の手紙にあった通り、シリウスはジェームズ、リーマス、ピーター、それにリリーを連れて、図書館の奥までやってきた。 倒れそうなほど高い本棚を背に、一番端の席についていたの顔が見えた。にこりと笑って、こっちこっち、というように唇を動かして 小さく手を振っている。 の屈託のない笑顔に、思わず5人の顔がほころぶ。 …が。 「そこでもって、なんでお前がいる!!」 「何を言うか。僕をここに連れてきたのはだぞ」 「うん、そう」 笑ってばかりもいられなかった。
「わぁわぁ、ホントにみんなで来てくれたんだねー!」 「お…おうよ…」 の向かい側に憮然として座る人物を見た途端、グリフィンドール生達のテンションは一気に急降下した。 まるで、太陽の光を浴びたふわりと暖かい綿が、大雨に打たれて見る影もなくなったかのような変わりようである。 の変わり映えのない口調に答えたシリウスの顔も、流石に引きつっている様子だった。 「…まぁ、座れ」 青天の霹靂とでも言えるだろうか、席を勧めるセブルスが妙に不気味だった。 「でね、早速本題なんだけどね」 全員が席に着いたところで、が声のトーンを急に下げた。そして机の下から、隠し持っていたらしい一冊の薄い本を取り出す。 表紙は少し色褪せた黒で、まわりを金で縁取られている。これといって特別なところはない、普通の本だった。 「これなのよ、秘密ってのは」 はそう囁いて、本を5人の方へ押し出した。 4人は我先にとでもいうようにその小さな本を覗き込み、ピーターは周りに押し出されてやや出遅れた。 セブルスも本の方をちらと見やったが、身体を乗り出すようなことはせず、ただじっとその黒い表紙を見つめていた。 リーマスが本の表紙をそっと捲ってみたが、それは呪いも何もかけられてはおらず、至って普通だった。 否、本としては一風変わっていた。中身がないのだ。ただ縁の少し黄ばんだ、白い紙が束ねられただけの本。 「なぁ、これって俺達の”忍びの地図”みたいなもんか…?」 シリウスが他に聞こえぬよう、ぼそぼそとジェームズに尋ねた。ジェームズはただ、肩をすくめてみせる。 「これ、何も書かれていないよ?呪文を唱えなきゃいけないの?」 リーマスがページを一枚一枚ぱらりと捲ってゆきながら、に尋ねた。 「えっとね、一番最後のページ」 「一番最後?」 内容にばかり気を取られていたリーマスははっとなり、白いページを飛ぶように捲って最後のページを開いた。 途端、どす黒く紅い文字の羅列が目に飛び込んできた。
「…これって?」 「あたしも、本当はよく分かんないんだけど…きっと、あたし達のことを言ってるんじゃないかと思うの」 「どうしてそう思うの?」 羊皮紙の上の紅が血を連想させてリリーは一瞬、その綺麗な弧を描く眉をひそめたが、口元に手を当てたままに尋ねる。 「だってやっぱり、蛇と獅子って…ね。あたしも最初はただの趣味の悪い詩かな、とか思ったんだけど…。 でも噂の事聞いたら、そう思ってもいられなくなっちゃって」 「噂だと?」 今度はセブルスが聞き返す。この話は彼にとって初耳だったようだ。 シリウスはふと、同じ寮の友人の言葉を思い出す。 『俺も、去年卒業した先輩から聞いたんだけどさ。あんまり広まってはいないんだ、この噂。 皆信じられなくてあまり口にしないらしいんだけど、呪いは本当にあるんだって言ってた』 「呪いの噂…か?」 「ブラック君知ってたの?」 「ん…まぁな」 「なんだ?呪いって」 すかさずジェームズが口を挟む。彼にとってもこの噂は初めて聞いたものだったらしい。 「あたし、ホグワーツに来たばっかりの頃この大きい図書室が珍しくってしょうがなかったの。 だからここの本を手当たり次第読みあさったんだ。