってしまった。 どうせなら、あの親友とは違う方法で彼女に彼自身を印象付けたかったのだ。 子供じみた考えだという事は、リーマスにも分かっていた。 魔法史の教授は、まるで自分に講義でもするように授業を進める。生徒などおまけのようなものだ。 黒板に向かい淡々と文字を連ね、呪文のように言葉を紡ぎ、生徒の方は見向きもしない。それ故に魔法史の授業は 生徒達にとって、内職におあつらえ向きの授業だった。どの方向を向いても見えるのは魔法薬学のレポートを書くものや 隣の友人と筆談をするもの、ゆったりと舟を漕ぐものばかりで、真面目にこの授業を受けているものは幾らもいなかった。 どうやら、リーマスの背後に座る少女にも集中力はもう残っていなかったようだ。 「ねぇねぇ」 「リーマス・J・ルーピンだよ」 「あー、ルーピン君」 「リーマスでいいんだよ」 「えと、じゃあリーマス」 ぼそぼそと話しかけてきたの声がくすぐったい気がして、リーマスは思わず顔を綻ばせた。 「あのね、これ」 「え、なに?」 「ブラック君に渡してほしいの」 二つに畳まれた紙の切れ端を持った白い腕が、リーマスの肩の辺りから伸びてきた。受け取る瞬間に触れた手を リーマスは嬉しいと思ったが、それが掴むものは自分宛てではない事に少しばかり落胆した。 友人に少し嫉妬してしまって、それを嫌なことだと思うのに止められない。 「えー…どうしようかなぁ」 「そんなー!お願い、朝ブラック君と約束したの。中身見てもいいから渡しといてー」 「…見ちゃってもいいの?」 「良い良い。むしろ見ちゃって」 リーマスが少しばかり無造作に折られた紙切れを開くと、そこにはイタリック体の文字が流れるように並んでいた。
「何なんだい?」 「お話があるのよ」 何かを含んだ物言いに一瞬身構えるリーマスだったが、次のの台詞に好奇心を煽られて、疑う気持ちはまるで 霧が晴れるようにゆっくりと、リーマスの思考から押し流されていった。 「貴方達が興味を持ってるかもしれないことよ」 「僕達が?」 「そう。あたしも、ね」 先の読めないやりとりをいぶかしんで、怪訝そうな顔をして振り返ったリーマスにはうっすら笑ったままで告げた。 「グリフィンドールとスリザリンの間にある秘密を、貴方は知りたくない?」 ふたつ後ろの席からぼそぼそと聞こえてくるリーマスの声は、夢の世界へと向かうシリウスを現実に引き戻した。 それもこれも、リーマスの声に混じって聞こえてくる、もうひとつの声の所為。 (・かぁ…) 「シリウス、お前・と付き合うつもりか?」 心の中で呟いた言葉が現実に聞こえて、シリウスは慌てて声のした方を向く。 そこには同じ寮のウィリアム・トンプソンが、神妙な顔つきでシリウスの顔を覗き込んでいるのだった。 「なっ、何の話だよビリー」 「だから、スリザリン生とつるむつもりかって聞いてんだ」 普段は血色のよいウィリアムの顔が少し青白く見えることに気付き、シリウスは焦りの気持ちを疑問に変えた。 「あのな、スリザリンって言ってもはちょっと、その、毛色が違うんだ。だから」 「どんな性格してたって、スリザリンはスリザリンだろ!」 有無を言わさぬ物言いに、シリウスは押し黙った。この男は、そこまでに柔軟性のない考えを持っていただろうか? シリウスが沈黙を守っていると、やがてウィリアムがまた口を開いた。 「あのな、聞いたことあるか」 「何をだ?」 「グリフィンドールとスリザリンにまつわる、ひとつの呪いの話だよ」 「呪い?」 グリフィンドールとスリザリンは折り合いが合わない。それはホグワーツの生徒なら誰もが知っている。 だがその双方に良くも悪くも共通点があるというのは、なかなか耳にしない情報だった。 お互いがお互いをよく思っていない、という共通点は別として。 「俺も、去年卒業した先輩から聞いたんだけどさ。あんまり広まってはいないんだ、この噂。 皆信じられなくてあまり口にしないらしいんだけど、呪いは本当にあるんだって言ってた」 「どんな呪いだ」 ほんの刹那、沈黙が流れ。 「…言えないよ」 ウィリアムは固く口を閉ざして、目の前の羊皮紙に視線を戻した。 |
ちょいシリアス路線に進路修正です。 即席オリキャラ君がやけに出張ってるな〜。 ジェームズとかリリーさえ満足に出てないのに…!! n e x t b a c k |