わたしは、セブルスが すき。










或 る 平 凡 な 恋 の 話










セブルスの手が、まるでそれこそが魔法のように動いて、何もなかったはずの鍋の中に 深い紺色の液体が
だんだんと出来上がっていく。
ああ、セブルスの手、きれいだな。すこし骨張ってて。指も細長くて。
そんなきれいな手が 魔法薬の調合で荒れていくなんて、って思うと かわいそう。
でも、魔法薬の調合でなければ 彼の手はここまでに優雅には動かない。
彼の手をずっと見ていたいけど、怪我なんかはして欲しくない。
ちょっと、ふくざつ。

たまにしかない、スリザリンとハッフルパフの合同授業。
教室がいつもより混み合って、なかなか彼の姿を見ることはできないけれど、今日みたいな幸運な日は
彼が隣にいて、一緒に魔法薬の調合なんてできたりするの。夢みたい。

、そこの薬草を鍋に」
名前も呼んでもらえる。いつもは、後姿を見るので精一杯なのに。
どうしよう、幸せ。
でも、いつでもぼぅっとしてる奴だなんて、思われたくない。せっかくの機会だから、ちょっといいとこ見せたいな。
そう思って返事をして、自分にしてはいつもよりきびきびと、薬の材料を鍋に入れていく。
よかった。私、セブルスの邪魔になること してないみたい。まだ、彼の眉間に皺が寄ってないから。
顔は無表情。だけど、そこに時々見える うすい、うすい感情の変化が、大っぴらに見せられる表情なんかよりも
ずっと壊れやすくて、とても貴重な気がして すき。
でもやっぱり、口に出しては言えないの。もどかしい。

「ねぇ、セブルス」
私達の前の席にいた女の子が振り返って、セブルスに声をかけた。さらさら栗毛の、スリザリンのかわいい子。
途端に、泣きそうなくらい落ち込んでしまった。
知っていたから。この子がよく、セブルスのこと見てるの。だって、私もそうだもの。

「後で、ちょっとお話がしたいの。いいでしょ?」
そう言って、頬を染めて にこりと笑う。ああ、きっとセブルスに 告白…するんだ。
どうやったらそんな風に、かわいく笑えるの?どうやったらそんな風に、勇気を出せるの?
「別に構わないが…」

知っても、もうきっと 間に合わないけど。





その後はできるだけ、スリザリン生のいそうなところを避けて通った。
セブルスが告白されるとこ、見たくないから。あの子がセブルスに 好き、つきあって というのを、聞きたくないから。
ああでも、こんなときに限って。普段は姿を見たくても、滅多に出会ったりできないのに。
どうしてセブルスとあの子は、私と同じ廊下にいるのですか?
かみさま。
今朝のすてきな出来事は、私への最後の哀れみだったのかしら。
恋愛努力賞。粗品を進呈いたします。
私の恋は、それで終わりなのかしら。

そばの壁に背中をつけて、そのまま ずるずると座り込んだ。
走り去ってしまいたかったのに、やりきれなくて 怖くて そこから動けなかった。足が 自分のじゃないみたい。
せめて、耳を両手でしっかりと塞ぐ。これで、何も聞こえない。
あの子の紡ぐ愛のことばも、セブルスの返事も。


きっとすべての恋愛は、結果だけで成り立っているのね。
ずっと見ているけれど、告白なんて大それたこと、できなくて。
そのうち、自分よりもすてきで 勇気のある人が現れて、その思いを彼に はっきりと伝えてしまう。
もしそれが、成功したら?
後からいくら自分が わたしはあなたのこと、こんなにも好きでした、ずっと見ていました と言っても。
たとえ告白した子よりもっと長い間、彼を見つめていたとしても。
きっとそれだけでは、彼の一番にはなれない。
彼はきっと それがどうした と思ってしまうに違いない。しつこい女だとすら、思われてしまうかも。
好きだから…それだけでは、成り立たない。

(わかってる、けど…)

すき ってだけじゃ、だめなのかな?


両耳を塞いだまま、ぼろぼろと涙をこぼした。手が使えないから、膝にかかったローブに 顔を押し付ける。
セブルスはきっと、めそめそ泣く女の子なんて 好きじゃないから。そう思って、何があっても ずっと泣かずにいた。
でも今だけは、いくら顔をローブに埋めても 止まらない。

ねえ、止まって。止まってよ。

そう心の中で繰り返していたら、ふと 周りが暗くなったような気がした。
びっくりして顔を上げると、私の前にはセブルスが立っていた。
逆光で顔は見えないけれど、それでもセブルスと分かってしまう。よく見てたものね、と 心の中で苦笑いした。
今の私は少なくとも、涙に濡れた美少女の顔なんて していない。きっと、笑っちゃうくらいひどい顔。
そんな顔をセブルスに見られるのは とても恥ずかしかったけれど、なんだか 顔を背けられなかった。

…か?こんな所で何してる」
「スネイプ君…」

戸惑ってる声色。そうよね、こんなところで人がうずくまってたら、誰だってびっくりする。
それよりも…彼は私の名前を覚えてくれていたの?
きっと今、彼はもう他の人のものだろうに、2人こうしていることを 嬉しい、と思う。諦めきれない。
でも、あの子の姿はセブルスの隣にない。

「あ…あの子は…?」
「あの子だと?…今の、見てたのか」
「あ…」
はなんて莫迦な子。自分でばらしてしまうなんて。
「あの、べつに、見るつもりはなかった、の。ごめん、ね。でも、お話はその…き、聞いてない、から」
声が震えてしまう。かっこ悪い。顔もきっと、ぐしゃぐしゃになっているし。

彼は困ったように溜め息をつくと、耳を塞ぐために力を入れすぎて 痛くなってしまった私の手を取った。
「スネイプ、くん…?」
「泣いている女子を放って歩き去るなど、出来んだろうが」
そのまま私を立たせて、ハッフルパフ寮の方向へ 彼は歩き出した。手は、握ったまま。

…言っておくが」
セブルスが、歩きながら ぽつりと呟いた。
「さっきのは別に、何でもないからな」
「え?」
「まだ、彼女は作らんと言っているのだ」
彼はものすごい早口で言いきったきり、それ以上、何も喋らなかった。
それでも、手は握ったまま。

「そうなの…」

まだ、希望はあるのかな?




自分の部屋に戻って、ベッドに仰向けに寝転がる。
セブルスの、少し低めの体温が まだ、手の中に残っている。
その手をぎゅっと胸に抱いたら、また涙が出てきた。さっきの悲しい涙とは ちがう涙。

まだ、がんばれる。
勇気を出すためのチャンスは まだ、この手にある。
だってこの手は、まだ 幸せな熱を失っていない。


こんな私のところへ来てくれた幸福に、ありがとう。
そう祈って、くしゃくしゃの顔で笑った。
















ものすごく素直になって書いてみようとしました。なんか読みにくくてイマイチだけど…。
派手なところはないけど、素直に相手を好きだと思うヒロインが書きたくて。
なんとなくハッフルパフ〜な雰囲気だったので、ハッフルパフ生にしました。
最初はスリザリンかグリフィンドールにしようかとも思ったけど、なんとなくしっくりこなかったので…。
セブルス好きです。一度気を許せばずっと一緒にいてくれそう。


b a c k