その時にセブルスとも会ったの。ね、セブ?」 「忘れた」 「まぁ、つれない殿方ね…」 は一瞬よよよと泣きまねをしてみせたが、セブルスの一睨みでまた本題に戻った。 「とにかくこの図書室中、色々見て回ったんだ。本当にもう、奥の奥まで…。そこで、この本を見つけたの」 「その…偶然見つけたの?どうやって?」 ピーターが紙面の字に眩暈を覚えながらぼそぼそと尋ねたが、は首を振った。 「偶然じゃないよ。きっと偶然じゃない。 だってその本…近づいたとき、血のにおいがしたんだもん。 そのにおいのする方を向いたら、その本があった」 その途端、リーマスが何かを嗅ぎつけたように本へと顔を近づけ、最後から一枚前のページを捲った。 一枚前のページの中央には、最後のページと同じ紅で、クロスが描かれていた。 筆らしきもので擦り付けるように描かれているそれは乾いているはずなのに、そのページは何故か水分を含んだように重かった。 リーマスはもう一枚、ページを捲る。そこにも同じ、殴り書きされた様な紅い十字が浮かんでいた。 「…これは、どういう意味?」 「それも…よく分からないの。ただ、噂で聞いたから…。十年くらい前の、グリフィンドール生とスリザリン生の話」 「だから、その噂とは何なのだ。僕は聞いたことがない」 セブルスがやや苛々した口調でに問いただす。 「セブルスはきっと知らないよ…。これは十年前、いなくなった二人の友達だった人達しか知らないんだよ? 校長先生と他の教授たちの計らいで、学校全体にはただ、死亡したとしか公表されなかったみたい」 「死亡…!?でも、…どうして貴女が知ってるの?」 事の起こりが十年前なら、その当時の在校生は今はもう皆卒業してしまっている。しかも編入生としてやってきたがそのように 隠ぺいされてしまった事柄を知るのは、ジェームズ達がその噂を知るより難しいように思える。 「うーん…友達になった同室の子が、”事件”に遭ったスリザリン生の従姉妹でね。 夜中にうなされてたもんだから、あんた一体どうしちゃったのって聞いたんだ。 そしたらその子の従姉妹で八歳上のお姉さんが、グリフィンドール生の恋人と原因不明の死を遂げちゃったんだ、って…。 結構ショックだったみたいで、夢にまで見ちゃったみたい。 ずっとずっと、グリフィンドールと付き合ったからいけなかったんだ…って、呟いてた」 「それが…?」 「蛇と獅子よ、今こそ贖罪を…ってことじゃないのかな」 しばらく、沈黙が全員を包む。 十年前、付き合っていたグリフィンドール生とスリザリン生が謎の死を遂げた。 その事実は公に公表されず、亡くなった二人の知人のみ知るところとなった。 が見つけた血の匂いのする本には、呪詛のようなものが書かれていた。 その呪詛は蛇と獅子に、絆は罪だと警告していた。 これらの事実は不気味な血の糸で繋がれているようで、ただの偶然だと振り払うには、それはあまりにも生々しかった。 「とにかく、これがスリザリンとグリフィンドールにまつわるひとつの秘密だと思うの」 「…」 皆何も言えず、ただ、今は閉じられている本の黒い表紙を見つめた。沈黙の中、シリウスがの後に次いで口を開く。 「…ビリーが…ウィリアムが言ってたのは、この事なのか?スリザリンとは関わるなって…。でもまだ、何も起こってない」 「だってまだ僕達、知り合ってから日が浅いじゃないか。亡くなった二人は恋人だったんだろう?まだ分からないよ」 ジェームズが口を挟む。だが、彼とて出来ることなら信じたくはなかった。互いを知って間もないものの、というこの少女は実に 友好的な人物であって、ジェームズも憎からず思っていたからだ。 「やはり、グリフィンドールと付き合うとロクな事にならないんだ…、帰るぞ」 「セブっ!」 席を外しかけたセブルスのローブの裾を、テーブルを挟んだ向かい側からが力いっぱい引っ張った。 その力にセブルスはなす術もなく、裾を引かれるままテーブルに突っ伏した。 「何をする!」 「だってぇ!まだ分かんないじゃん、つるんだら死ぬとか何とか!だからいろいろ、証拠とかを探すのーっ」 「一人でやれ!僕は知らん」 「そんなぁー、セブちゃん冷たいこと言わないでよー」 ぎゃあぎゃあとセブルスとの口論を繰り広げるが誰かに肩をたたかれ振り返ると、そこにはシリウスの端正な顔があった。 「」 「ブラック君…?」 「シリウスでいい。な、この謎を解くんだろ?面白そうだから、俺でよかったら付き合うぜ」 「でも…」 の顔が、今までとは違う少し心配そうな、気遣うような表情を見せる。 「あたしが勝手に誘ったんだよ?危ないかもしれないのにさ…。もうこれ以上は本気で危ないんじゃないかって思うんだ。だから」 「そんな不確定要素の為に、面白い悪戯友達になりそうな奴を諦めらんねーな」 シリウスはにやりと悪戯仕掛け人の顔で笑ってみせた。そのシリウスにならって、他の悪戯仕掛け人たちも頷く。 ピーターに関しては恐る恐るであったが。 「リリー、僕もこの計画に乗ってみることにするよ。…いいかな?」 「だって止めたって聞かないんでしょ、貴方は…」 そう呟くリリーの顔は穏やかで、ジェームズの全てを肯定しているようだった。 「それにしても」 がおもむろに口を開く。 「これ書いた人、グリフィンドール生だかスリザリン生だか知らないけど、ホントに相手の寮が大嫌いだったんだねぇ」 その場にいた全員の緊張が、止め口を解かれたゴム風船のようにしぼんだ。 「いや、もはや”大嫌い”だとかそういう次元のものではないと思うんだが…」 すかさずセブルスが突っ込むが、その場にいた全員の頭には既にそれぞれ、大泣きしながら手元のぬいぐるみを相手に投げつけるだの 「もう知らない!」などと捨て台詞を吐き乙女走りで走り去るなどといった類の「大嫌い」の想像が展開し、今までの血生臭い話はまるで 軽い世間話だったとでもいうように隅に置かれてしまった。 「怖いよねぇ、そこまで嫌っちゃうなんてさ」 「いや、別に怖くはないぞ…」 そう呟いたシリウスは先程丁度、頭の中で内股で走り去っていく少女の後姿を困ったような顔で見送ったところだった。ある意味現実でも 時に体験することではあるから、想像というよりは実体験に基づいているのかもしれない…とシリウスは半ば自嘲気味に思ったが。 「うんうん、恐ろしいよね…とんでもないことだよ」 ジェームズは青ざめた顔で、頭の中でリリーに投げつけられた本の痛みを思い出し、ややずり落ちた眼鏡を直して少し震えた。 (なんだよジェームズの奴、ファーストネーム呼び捨てかよ…!俺はやっと「ブラック君」から昇格したばっかりだってのに…!!) シリウスは耳ざとくその台詞を聞きつけ、一人心の中で悔しげに叫んだ。 (あの雰囲気を吹き飛ばすこの子って…結構すごい子なんじゃないかしら?いろんな意味で…) リリーはそんなことを考えながら、自分の手のひらを見つめた。 気味の悪い呪詛と噂の所為で一度血の気の引いた白い手のひらは、また少しづつ血を通わせつつあった。 |
三流(以下)ホラー推理小説。生ぬるいギャグ付き。もうこれでこの夢の方向性が決定です。ていうかもう夢じゃない。 さて、ここへきて失敗したな〜と思うことがあります。何って…登場人物多すぎ。 ところどころにいろんな人が出てくるならまだしも、この人たち常に団体行動。う、動かしにくい…!! なんだかこの話すごく間延びしそうな予感…(汗)つーか何よこのノリ!! n e x t b a c k |